33.動乱の始まり
戦況は、およそ拮抗していると言えた。超能力者たちの異能と、機関七課兵士たちの物量。超能力による攻撃は、ともすれば十人単位で潰されかねないが、それを上回る人員と弾幕が、戦場を硬直させていた。
敵の目的は、機関七課本部の襲撃と壊滅。対する機関七課の勝利条件は、本部の防衛と超能力者の殲滅。
防衛ラインは、微小な前後はあれども一線を保たれている。そのラインへ向かって、両軍ともに進撃する。
相葉も、戦闘の合間を縫うように走りながらそのラインへ迫っていく。そのさなか――点々と繰り広げられている戦闘に、相葉はわずかな違和感を得つつあった。
……何か、おかしい。
何がおかしいのかは、わからない――けれど、何か。わずかに……そう、偏りが。
偏り?
違和感の正体に気が付きかけたとき、相葉はちょうど防衛ライン、最激戦地帯にまで到達していた。そのとき――
通信機が鳴る。
『こちら筧だ。前線に展開している全兵士に告ぐ。警戒しろ。後方から――』
『――こちら本部、岸田だ。改革派全部隊に命じる。総員、手筈通りに進撃を開始せよ』
……岸田副長?
疑問に思ったのは、相葉だけではあるまい。先に入ってきていた筧からの通信を遮るかのように、急に入ってきた岸田の言葉だ。さらには、いつになく焦りのような色のあった筧の声と、
……改革派、って何だ。
岸田副長の、聞きなれない言葉。
ザ、という雑音を挟むと、
『ちょっと、コヒメちゃん!? 今の何!? 岸田のオッサン何言ってるの!? それに――』
銃撃を背景に、今度こそ明らかに焦燥の籠もった久坂の声。その色のまま、久坂が通信機に向かって怒鳴るのは、
『後ろから来た味方部隊が、何かこっちもまとめて攻撃してきてるんだけど! 何これ、どういうこと!?』
その悲鳴を最後に、全通信が途切れた。
味方の、攻撃。
……同士討ちか?
いや、違う――相葉は咄嗟に手近な物陰に身を潜め、周囲を警戒しつつ考える。
筧は『後方から』と言った。それは恐らく、久坂が悲鳴を上げたそれと同じだろう。
岸田の突然入れた通信。改革派とは。その通信に前後して、何かがあった。恐らくは、挟撃。
岸田が超能力者側と結託したのか?
いや、それも恐らく違うだろう。久坂は『こっちもまとめて』と言っていた。それは超能力者らも、筧や久坂らも区別なく攻撃してきているということだろう。どうやら相葉の付近には『そちら側』の人間はいないようだが。
……『そちら側』。
そちら側とは、どちら側だ。
改革派。岸田は確かそう言っていた。改革派とは何だ。
わからない。判断できない。
通信機を調節するも、聞こえてくるのはノイズばかり――いや、ひとつ大きな雑音を最後に、音が戻ってきた。
筧だ。
『――前線に立つ全兵員に告ぐ。先程の通信から、岸田副長による反乱が確認された。これより改革派と称する岸田副長側勢力を新派、これ以外を旧派と呼称することとする。新派の攻撃対象は超能力者と旧派。新派は何らかの判断で我々を判別していると思われるが、こちら側からの判断は困難である。――従って、これより旧派全部隊を招集する。この通信を受け取っているものはポイント7822に即刻集え。なお、この通信は私があらかじめ設定していた非常用秘匿通信のため、旧派にしか電波していない。繰り返す――』
つい先程まであった焦燥を微塵も感じさせず、筧は淀みなく二度繰り返すと、反問の暇を残すことなく通信を切った。あとはどれほど回線を調節してもノイズばかりである。あらかじめ設定していた、と筧は言ったが、つまりは筧も何かしらの事態を予測していた、ということだろう。旧派にしか電波していないとも言っていたものの、さすがにそれは額面通りには信じられないが……。
「……行ってみるしかない、か」
天城の言っていた、もうひとつの不穏。
機関七課内部での波乱。
これがそうなのか、あるいは違うのか。その判断も、今の相葉ひとりではできない。
とにかく、指示されたポイントへ。
相葉は周囲をもう一度油断なく見渡すと、動くもののないことを確認し、走り出した。




