第2話 沈黙
隼人……。隼人だよね……?
「隼人」という名前が、頭の中でぐるぐると回っていた。
「葉月、大丈夫? 気分悪いとか?」
気づけば宙が心配そうな顔で、私の顔を覗き込んでいた。
「ねぇ、今……気づいた……?」
私はとっさに、宙に聞いた。
「え? ごめん、何も気づかなかった。何?」
宙は困ったような顔をしていた。
すれ違った。しかも至近距離で。
それなのに、宙は気づいていない。
隼人とはあんなに仲が良かったのに。
もしかして、私の勘違い?
「あっ、もしかしたら、私の勘違いかもしれないんだけど……」
私は一呼吸してから、あの名前を口にした。
「今すれ違ったの、隼人じゃなかった……?」
宙の顔が、明らかに曇った。
沈黙が続く。
人通りもない。
私たちのいる階段は、静まり返っている。
「葉月……何言ってんの。あいつがここにいるわけないじゃん」
宙は明るく笑った。
でも、顔が少し引きつっている。
宙は私の隣に来て、私の肩をポンと叩いた。
「疲れてるんじゃない? 大丈夫?」
宙は優しい言葉をかけてくれた。
それなのに、私は、感情的になって、もう抑えられなかった。
「あれは絶対に隼人だよ! 私にはわかるよ」
「落ち着けって……」
宙が私に向き合おうとしたけど、私は後ろを向いて、上がって来た階段を下り始めた。
「私、確かめてくる……。隼人だったとしたら、会いたいから」
でも、私の足は止まってしまった。
宙の腕が、強く私を止めていた。
「宙、離して……?」
「行かないでよ。行かせたくない」
私は宙に後ろから抱きしめられた。
宙の声が耳元で聞こえて、私は緊張した。
「葉月が、隼人がいなくなったことで、どれだけ辛い思いをしてたのか、俺は知ってるつもりだよ」
宙の声は、優しく伝わってくる。
「会いたい気持ちもわかる。俺だって、隼人に聞きたいことは山ほどある」
優しい声で、私の気持ちはいくらか落ち着いていた。
「でも、俺さ、葉月の彼氏じゃん。行かせたくないって、思っちゃうんだよ」
「今は……、せめて今は、行かないでよ」
私は何度も頷いた。
宙の気持ちを、考えてなかった。
宙を、悲しませてしまった。
「……宙、私、ほんとにごめん」
宙は優しく頷いていた。
宙と並んで、私は教室に向かい、それぞれの教室に入った。
宙は、私が苦しかった時に、支えてくれた。
宙には、本当に感謝している。悲しませたくはない。
それでも、私は心のどこかで、あの男子生徒が隼人であってほしいと願っていた。
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新しい教室。
新しい風景。
教室入って来たのは、新しい先生。
そして。
「工藤隼人です。よろしく」
新しいクラスメイト。