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テンタクル・プリンセス-或いは、特異触手個体のこと  作者: にゃー
第二章<学習編>

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第六話 エルフに学ぶ

読んでくださっている方がいて凄いうれしい…

宣言通りめっちゃ喜んでます。

 『私』が、今にも飢えて死にそうだったとき。

どこからともなく現れた女の子に命を救われてから、もう400近くも、昼と夜が繰り返された。


……なんて、人族の間では『一年くらい』って言うんだったっけ。



 今日も今日とて、明るくなってから間もないうちに私のところにやってきたセレナが、エルフの集落の様子なんかを伝えてくる。


 ふつうは触手に話しかけても伝わりっこないと思うんだけど、なんでセレナは毎日話しかけてくるのだろうか……なんて、「普通の触手」っていうのがどういうものかを知ったばかりの時は、不思議に思っていたんだけど。これが『慣れる』ということなのか、今は特に何とも思わない。

 まぁ少なくとも、他のエルフたちは(触手)に話しかけてこないから、彼女だけがみんなとはちょっと違っていることは分かる。彼女はきっとあれだろう、なんといったか……そう、『ヘンジン』というやつなのだろう。


 とはいえ、彼女がこうして毎日話しかけてきた事もあって、私は触手でありながら、人族のつかう『言葉』というものを知ることができたのだろうから、セレナにはそれなりに感謝している。




 今思えば最初(・・)の頃は大変だった。

 『私』がはっきりと覚えている最初の光景は、黒い服を着た髪の長い女の子が目の前から去っていく瞬間。

 それ以前の記憶もなんとなくありはするのだが、なんというか……今とは全然違うというか、『私』という感じがなかった気がする。いや、私は私なんだけど。何も考えることなく、近づいてきた生き物から養分だけをもらうだけの、そんな存在だったというか。


 まあとにかく状況的に、あの女の子がただの触手だった私になにかして、『私』である私にしたんじゃないかと思っている。多分。


 『私』になってからしばらくは、とにかく混乱しっぱなしだった。何せ分からないことだらけ、というか分からないことしかないのだから。

 とくに、それまで視覚というものを持っていなかった私は、突如手に入れた『見える』という感覚に大いに混乱した。どうやら軽く恐慌状態だったらしく、見えるもの全てに触手をやたらめったらに振り回して暴れていたのだとか。らしく、というのは毎日誰よりも早く私のいる広場に来るセレナが、後に「あの時はびっくりしたよー。なんか前の日より二回りくらい大きくなってたし」と笑いながら話していたからである。


 なんでも、例によって朝一で私の様子を見に来たセレナが、荒れ狂う私に、混乱や怒りを鎮める『沈静の魔法』とやらを使い大人しくしたのだとか。もしかしたらその魔法のおかげか、その後は冷静に『見える』という感覚を受け入れ、それに慣れることができたような気がする。セレナさまさまである。


 ちなみにほかの生き物みたいな、位置が固定された目はない。音と同じで、全身で見ることもできるし、体の一部分にだけ見る機能を集中させることもできる。そもそも顔がないし。当然口もないが、体のどこからでも体液を養分として吸収することができるから、ある意味全身が口だともいえる。




 『私』になって、『見える』ようになって、その時を境に大きく変わった私はやがて、見えるもの、聞こえるもの全てに対して「これは一体何だろう」と思うようになった。草を見て、木を見て、時折捕まえて養分をもらった動物を見ても、それが草や木や動物だとまだ知らなかったその時の私には、それらが養分になるかならないかの違いくらいしか分からなかった。


 そんな、感じられるもの全てを疑問に思っていた中で私はいつからか、頻繁に私の前に現れる、性別の問題で養分にならない大きな生き物達が発している音が、何かの意味を持っていることに気がついた。

 その音にはたくさんのパターンがあり、しかしそれは数え切れないほど多いわけではなく、それらの音を組み合わせた、それこそ数えきれないくらいたくさんの音の連なりがある。その音の連なりを、さらにいくつも組み合わせて一つの鳴き声にすることで、その生き物たちは仲間内で意思疎通を図っている。

 そのことに気付いてから私は、その音をひたすら聞き、その意味を理解しようとした。


 その生き物たちは私が見た中で最も大きく、最もたくさんのことができる存在だった。だから、彼らの出す音を知り、こちらからもその音を出すことができれば、意思疎通ができる、私の知らないことを教えてくれると、そう思ったのだ。



 そもそも、自分にその音―声―を出す機能が備わっていないということに気付いたのは、私がその生き物たちの話す『言葉』を、あらかた理解できるようになってからだった。



 こちらから話しかけられないことを知り、最初は愕然とした。何のために言葉を覚えたのだと。しかし、言葉の意味が分かるようになったことで、その生き物たちの会話や、私に毎日話しかけてくる一回り小さな個体の言葉を聞くだけでも、いろいろなことを知ることができた。



――その生き物たちが『エルフ』という存在だという事。


――エルフを含む『人族』や『精霊族』と呼ばれる種族が、ほかの生き物たちよりも優れた存在であること。


――この付近には女性の―つまり私の養分にならない―エルフしか立ち入りできないこと。


――私に頻繁に話しかけてきた女の子が、『セレナ』と呼ばれていること。


――セレナが私を『ミーニャ』と呼んでいること。




――そして、私が『触手種』と呼ばれる生き物であること。




 最初に触手種の話を聞いた時は、ああ、これが私か、と自分のことを知れてなんだかすっきりした気分だった。

…が、後日セレナが、四角くて分厚いものを見ながら触手種についてもう一度詳しく説明したとき私は、どうも自分が普通の触手種とは違うらしいという事に気がついた。


 『本』というらしい、その四角くて分厚いものによれば触手種は、「その性質は限りなく魔物に近いが、生物の体液を養分としていることから魔獣に分類される。しかし知能は低いため、高位の魔獣などとは違って言葉を解さず、生命体としての本能はあるものの自我は持たないとされている」らしい。



 ここでいう言葉とは人族が話すそれで間違いないだろう。本は人族が作ったものなのだから。

 触手種にはその言葉が分からないらしいが、私は少なくともエルフたちの言葉を理解している。エルフも人族の一種なのだから、彼らの言葉は人族の言葉でもあるはずだ。知能が低いから言葉を理解できないというのなら、私は特別知能が高い個体という事になるのだろうか。



 それから、『本能』と『自我』。セレナはこの二つを


「本能っていうのは『おなかすいたー』とか『眠たーい』とか…あとは、まぁ『子孫を残さなきゃー』とかそういうの。自我っていうのは、なんていうか……『自分が自分であること』を分かっていることっていうか……『私だー!』って感じ?」


といっていた。


 本能というものはまあわかる。しばらく養分を摂取できないと体が弱っていくし(というか一度餓死しかけているし)、短時間ではあるが睡眠をとらないと、(触手)が思うように動かなくなる。子孫云々はよく分からないけれど、とにかく私にも本能は存在するのだろう。


 では自我というのはどうだろうか。セレナの説明を聞いた限りでは、あの日芽生えたこの『私』という感覚こそが、まさに自我と呼べるものなのではないか。私は、少なくとも『私は私だ』という事を分かっているつもりだ。自分には自我がある…と私は思っている。




 それからもう一つ、本には載っていなかったものがある。


 それは、私の核の中に埋め込まれた、2個の丸い石の事だ。

 自我が目覚めるまでは、こんなものはなかったと思う。それが、ふと『私』になって気がつけば、その石は既に体の中にあった。『私』になる前と後の違い。となれば心当たりは一つ、あの女の子だ。

 本では石の事は触れられていなかったし、私自身この石がいったい何なのか、全く分からない。多分、あの女の子がこれを埋め込んだのではないかと思うけど、それが何を意味するのかもさっぱり分からない。


……分からないけれど、なぜかこれはとても大事な物のような気がしていた。無くしてはいけない、とても大切な物のように思えてならないのだ。だから私は、これを身体から出さずに持ち続けることにした。


 いつか女の子が再び現れることがあれば、或いは何か教えてくれるだろうか。




 とまあ要するに私は、知能と自我、それからよく分からない石、この三つのことから、自分は本に載っている触手種とは違うのではないかと考えたのだ。



 とはいえ、いくら私自身が「自分は普通の触手じゃないんだ!」なんて思ったところで、見た目も、できることも、普通の触手と何ら変わらない。なのでよくここに訪れるエルフたちにとっても、私は言葉もわからない、自我なんてものもない、何の変哲のない普通の触手に見えているのだろう。



 にもかかわらず、毎日毎日、変な笑顔を浮かべながら私に話しかけてくるセレナは、やはり『ヘンジン』というやつなのだろう。











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