36.救い手
はっと意識を取り戻すと、まず初めに空が見えた。
瞬き、次いで首を巡らせて己の手を見る。握り、開く。それから徐々に全身を知覚していく。どうやら五体に不足はなかった。
相葉は生きていた。
どういうことだ、と記憶を探る。
相葉は綿池らとともに筧の指定した合流地点にやって来た。だがそこには筧はおろか人影のひとつもなく、やがて綿池らは警戒は怠らないながらも歩を進め、そこに前線を突破したと思わしき超能力者が突進してきた。相葉も、寸前で気付きはしたものの能力の範囲から逃れることができず、巻き添えになっていた、はずだった。
記憶を探ると蘇る。
インパクトの瞬間、が物質を『粉塵』に変えるらしきあの能力にあったかは不明だが、その瞬間に相葉は、背後から何かの力によって強引に引かれ、爪先を掠めるほどギリギリではあったものの死を免れたのだった。だがその、全身を脱臼せんばかりの勢いのまま後方へ放り投げられたため、全身をしたたかに撃ち、どれほど長くかはわからないが気を失っていたのだ。
ゆっくりと、身を起こす。つい先程まで自分と、綿池たちがいた空間を目にする。
そこには、何もなかった。
蟲、と表現したのは、実のところかなり的を射ていたのかもしれない。まるで巨大な節足動物が這いずり喰い進んだかのように、半球状に抉れた地面が道となり、さらに続いている。
何も、なかった。
瓦礫も、合流地点も。
綿池らの何もかも、一切が。
「…………」
言葉を失ってその光景を見ていた相葉の背後に、誰かが立つ気配があった。しかし今度ばかりは咄嗟に応戦の態勢を取ることもできず、バカのように呆然と首を巡らせ、見上げる。
「ようやく目覚めたか」
そこに立っていたのは、筧でも久坂でもなく、そもそも機関七課の人間ですらなく――気境・凌士だった。




