茱萸の樹
冬になって、
サンシュユの実が道に零れ始めた。
うさぎの目のように
赤く潰れやすい宝石は、
三日もするとカラカラに乾いてしまった。
何が心を蝕んでいるのだろう。
いつも同じところで躓くのだ。
僕の心と身体は鎖のように重い。
そこから生まれる感情も言動も、
鉛のように重い。
生まれた時から、
運命というものは決まっているのだろう。
そして生まれることも運命の一種だ。
自ら望んで生まれてきた人間なんていない。
どんな環境に身を置くことになるのか
どうやって育てられるのか
すべて、子供たちは選ぶことはできない。
与えられるもの全てを受け入れるしか
生きていく術はないのだ。
子供の頃、グミの木というものを
本で見たことがある。
こんな美しい、赤い、
可愛らしい名前の植物を、
一生のうちに見ることがあるのか。
そう考えた。
二十一歳の冬、
あまりにも近い普通の場所で、
僕はグミの木に出会うことになる。
本には実の写真しか載っておらず、
葉の形も知らず、名前も花も違うその木を
冬が来て実をつけるまで
気付かなかったのだ。
全部、同じようなものなのだ。
楽園も神様も、名前や姿を変えて
いつもすぐそばにいる。
僕はいつもそれに気付かず
踏みつけて壊してしまう。
落ちてカラカラに乾いたその実は
僕が取り零した正しい運命たちだ。