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Blood/Bullet/Parade  作者: FRIDAY
壱 Baffle/Bottom/Bound
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02.セーラー服とスナイパーライフル

 ある朝のことだった。何の変哲もないような朝だった。

 相葉は登校中だった。家から駅五つ離れたところにある高校まで、電車で登校する途上だった。


 通勤ラッシュの時間帯だ。電車内も、ホームも、改札も、駅も、駅周辺も隙間なく混み合い、人の頭がうごめく時間帯である。昨日も、一昨日も、その前も、高校に入学してから二年間、全く変わり映えのない景色である。彼はその中を、昨日までと同じように歩いていく。――いや、わずかに違う。


 いつもの彼なら、その雑踏の中を、肩から鞄を提げ、両の耳にイヤホンを嵌め、好きでも嫌いでもない音楽を流しながら、俯き、足元を茫洋ぼうようと眺めながら歩いていた――音楽を垂れ流しているところまでは同じだった。愛だの恋だのを漫然と喚く、どこにでもいるような特徴のないアーティスト。けれど、この日の彼は視線の高さだけが違った。


 前を、向いていたのだ。


 それは本当にささやかな違いだった。何の理由もなく、何の意味もなく、偶然、たまたま、顔を上げていただけ――ただ、このときばかりは運が悪かった。


 運が、悪かったのだ。

 決して前を見て歩くべきではなかった。

 その日、彼が視線を上げていたのは、ただの偶然だったのだ。

 しかし、その偶然から導かれる結果は、ことごとくが必然だった。


 雑踏から、うごめく人々の頭から突き抜けた、銃身。

 黒光りするそれは、どう見ても、


 ……ライフル?


 通勤通学時間に見かけるものでは、決してあるまい。だからこそ、注目してしまう。

 何だそれは、と。

 次いで視線を移してしまうのは、当然のこと、その所有者である。


 そのライフルを負うのは、学生服を着込んだ少女だった。

 纏う雰囲気から判断して、中学生ではあるまい。ならば高校生だろう。


 長銃を背負った女子高生。


 それ以外は、見たところ普通の女子高生だ――学生鞄を肩から提げ、スマートフォンをいじりながら歩いている。だが、その年頃なら本来、テニスラケットや弓などが納まるべき背にあるのは、抜き身の銃だった。詳細な名称や種類はわからない。彼にわかるのは、それがライフルであるというだけだった。


 モデルガンか? 一般常識に従って、まず彼はそう考える。あの女子高生はミリタリーが好きな人で、その一環として銃を背負っていて、今日もその活動がある、とか。

 だがモデルガンとしては、その銃は遠目に見ても、質感が違った。

 あまりにしんに迫っていた。


 無論、生まれてかた十七年、彼は本物の銃など見たことはない。モデルガンにだって触れる機会はなかったのだ。だがそんな彼が見ても、その銃はあまりにも本物らし過ぎた。

 しかしそれにしては――誰も、周囲にいる膨大な人間の誰ひとりとして、彼以外の誰も、それに注意を払っていないのが奇妙だった。


 見慣れている? そんなはずはない。恐らく他の全員がそうであるように、彼も毎日この時間にこの道を通っているのだ。そんなものを身に着けて歩いている人物など、一度として見かけたことはなかった。


 一体、何なのだろう。

 その疑問が、運命の分かれ目だった。


「……ん」


 ふと気が付くと、視界が広くなっていた。

 もっと言えば、見通しが良くなっている――どういうことか。

 思わず足を止め、耳に埋めていたイヤホンを引き抜く。大した音量設定ではないにも関わらず、チャカチャカと漏れる音が聴こえる。


 他に何も音がないからだ。

 静寂。耳が痛くなるほどの無音。

 なぜか。


 それは、今の今まで間断なく鳴り響き続けていた音源の全てが、失せたからだ。


 音源。

 人だ。


 一瞬のことだった。彼が少女に気を取られているただの一瞬に、まるで蒸発でもしたかのように、数百数千と入り乱れていた人々が、消失した。

「…………!?」


 何が起こったのかわからない。わからないから、動けない。そうしている間にも、刻一刻と事態は悪くなっていくというのに。


「――うん、了解了解。結界の発動を確認。通信機も感度良好。装備も全部ついてきてるよ」


 声が聴こえた。若い、女声だ。

 誰かと言えば他でもない、先程まで彼が注視してしまっていた女子高生である。彼と彼女の他には、周囲一帯に誰もいない。だから、彼女は誰かと対面して話しているわけではなく、耳元に手を添えていることから電話でもしているのか――それにしては電話機らしきものも見えない――特に大きな声でもなかったが、他に音がないためかよく聞こえた。


「――そう、うん――わかってる。……大丈夫だよ、コヒメちゃん。作戦もちゃんと覚えてる。復唱しようか? 時間ないけど。――うん。時間ないからね。この区域の受け持ちは私と、シンタロウで、部外者も――え、後ろ?」


 少女が、振り向いた。


 ガシャ、と全身の武装が鳴った。――人ごみを失って見通しのよくなった今ではよく見える。少女の武装は背に負ったライフルだけではなかった。両の腰横に拳銃を一丁ずつ、腰裏にも軽機関銃をぶら下げている。サバイバルゲームにしては、重装備過ぎる――いや、それ以外にも、銃器以外の装備がない。平たく言うところの防備がない。着ているものも制服だし……攻撃にばかり寄っていて、ちぐはぐだ。ますますわからない。


 いや、それよりもっと重要なのは少女の姿ではない。

 その少女が、振り向いたことだ。

 振り向いて、こちらを認識してしまったことだ。


「――おやおや」


 彼女は彼を見て、ちょっと驚いたような顔になった。

 これが、完全な手遅れの一手である。


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