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テンタクル・プリンセス-或いは、特異触手個体のこと  作者: にゃー
第一章<覚醒編>

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第二話 物好きな少女

9/6(日):誤字報告を受けて修正致しました。報告ありがとうございます。

 女性専用広場にメスの触手が住み着いてから、半年ほどが経った。

 時折近づいてくる小動物(オス限定)や、夜中に人の残り香につられてやってくる小型の野獣(オス限定)などを捉え糧としているうちに、件の触手種は少しずつ成長し、はじめは一本しかなかった触手を、今や瞬間的にではあるが10本ほどにまで増やせるようになっていた。

 とはいえ、全力を出すのは大型の獲物を捉えるときくらいで、体力の消費を抑えるためなのか、普段はもっぱら2、3本程度の触手を無造作にゆらゆらさせているのみである。触手をすっかり見慣れたエルフたちも毎日その姿を目にしては、「お、今日も機嫌よさげだねぇ」だの「またちょっとおっきくなったんじゃないの?」だの適当に声をかけるのが日常となっていた。



 こうして触手も、この場の一員としてエルフたちに認められてきた中で、ひときわ頻繁に、積極的に、そして楽しそうに触手に声をかける者がいた。


「おはよっミーニャ!今日もうねうねしててかわいいな~」


 触手を自分が勝手につけた名前で呼んでいるのは、10代前半ほどの小柄な少女。

 黄緑がかった短めの金髪にくりくりした可愛らしい碧眼といった、美少女然とした顔立ちを台無しにするようなにやにや笑いを浮かべながら、至近距離から触手……ミーニャを眺めているその少女は、あの日分厚い本を持ち誰よりも早くミーニャがメスであると看破した人物、その人である。最初に見かけた時以来、何が琴線に触れたのかこの小さな触手のことをどうもいたく気に入ったようで、毎日のように様子を見に来ては何くれとなく話しかけてみたり、隣に座って本を読み聞かせてみたりしているのである。

 正直に言って、触手にここまで入れ込んでいる少女の姿は、ミーニャを割と好意的に見ている他のエルフたちの目にすら、まるで珍妙な生き物のように映っていた。最近ではむしろミーニャよりも、ミーニャに対する少女の奇行を観察するのが、広場の住人たちの日課となりつつあるほどである。


 

そんな、赤の他人が見たらなかなかに近寄りがたい少女に、臆せず近づく人影が一つ。


「おいセレナ、あんまり近づきすぎるとおいしく(・・・・)食われちまうぞ?」


セレナと呼ばれたその触手大好き少女(ただしミーニャに限る)は、エルフにしてはいささかガタイの良すぎる女性から向けられた、下品なからかい混じりの声に対して、


「ミーニャはそんなことしないもーん。ねーミーニャ?」


相変わらずにやにやと怪しげな笑みを浮かべながら、振り向くことすらせずに答える…ふりをしてミーニャに話しかける。


「かー…ったく、お熱だねぇ。最初の頃は『な、何言ってるんですか!変態ですか!?』とか初心な反応してくれたってのに……すっかり小慣れちまって」


ガタイの良い女性はまるで「あんた昔はそんなんじゃなかったぜ…」とでもいうような悲しげな視線を向ける……が、


「そりゃ毎日そんな発言されてたら慣れても来ますって」


めんどくさげに振り向いたセレナに「なにいってんだこいつ」的なジト目で返され、豪快に笑いだす。


「あっはっは!そういやそうだったかねぇ?いやあすまんすまん」

「そう思うんなら少しは控えてください」

「いいじゃないかこれくらい。小粋な朝の挨拶ってやつさ」

「何が小粋ですか…もう、エトナさんといるとミーニャまで下品になっちゃいます。あっち行ってください。しっしっ!」


言葉通りあっちへいけと手を振るセレナに対して、エトナと呼ばれた女性は、


「そんなに邪険にしなくったっていいじゃないか…全く、ちょっと顔出そうと思っただけだってのに、最近の若いのは先輩への敬意が足りんね……」


予想以上にがっつり拒絶されたことにショックを覚えつつ、ぶつくさ言いながらも大人しく村の方へ戻っていく。


「敬ってほしければそれ相応の振る舞いをしなさいって話だよ。ねーミーニャ~」


セレナは小さくなっていくエトナの背中を一瞥すると再び怪しげな笑みを浮かべながらミーニャの方に向き直り、昨日の夕飯は何だったとか、祖母からようやく魔法について習い始めたとか、とりとめのない話をしだす。


「ほーんと、ミーニャはかわいいなぁ」


知能を持たない、下等な生命体である触手にとってその言葉は単なる「音」でしかないし、先ほどから触手をうねらせているのも全く何の意味もない行動なのだが、そうと知ってか知らずか、セレナはそれをいつまでも、若干気持ち悪……もとい楽しげな笑みを浮かべながら見つめていた。














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