39.筧の命令と、相葉の選択
『――相葉さん』
遠く、爆炎を見る相葉に、天城の声は言った。
『これ以上戦場にとどまっていても、徒に危機の中に身を置くばかりです。早急に離脱してください』
相葉はすぐには応じなかった。唇を引き結び、本部の方を見据えている。
『相葉さん――』
『――こちら筧。旧派全生存者に告ぐ』
不意に、天城の言葉を遮るようにして音が入った。耳に――通信機だ。
すっかり死んでいると思っていた回線から、声が入る。筧の声。
筧は、生きていた。
『既に周知のこととは思うが、先程前線を突破した超能力者によって本部が襲撃を受けた。被害状況は未知数だが、過去最大規模と見える。総長、副長他本部残留者の生死は不明、急襲した超能力者の生死も不明だ。そこで、私は旧七課七班班長として、ここに総員へ命令する――』
止まぬ銃声と風鳴りを背景に、筧は決然と言った。
『機関七課は事実上壊滅した。これ以上の戦闘は無意味である! よって私はここに、旧派の解散と戦線からの離脱を命令する』
それは、筧からの、あまりにも明白な敗戦宣言だった。
『脱出後のそれぞれの道は問わない。再び集結して再起を窺うもよし、戦乱のない世界に戻ることもよしだ。とにかく現状からは離脱しろ。命あっての物種だ――』
「天城さん」
未だ筧の言葉の続く中、末尾まで聞くのを待たず相葉は言った。
『――はい』
「あんたは感応の能力者なんだよな。それなら、筧さんの居場所はわかるか」
有無を言わさぬ語勢に、天城はやや躊躇うような間を置いたが、すぐに観念したように吐息交じりに頷きの声を返した。
『……ええ、おおよその位置でしかありませんが、それでもよければ』
「案内してくれ」
辺りを素早く見回し、落ちていたサブマシンガンを拾い上げる。手早く動作確認をしていく相葉に、天城の声が低いトーンで響く。
『……逃げないのですか?』
「逃げない。少なくとも、俺ひとりでは」
簡潔に答え、確認を終えた銃を首から下げ、固定する。そしてなおも言葉を探している雰囲気の天城に、相葉は言った。
わかってるんだろう? と。
「感応の能力者。つまり心を読めるっていうあんたなら、俺が何を考えているのか」
『…………』
「俺よりも長く、深く、生き残るために戦い続けて生きた奴がいる――そいつらより先んじて、俺だけが逃げることなんてできない」
『……その方たちが、望んで死地に向かうとしても?』
「そのときは、俺も一緒に行く。そして、生き残ってみせる」
決然と言い、さあ、と促す相葉に、やがて天城は深いため息を寄越した。
『……わかりました。では、氣境さんにもついて行ってもらいます。いざとなったら氣境さんに、力づくでも連れ帰ってもらいますよ。恩人を見殺しにすることは、できませんから』
天城の言葉に、相葉は氣境を見るも、氣境は軽く肩をすくめて返すのみだ。
悪いな、と言うと、別に、と氣境は愛想なく言った。
「遥風さんの頼みだ、俺が断る是非はない――だから万が一のときには、お前を半殺しにしてでも持って帰るぞ」
「ああ、頼む」
『半殺しはさすがに困りますが……とにかく、御案内します。そう遠く離れてはいません。急いでください』
ああ、と頷いて、相葉は氣境とともに走り始める。
全軍に逃げることを命じながら、己の進退を明言しなかった班長のもとへ。
そしてそこにはきっと、班長だけではない。
『ダブルトリガー』も、そろっているはずだ。




