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第三十三話 小さな村の大きな問題

 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

 12月は殆ど更新できず、結構間が開いてしまいましたが……今後もゆっくり更新していけたらなと思っています。

 それでは今年も、よろしくお願いいたします。

 こんな林の中にある集落なんだから、結構排他的というか、閉鎖的というか、そんな雰囲気だと思っていたのだけれど。


 いざ到着してみるとその集落は、よそ者である私達を招き入れてくれた。



 そう言えば、セレナの故郷もそんな感じだったし、辺境の村と言っても案外、どこもそんなものなんだろうか、なんて考えないでもないのだけれど。



 今回の場合は、カナエが巡礼官だから、っていうのが大きな理由なんだろうと思う。



 なにせ、村の入り口で何やら暗い顔をしながら見張りをしていた若者達が、カナエの羽織っているローブを見てはっとし、すぐに口頭で身分を確認するや否や、挨拶もそこそこに村の中にカナエを引っ張り込んでいったのだから。

 慌てて付いていった私とセレナの事なんか、まるで眼中に無い感じだった。


…これは招き入れるっていうより、引きずり込むって言った方が近い、かも。




 今まで訪ねて回った集落なんかでも、カナエが獣人であることを差し引いてもまぁ、巡礼官という事で一応歓迎はされていた。


 しかし今回は何というか、歓迎とかそういうのを通り越しているというか。

 何か、切羽詰まった感じがある。


 それはカナエをぐいぐい引っ張っていく若者達もそうだし、引っ張られる彼女の姿を見るや否や、今までしていた事を放り出してそれに付いてくる、他の村人達にしてもそうだ。



 カナエに獣の耳が付いている事を、誰も気にも留めやしない。

 ただ彼女が「巡礼官である」という事実だけが、村人達を突き動かしている。



…これは、集落内で何か大きな問題でもあったのかもしれない。

 精霊教、あるいは精霊絡みで。








 まぁ、それはそれとして。

 突然引っ張り回されて目を白黒させているカナエは、結構可愛かったです、はい。











「ようこそお越しくださいました、巡礼官様」


 そうして、何だかよく分からない内に、村長の家へと通されたカナエ、とついでに私とセレナ。



「若い衆が無礼を働いてしまったようで、申し訳ありません」



 そう言って深々と頭を下げる村長は、結構年を取っているように見える、人間の男性。

 ここまで来る間に見た感じでは、村人の大半は人間で、その中にエルフがぽつぽつと混ざっているようだった。


 人間とエルフの小さな集落。恐らく、混血なんかもいるのだろう。

 いかにも、熱心に精霊教を信奉していそうな感じだ。



「いえ、多少驚きはしましたが……私が真っ先にここに連れてこられたという事は、何か精霊教絡みで問題が起きたのでしょうか?」



 村長のお付きの人に促され、床に腰を下ろしながら、早速本題を促すカナエ。


 ちなみに、湿度の高い林の中だからか家は木造ではなく、床も屋根も壁も、全て藁のようなもので形作られていた。

 支えとなる柱も見当たらないし……もしかして、家全体が魔法によって支えられている、とかだろうか。

 

 いや、まさかね。

 ははは、ないない。



「はぇー、魔法で家そのものを固定してあるみたい…すっごーい…」



…やっぱり魔法か。

 本当に何でもありなんだなぁ、魔法って。










 

 とまぁ、私達が腰を落ち着けたところで。

 ここに来るまでに付いてきた村人達に、家の外から注目されながら。


「実は、長くこの集落をお守りくださっていた精霊様が、少し前に姿を消してしまわれまして…」


 村長が、集落で起こった『大問題』について語り始めた。



 なんでも、この村にはかなり昔から1人の精霊が居ついていて、村人たちの信仰の対象として大事にされていたのだという。精霊の方もそれに満足していた様子だったのだが……それが1月ほど前に、忽然と姿を消してしまったのだとか。


 当然、集落は大騒ぎになり、村人達は総出でその精霊を探したのだが、結局どこに行ったのかの痕跡すら見つける事ができず…


 今まで村の中心であり、心の拠り所とも言えた精霊がいなくなってしまい、当然村人達は意気消沈。どうしていいか途方に暮れてしまっていたところに、丁度良く巡礼官であるカナエが訪ねてきた…という事で今に至ると。





 

「姿を消した…ですか」


「ええ、全く前触れもなく、どこへ行ってしまわれたのか見当もつきません…」



 先程からカナエと言葉を交わしている村長の顔には、精霊が居なくなってしまった事への困惑や悲しみがありありと浮かび上がっており、年を取っている事も相まって何というか……凄く哀愁が漂っている。


「村人は皆、日々の生活も満足に送れないほどに消沈してしまっております。私も、どうすれば良いのやら…」


 どうやら、比喩でもなんでもなく、本当に日常生活もままならないほどショックを受けてしまっている人も、決して少なくないらしい。



「巡礼官様、どうかお導きを…」


 村長も、周囲に控えているお付きの人も、外にいる村人達も、みんな途方に暮れている様子。


 ていうかみんな、揃いも揃ってひどくやつれているんだけど。

 もしかして、食事も喉を通らないほどなのだろうか。



 

…なんていうか、熱心な信奉者って、文字通り「精霊様こそが全て」って感じなんだなぁ。


 正直なところ、ここまで入れ込んでいる人達がいるとは思いもしなかった。以前、精霊宮探索で同行した巡礼官達もかなり熱心な人達だったけれど、まさかただの信徒ですらここまでのものとは。


 このままじゃ、精霊が居なくなったせいで村人全滅…なんていうのも、あながち冗談ではなさそうで怖い。


 それほどまでに、精霊という存在は彼らにとって重要だということなのか。

 食べるという、生きる事に直結する行為さえも、満足に行えなくなってしまうほどに。





 うーん…


 例えば。


 例えばの話。

 ある日突然、セレナが何の前触れも無く居なくなってしまったとしたら。




…あ、やばい。

 予想していたよりはるかにショックだ。

 やめやめ、今のなし。



 なるほど、彼らの気持ちも、ほんの少しは分かってきたような。

 心の拠り所になっている存在が、急に目の前から居なくなってしまったら、確かにそのショックは相当な物かもしれない。

 いや、私は別に、セレナを信仰しているわけではないけれど。




 ていうか、旅に出る直前まではセレナを置いていこうと思っていたはずなのに、今、もしセレナが居なくなってしまったらと、少し考えただけでこんなにショックを受けるだなんて…



 もしかして。

 私のセレナに対する執着というか、依存というか。

 そういうのが、村にいた頃よりも増しているのではなかろうか。



 えーっと。

 どうなんだろうこれは。


 いいこと?それとも、わるいこと?








「その、申し訳ないのですが…我々でその精霊を捜索するのは、難しいかと思います」



 っと。

 カナエの声で、意識が現実に引き戻される。

 いかんいかん、また思考が脇に逸れてしまっていた。



「巡礼官様はその、獣人とお見受けしますが……失礼を承知で申し上げますが、気配や匂いで後を追うという事は…」



 ここに来て、カナエが獣人であるという事に、ようやく触れる村長。


 確かに、林に踏み入ってからこの集落に着くまでカナエは、匂いや気配なども手掛かりにしながら進んでいる、と言っていた。 

 本人がそう言うからには、獣人のそういった能力は、それこそ獣と遜色ないほどに優れたものなのかもしれない。


 かもしれないの、だけれど。 

 


「居なくなってから少なからず日が経っているとの事ですし、手がかりもないとなれば…」


 流石に、時間が経ち過ぎている。まして私達は、その精霊とは会った事すらないのだ。


 それに、私とセレナは勿論の事、カナエもここら一帯に来るのは初めてで、土地勘があるというわけでもない。

 件の精霊を探そうとしても多分、ここの村人達以上に、何も見つけられはしないだろう。



「それに私達はその、どちらかと言うと荒事の処理の方が向いているといいますか…捜索はあまり得意な方ではなく」


 カナエは、クールな仕事人なのだ。




 まぁとにかく、結論として。

 時間の経過。土地勘。向き不向き。

 色々加味した結果。



「私達では、恐らく役には立てないかと…申し訳ないのですが」


 そういう事に、なってしまう訳なのでした。

 その、ごめんなさい。




「そうですか…」


 カナエの言葉を聞いて、あからさまに落胆の表情を見せる村長以下村人達。

 その様子を見て、カナエの方も表情を曇らせてしまう。

 私も、なまじさっきの想像で、彼らの気持ちの一端を理解できてしまったが故に、それをどうする事も出来ないというのは、少し心苦しい。



「本当に、申し訳ない…道中、巡礼官や教徒の方々に情報提供を呼び掛けてみます。もしかしたら、精霊の捜索に長けた巡礼官が、この村に来てくれるかもしれません」


 せめてもの慰めにと、カナエは努めて明るく、外にいる村人達にもよく聞こえる様に声をかける。


「本当ですかっ!」


 それを聞き、一転して顔を上げ、目を輝かせる村長以下村人達。


「あ、いや…絶対に、というわけではありませんが…」


 彼らの勢いにたじろぎ、身を引いてしまうカナエ。


「そう、ですか…」 


 再び俯いてしまう村長以下村人達。



 さっきからこの村の人達、動きが完全に同期してる。なにこれ。













 まぁ結局、居なくなった精霊に関しては、これ以上話す事も出来る事も無く。


「その、役に立てない私達が居てもなんでしょうし、すぐにでも村を出ましょうか…?」


 まさに意気消沈、というような顔をしている村長に、カナエが申し訳なさそうな表情のまま、そう申し出た。



 確かに、何も出来ませんと言っおきながらふんぞり返って村に留まるのは何か…凄く嫌な奴っぽい。そうなると居心地も悪いし、さっさと出ていった方がお互いの気分的に良いかも。

 今から集落を出ると、多分林の中で野宿する事になるのだろうけど、まぁ、仕方ないかな。



 そんな私達に対してしかし、流石は熱心な精霊教徒というか。


「いえそんな、わざわざ来てくださった巡礼官様を邪険に扱うなど」


 この村の人達は巡礼官に対しても、精霊ほどではないにしろ敬意を払っているみたい。


「せめて一泊だけでも、ぜひ泊まっていって下さい」


 でもカナエの方は、何も出来ないのに歓待を受けるなんて、耐えられないみたいで。


「しかし、早く林を抜けて、周辺の町に協力を申し出た方が良いのでは…」


 やはり、彼らの役に少しでも立つべく、すぐに村を出るつもりのよう。

 私も、私達がこの村の人達に対して出来る事は、それくらいしかないと思う。


 それに対して、はいそうですかと追い出すのには納得できない信徒(村人)達。


「でしたら巡礼官様、実は精霊様の件とは別にもう1つ、問題がございまして……今晩は泊まっていただいて、明日それに当たっていただく、という事でどうでしょう」


 精霊教の一信徒として、集落を去ろうとする私達を引き留めるべく、村長が発したその言葉に。


「問題?何でしょう、私達に出来る事でしたら、何でも」


 力に成れなかった負い目からか、カナエが勢い込んで身を乗り出した。

 ぐいっていったね、ぐいって。



 しかし、精霊の事以外にもまだ何かあるなんて、この村の人達は本当、災難だなぁ。







「精霊様の件と比べれば、大した事ではないのですが……最近、集落のほど近くに魔物が出没していまして」


 村長は、精霊の話をした時と比べて、かなり軽い調子でそんな事を口にする。

…いや、それは大した事あると思うのだけれど。 



「大した事ですよ、それはっ」


 カナエの表情がキッと引き締まる。


 ある意味で、精霊が居なくなった事よりも大きな問題なんじゃないかな。

 直接的な危険があるわけだし。


「どういった魔物ですか?数は?被害に遭った方はいらっしゃいませんか?」


 矢継ぎ早に質問を投げかけるカナエ。

 やはり分かりやすい危険という事で、カナエも積極的に話を聞き出そうとしている。

 まぁ、魔物の討伐だったら、私達にも出来る事だ。



「ああいや、動き回るような魔物ではないので、そう危険は無いのですが…」


 カナエの勢いに押され、村長は慌ててそう付け加える。

 動き回らない魔物?何だろう。



「放っておいても、特に実害がある訳ではないのですが、しかし私達で対処が出来るという事でもなく……精霊様が居れば、簡単に退治して下さったのですが…」


 そう言った直後に、自分の言葉で精霊の不在を再び意識してしまったようで。

 あ、また表情が暗くなってきてる。

 村人達もそれにつられて……って、精霊の事になると、本当に一心同体って感じだ、ここの村人達。



「ま、まあまあ…その、魔物というのはどういったものなのですか?」 


 カナエが、精霊の事で再び沈み込みそうになっている村長を慌てて宥めながら、魔物について聞き出そうとする。

 ていうかここまで、私もセレナも全く会話に加わっていないというか。全部カナエに押し付けてしまっている。

 カナエ、ごめん。でも、私達が話す事って、それこそ何もないんだよね…



「ああ、申し訳ない、つい……魔物、でしたな。申し上げた通り、近づかなければ害は無いのですが……アレはどうにもいけ好かない輩でして…」


 そして、先程まで悲しみを浮かべていた顔に、今度は若干の嫌悪を滲ませながら。

 村長が、その魔物の名を口にした。





「触手、ですよ」




……あ、私の同類?




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