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テンタクル・プリンセス-或いは、特異触手個体のこと  作者: にゃー
第二章<学習編>

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第八話 スライムに学ぶ

 目の前の、流動性のある体をゆっくりと蠢かせるそれを、触手で恐る恐るつついてみる。


 つん、つん。


 びくっ。


 あ、反応した。

 弱っているわけではなさそうだし、元々そんなに活発な生き物じゃないのかな…?


「…ああ……!若干怖がりながら突っつくミーニャもかわいい……!」


隣で何事か呟いているセレナの言葉も耳に入らないほど、私は目の前にいる不定形の魔物―スライムに釘づけだった。








 セレナが連れ帰ってきたスライムは、ちょうど彼女の頭くらいの大きさの、平均よりやや小さめらしい個体。水色で、半透明で、どこが頭でどこがお尻なのやら見当もつかない生き物。いや、触手種()も似たようなものだけれど。見たところ、触手種にあるような核のようなものも見当たらないし、本当に不定形種の大元みたいな存在なのだろう。


 セレナ曰く、今日一日だけという条件で持ち帰りが許されたそれは、夜には村で処分(・・)されてしまうそうだ。であれば、日が暮れるまでに何としても形質変化のコツを聞きださねばなるまい。


 とはいえ相手は言葉を解さない(寡黙な)スライム種、馬鹿正直に「教えてくれ」と聞いたところでなにも答えはしないだろう。というか私は喋れない。

 そんなわけで、直接体に聞いてみよう……と先ほどから軽くつついてはみるのだが、スライムは時折少し体を震わせるのみで、それ以外は特に目立った反応を示さない。



……うーむ、刺激が弱いのかな…?


5本くらいでズボッといっちゃう?



なんて考えながら、触手でスライムの体中を撫でまわしていた私は、やがてあることに気付いた。


 スライムから、養分を摂取できない。

 よくよく考えてみれば、スライムは全身が液体のようなものなのだから、迂闊に触手種()が触れば身体全体を吸収してしまう恐れもあったと思うのだが、この不定形の輩は、さっきから触手で触られまくっているにもかかわらず、まるで何ともなさそうにしている。


 性別の問題?スライムはオスでもメスでもないというから、私の体はこれを養分と見なさなかったとか?



そもそも、スライムのそれは『体液』なのか『液体の身体』なのか……いや、まずその2つに違いはあるのか。

…ううむ、謎だ。スライム、予想以上に謎な生き物だ……奥が深い…


…………


……ってあれ?

それを言ったら近縁種である触手種()の体だって、何でできてるかよく分からなくない?


 摂取した体液?勿論、養分として吸収している以上、体を構成するものの一つではあるのだろうけど。いやでもあれはあくまで液体であって、確かに私の体はぐにゃぐにゃだけど、それでもちゃんとした形がある、個体だ。多分。


 スライムだって、私以上にぐにゃんぐにゃんだけど、それでも地面に染み込んでいったりしないという事は、恐らく完全な液体というけではない……のだと思う。


 という事は、私たちの体には、私たち不定形種をかろうじて個体足らしめる何かがあるはずだ。


何か。何か。忘れていることはないか。セレナは何か言ってなかったか。本には何と書いてあった?


何かないか。スライムと触手種()、スライムと触手種()、スライムと触手種()


スライムは魔物で触手種()は魔獣。スライムは魔物で触手種()は魔獣……


…って、同じ不定形種なのに魔物と魔獣で分けられてるの?そもそも魔物と魔獣の違いって何?私獣っぽくはないよ?



 まずい、考えれば考えるほど疑問が増えていく。




 そもそもは形質変化の方法を知ろうとしていたはずなのに、どうしてか私の思考はどんどんおかしな方向へ進んでいき、いつの間にか『自分とは何なのか』というやたらと壮大な疑問について考え込んでしまっていた。


…一度考え込むと、自分の知らない方へ、知らない方へと思考が流れていってしまうのは、私の悪い癖かもしれない。この前も、セレナが時折浮かべる変な笑顔を何と呼べばよいのかと考えていたはずなのに、いつの間にか『人族はなぜ表情を盛んに変化させるのか』という疑問に行きついてしまっていたし。



 と、とにかく今は、スライムがどうやって身体を変化をさせているのか、それを解明することを第一に考えなければ。期限は今日の夜、セレナが集落へ戻ってしまう時までしかないのだ。


 とりあえず、一度体が変化する様子を見なければ始まらないだろう。という事で私は、スライムに少々強めの刺激を与えるため、一本の触手を大きく振りかぶる。


「わ、潰しちゃうの?……結構容赦ないね……でも、そんなクールなミーニャも素敵!」


 いや、別にそこまでするつもりはない……というか最近のセレナは、私が何をやっても嬉しそうにしている気がする。正直たまにちょっと怖い……ちょっとだけ、だけど。


 私がスライムを殺そうとしているように見えたのか、一瞬驚き、そしてすぐにいつもの変な笑顔に戻ったセレナは、しかしそこではたと何かを思い出したかのような顔をし、それから再び笑み―よく見る変な笑みではなく、どことなく得意げな雰囲気が漂うそれ―を浮かべて私に話しかけてきた。セレナ百面相である。


「そういえば知ってる?オークとかの魔獣は、動物と同じで死体が残るんだけど、スライムみたいな魔物は死体が残らないんだよ?」


ほう、魔物と魔獣の違い……っとあぶない、また思考が別方向に逸れるところだった。


「なんでも、魔力だけで作られている魔物の体は、死んだら形を保てなくなるんだって。私てっきり、魔物も動物や魔獣なんかと同じで、死体が残るんだと思ってたよー」


中々興味深い話だけど、悪いけど今はそんなことよりこのスライムを――



――あれ?今何か、すごく大事なことを言っていたような気がする。



「スライム討伐の時に冒険者さんから色々教えてもらったんだー。どう?知らなかったでしょ」


 それは、私の情報源はほとんどセレナだけなんだから、セレナの知らなかったことは私にも知る由もないのだけれど、そんなことより今の言葉。




『魔力だけで形作られている魔物の体』




え?魔物って、体が魔力でできてるの?

だからそのまんま『魔物』なの?



目の前にあるスライムの、液体だと思っていたこの体は、全て魔力で形作られているという事?



……驚いた。『魔力』というのは、そこまで万能な力だったのか。






 セレナは私に毎日話しかける中で、当然魔法や魔力についても教えてくれたのだけれど、私にはそれがどういうものなのか今一つよく分かっていなかった。


 色々なことができる力、『魔力』。


 その魔力を操るための、人族にしか扱えない手法、『魔法』。



 私の、魔力や魔法に関する理解なんて、こんな程度だ。何せ私は、魔力というのがどういったものなのか、話を聞くだけでは全く分からなかったのだから。人族や、あるいは精霊族なんかは魔力を感じ取ることができるらしいのだけれど、私はそのような得体の知れないものを感じ取れたことは、一度もない。精々が、近づいてくる生き物の気配から、なんとなく性別が分かるくらいだが、これは魔力とは関係ないだろう。



 魔力というものを全く意識していなかったからこそ、魔物の体が魔力でできているなんて、私には想像もつかなかった。しかし、言われてみればそうはそうだ。魔力の『魔』に生き物の『物』で、『魔物』。そのまんまである。



 まぁとりあえず、セレナの言葉から、スライムの体が魔力だけで構成されていることは分かった。であれば、スライムの形質変化は、自身の魔力を操作した結果、という事になるのだろうか。

…それって魔法では?魔法は人族にしか扱えないのではなかっただろうか。

これに関しても凄く気になるところだが、今は置いておこう。


 大事なのは、魔獣にも何らかの形で魔力が関わっているのか、という事だ。いや恐らく関わりはあるだろう。魔法の『魔』に『獣』で『魔獣』だ。これで無かったら名前を考えた人物に文句を言わざるをえない。


 セレナは『魔力だけで作られている魔物の体は、死んだら形を保てなくなる』、『魔獣は、動物と同じで死体が残る』といっていた。

 死体が残るという事は、少なくとも魔獣の体は魔力のみで構成されているわけではない。魔力と物質が混ざり合った物でできているのか、或いは体を形作る以外の何らかの要素として魔力が関わっているのか、その辺は分からないが、今重要なのはそこではない。


 以前セレナから聞いた。自分の事だ、よく覚えている。


『触手種は、その性質は限りなく魔物に近い』。


そして、それと同時に、


『触手種とスライム種はどちらも不定形種に属し、近縁種である』。



ならば、この体は。魔獣でありながら、限りなく魔物に近く。スライムほどではないがぐにょぐにょな、私の体は。



――スライムと同様に、魔力でできているのではないか。




 この事実に気付いてしまえば、体の形質変化の方法など分かったも同然だ。

私の目の前で今だ、ぐにょんぐにょんに蠢ているスライムと同じように、自身の魔力を操作すればよいのだから――!










――そういえば私、魔力とか感知すらできないんだった。


いやぁ、うっかりうっかり。





……どうしよ…










 結局その後私は、八つ当たりのように叩き付けられた触手に反応して硬くなったり薄くなったりするスライムの様子を、暗くなり始めセレナが村に戻ろうとする直前まで観察していた。


「じゃあ、私はそろそろ戻るね。今日は楽しかった?」


 楽しかったかはともかく、色々と役には立った…と思う。難題が増えたともいうけど。

とりあえず感謝はしているので、触手をめいっぱいうねうねさせておいた。


「そっかそっか。良かった良かった」


セレナは満足げな表情でしきりに頷いているけど、正直、今のうねうねでいったい何が伝わったというのだろうか。




「よっこいしょっと……。じゃあ、また明日ねー」


スライムが押し込まれた木箱を抱え、手を振りながら去っていくセレナに、触手を振り返しながら考え込む。




 私の体が魔力で構成されている、という考えは間違ってはいないと思う。多分。

であれば、その魔力を操作できるようになれば体の形質変化が可能になる、というのも間違いではないだろう。多分。きっと。

 うむ、体を変化させる方法が分かっただけでも、大きな前進だ。


 それに、あれだ。体全体を自在に変化させることができるのなら、それこそ、直接人族の形そのままに成りきることだってできるかもしれない。いや、そう簡単にいくとは思わないけれど、前向きに考えていこう、うん。




 というわけで当面の目標は、「自身の魔力を操作できるようになる」という事に決まった。

 しかし、魔力がどういうものなのかすらよく分かっていない私がそれを達成するのは、いったいいつになることやら…



 いや、負けるな私。がんばれ私。未来はきっと明るい…はず。





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