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テンタクル・プリンセス-或いは、特異触手個体のこと  作者: にゃー
第三章<集落編>

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第十七話 変人達の歓迎

「よし、んじゃそろそろ行くか」


 朝食を終え一息ついた後。

 エトナの言葉を受けて私は、いよいよ家の外へ出る事となった。


「ミーニャ、手繋いでいこ、手」


「…ん…」


 満面の笑みと共に差し出されたセレナの手をぎゅっと握る。

 みんなに背中を押され、やる気を出したとはいえ、やはり緊張はする。


 何せ1か月ぶりの外。

 今まで外で暮らしていた時とは違って、触手ではなくエルフとして外を出歩き、村人たちと交流するのだ。もし妙な事をして不審がられでもしたらと思うと、どうしても(触手)の動きが鈍くなってしまう。



「なに、そう心配するな。この村のやつらはみんな、何というかゆるい(・・・)からな。多少変なことをやっても、誰も気にしやしないさ」


 私の緊張を見抜いたのか、エトナがそれをほぐす様に肩を叩いてきた。


「そうそう。ていうかあんまりガチガチに固まっちゃってたら、逆に怪しく見えちゃうよー」


 セレナも、私の手をにぎにぎしながら声をかけてくれる。


「大丈夫!ミーニャなら、黙って歩いてるだけでもクールでキュートな女の子だから!」


 そんな自信満々に言われても、自分ではよく分からないのだけれど…


「まあ、あんまり肩の力入れないでさ、ほどほどに行こうぜ」



 ほどほど、ね。…うん、そうだね。

 ちょっと気負い過ぎてた、かも。


「…わかった…ほどほどに…頑張る…」


「ん、よし」


 私の返事に、エトナは満足そうに頷くと、今一度お母様たちに声をかけながら、家の戸を開ける。


「んじゃ、行ってくる」


「いってきまーす!ミーニャの事は任せといて!」


「…いって、きます…」


セレナと私も彼女に続き、家の外へ向かう。


「気を付けて行っておいで」


「精々気をつけな。うっかり触手を伸ばさないようにねぇ。くっくっくっ…!」


 レゾナは相変わらず憎まれ口を叩いているけれど、これが彼女なりの激励なのだろう。最近分かってきた。


「もう、お母さん!…ミーニャ、無理はしないようにね。いってらっしゃい」


 最後にお母様の優しい声を背に受けながら私は、人として、外の世界へと足を踏み出した。









「な、どうって事ないだろ?」


「…うん…」


 私達は今、エルヴィン家のとは反対方向にある、村はずれの広場の1つに向かっている。


 家を出てから数十分、集落を歩く中で何人もの村人を見かけ、またその内の幾人かは私達…というか主にエトナに話しかけてきたりもした。誰も彼も話す事は大体同じで、




「やあエトナ、今日は見慣れない子を引き連れてるな。なんだ、隠し子か?」


「馬鹿言え。こいつはレゾナの……あー、何だっけか?弟の嫁の叔母の夫の兄の孫…だったか?まあ、とにかくそんな感じだ。向こうの家で色々あって、エルヴィンのとこに連れてこられたんだよ」


「何、レゾナの弟の嫁の……?……いや、まぁなんか知らんが大変そうだな…。しかし成る程、エルヴィンの噂はこういう事か」


「ああ、こっち来てしばらくは家の中に籠ってたんだが…。この村で暮らす以上、そろそろ外にも出とかにゃあと思ってな」


「そうかいそうかい。…あー、嬢ちゃん、名前は?」


「…ミーニャ…」


「ミーニャちゃん、か。何やら色々とあったみたいだが、この村は来る者は拒まない。安心してのんびり過ごしてくれや」


「…ん、わかった……よろしく…」


「あいよろしく…っと、んじゃ、俺はこの辺で。集まりに遅れちまう」


「あいよ。んじゃあな」




 とまぁ、大体こんな感じである。

 家を出る前にみんなで考えた、遠縁というにも遠すぎるような私の設定をエトナが話し、私が一言二言挨拶する。たまにセレナも会話に混ざる。さっきから話しかけてくる人との会話は大体そんな感じで、正直私は、ほとんど何もせず突っ立ているだけだ。

 

 いいのかこれで。

 いや、今のところ特に怪しまれたりはしていないし、村人への顔見せという目標はこなせているから、まぁ、いい、のかな?

 私が余計なことをして話が拗れたら、それこそ面倒な事になるだろうし。




 とにかくこのように、集落内での顔見せは、主にエトナのおかげで何の滞りもなく進んでいる。後はこの調子で、エトナがよく行くという村はずれの広場まで行き、そこの人達に挨拶をしてから家に戻れば、今日の目的は達成だ。

 良い調子。いや、何にもしてないけど。










「なあ、ふと思ったんだが」


「…何…?」


 住宅の密集地を通り過ぎ、人とすれ違うことがあまりなくなった辺りで、エトナが私に質問を投げかけてきた。


「ミーニャは、寒いとか熱いとか感じるのか?」



 私が家に籠っている間に、季節はすっかり冬になっていた。

 ここらでは『雪』というものは降らないらしいが、空気の温度はそれなりに低く、今私達は普段来ている質素な服の上から、毛皮でできた防寒具を羽織っている。



「…温度は…感じる、けど…」


「けど?」


「…『熱い』とか…『寒い』は…よく、分からない…」


 だから実は、私にとってこの防寒具は特に必要ではないのだが、まぁこれも『人らしく』することの一環だ。


「うーん、感覚はある…けど、それが不快な感情に繋がらない、って事か」


 人族は過度の熱さや寒さを嫌う。だからこそ夏は水を使って空気の温度を下げ、冬は毛皮などを纏って暖かく過ごそうとするのだろう。

 これも、私にはよく分からない感覚だ。


「これから、ミーニャどんどん人らしくなっていったらさ、その内私達と同じように、『熱いー』とか『寒いー』とか言うようになるのかな?」


 そんなセレナの言葉に、私は首を傾げる。

 どうだろう。今はまだ分からない。けれど、


「…それも、悪くない…」


 なんて、思ったりして。






「じゃあさじゃあさっ。ミーニャは、村を見ててなにか気になった事とか、ない?」


 エトナの疑問が解決し、今度は私が質問する番、という事か。

 うーん…

 まぁ、気になると言えば気になる事が、1つ。



「…みんな、同じ服…」



 エルヴィン家で生活するようになってから私は、植物を加工して作られた、『麻』という素材からなる服を着ている。特に目立った装飾などは無く、丈が膝下ほどまである一枚着で、エルヴィン家のみんなやエトナも、丈やズボンの有無などは違えど、雰囲気は同じようなものを着ていた。

 そして、今日見かけたこの村の住人達もみな同じように、麻でできた簡素な服を着ていたのである。



「ああ、この村じゃみんな、自分の服は自分で作るからな。材料も同じだし、結局誰も似たり寄ったりになるんだよ」


「人によっては模様とか、飾りとかつけてる人もいるけどね」


 私の問いにすぐさま答えてくれる2人に対して、さらに質問を重ねる。


「…服…買わない、の?…」



 この村は、森の中とはいえ人里にほど近い場所にあり、定期的に最寄りの町から商人がやってくる。

 いくらエルフが『森の賢人』と呼ばれているとはいえ、今でも実際に森の中で生活している一団というのはあまり多くない。それゆえ彼らが自然にある物から作った工芸品などは、街でそれなりの値で売れるのだそうだ。

 なんでも、商人達がそれを買い取って町で売り、またここの住人たちはそのお金で商人達から、或いは町へ直接出向いて物を買うのだとか。『服』というのは人族にとって重要なものであると聞いていたため、私はてっきり服を買っているのかと思ったのだが…


「この村じゃ、服なんて着れりゃそれでいいって奴らがほとんどだからなぁ。わざわざ金払ってまで買おうとは思わないのさ」


「服よりも、森じゃ採れない食べ物とか、本とか、鉄製の武器とかを買う人が多いんだよー。うちでもおばあちゃんが、よく本を買い込んでるし」


 確かに、レゾナの部屋には大量の本が所狭しと置かれていた。


 しかしなるほど、自作できるからお金を払ってまで手に入れようとは思わない、か。

 うん。理に適っている。


「村に来る商人達も、あたしらが買わないって分かってるから、服は持ってこないしな。まああれだ、流行りの服が着たいんなら、自分で稼いで町で買うこった」


 そう締めくくるエトナ。その言葉に反応してセレナが、


「うんうん、私が着る気ないけど、ミーニャがかわいい服着てるのは見てみたいな~」


 などと良いながら、期待するような目でこちらを見ている。が、


「…別に、いい…」


 特にそういうつもりで聞いたわけではないのでスルー。


「…少し、思った…だけ」


「思ったって、何を?」


 正直しばらくは、村の人達の見分けがつかなそうだなー、って。









 そうして、リラックスした雰囲気で歩く事しばらく。


「ついたぞ、ここだ」


 遂に、目的の広場に到着した。



「いい、ミーニャ……」


 私に何か言おうとしたセレナが、しかし、上手く言葉が出ないというようにして口を噤む。


「ごめん、なんて言えばいいんだろう……?…と、とにかく、気を付けてね。いや、何かされる事はないと思うけど」


 いまいち要領を得ない彼女の言葉に首を傾げつつ、既に広場へと入っていったエトナの後を追う。それと同時にエトナの方も、広場に集まっていた何人かのエルフ達を引き連れて、私の方へ近づいてくる……のだが、その姿は何というか…その…





「ほらミーニャ。こいつらがあたしの親愛なる同志達、「飛び散る汗!!弾ける筋肉!!!」のメンバーだ!」





…すごく、ガタイが良かった。





 この集落の周辺には、ちょっとした広場のような空間がたくさんあり、それぞれに同じ趣味を共有する者同士や、同年代同士が集まって交流を深めている…というのは話に聞いていたのだが…



「ほう、お前が最近噂のエルヴィンのとこの子か」


「ちょっと細すぎやしないかい?」


「いや、この子はまだ若い。鍛えればいずれ、我らにそう劣らない筋肉量になるだろうよ」


「そうだな…。…よし!一緒に体、鍛えるか!」



…こういう集まりもあるんだね。


 

 年齢性別はバラバラなれど、皆一様に鍛え上げられた肉体を有している彼らは、筋肉を鍛えぬく事を至上命題とする集団。その名も「飛び散る汗!!弾ける筋肉!!!」というらしい。

 エルフだからと言って魔法ばかりに頼るのではなく、日々体を鍛え肉体の強さによって村を守る事こそが、彼らの目的なのだとか。うん、確かに誰も彼も、集落で見かけた人達とは比べ物にならないほど体が大きく、そばにいるだけで凄まじい圧を感じる。




「はっはっは!ミーニャはまだこの村に来て日が浅い、しごくのはまた今度にしてやってくれ!」


 彼らに負けず劣らずいい体格をしているエトナが、私の肩をばんばん叩きながら豪快に笑う。

 なんか、家にいるときよりテンション高くない…?



「そうか?残念だ…」


「ああ、同志が増えると思ったんだが…」


「まあそう焦るな。これから徐々に徐々に、筋肉の良さを分かっていって貰おうじゃないか」


「…そうだな!よし、じゃあとりあえず、歓迎の胴上げでもするか!」



 謎の勢いの良さに私が少したじろいでいる内に、彼らはあれよあれよという間に私を包囲してしまった。 


 え。な、何?どうするの?私、何されちゃうの?



「「「「よいしょー!!!!」」」」



 混乱する私をがっしりと掴み、勢いよく持ち上げる彼ら。


 なになになに!? え!? ちょっと、怖い!! いや、セレナ助けてー!!




「ミーニャ!?」



 事態に気付いたセレナが、遠くで悲痛な叫びをあげる……が、時すでに遅く…遂に私は、筋骨隆々な彼らの手によって、空高くへと放り投げられてしまった。



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



「……っ!?………っ!!…」



 飛んで、落ちて。飛んで、落ちて。



 いや、なに、ほんとに、あのっ……!



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



 いや、だから、やめ、……!!



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



 もう、ちょっ、ほんっ…!…むりぃっ………!!!



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



 飛んで、落ちて。飛んで、落ちて。



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



 飛んで、落ちて。飛んで、落ちて。



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



 飛んで、落ちて。飛んで、落ちて。



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



……あれ…?…楽しく、なってきた……かも…?

 



「…っ……ふふっ……」



「!!!?……お前らぁ、もっと気合い入れろぉ!!!」



「「「「応ッ!!!!ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



 さらに高く、飛んで、落ちて。飛んで、落ちて。



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



 高く飛んで、落ちて。飛んで、落ちて。



…やだっ、これっ…!………楽しい…!!



「……ふふっ…!………ふふふっ…!!」



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



「ミーニャが……ミーニャが壊れちゃったぁ…!!」



「「「「ワーッショイッ!!!!ワーッショイッ!!!!」」」」



 飛んで、落ちて。飛んで、落ちて。





 私が喜んだ事で、彼らはますます高く放り投げ、それによって私がさらに喜び、もっと高く放り投げ……と、胴上げは私が満足するまで延々と続き……まぁ、結果として、私の『人』としての村人との初交流は、ある意味で大盛り上がりの内に終了した。と思う。




 胴上げ、すごく楽しかったです。








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