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 ラスは理解できていなかったが、私とミーナはちゃんと理解していた。ラスが、元々人間には魔法が使えないことの証拠になる理由を。




「――だからね、ラスって頭がよくないじゃない?」

「はっきり言うなよ……」

「それもこの国で一番と言っても過言ではないほど頭が悪いじゃない?」

「……あの、俺、カイルが言うほど頭悪くないと思うんだけど」

「ラスくんはちょっと天然なだけだよ、きっと! だから大丈夫!」

「それはなんだ、とどめか……?」

「現実を受け止めなさい」

 王にも知られてしまっている頭の悪さ。きっと脳にいくはずだった分は全て筋肉にいってしまったのだろう。……いや、王に知られてしまっている、というよりは「こいつに魔法が使えなかったらそれが証拠になる」と目をつけられていたのかもしれない。事実、十七という歳になっても魔法が使えていない者は私とラスだけなのだ。

 王によると、以前――御伽噺の時代には、人間が魔法を使うには条件が必要だったらしい。高貴な身分にあること、学問の成績が優秀であること、生まれつき髪が白いこと、古代語が読めること、生まれた時に神の泉で身体を清めること。これら五つの条件のうち一つでも当てはまれば魔法を使うことができたらしい(先に挙げた二つについては程度が推測の域を出ないのだそうだが)。この国の大多数が当てはまる条件が、一番最後に挙げたものである。当時は王族しか出入りが許されていなかったらしい泉だが、今では誰でも入ることができる。故にこの国のほとんど全員が身体を清めることができるのである。

 勿論条件に当てはまっていても本人の素養がなければ使えないのだが、条件に当てはまらない者は小さな炎を灯すことすらできなかったそうだ。

 そして、全く条件に当てはまらないものがラスだった、というわけだ。納得がいかないのが私である。古代語を読むことができる人間は今の世にはいないというし、身分はない。だが、条件にはちゃんと当てはまっている。髪は白いし、私と同じくらいの成績の人間は使うことができている。神の泉で清めてもらうことだってしたらしい。だというのに何故私は魔法を使えないのだろうか? 王に問うてみても「素養がないのだろう」と一蹴されてしまった。冷たい。


「つまりラスが馬鹿だってことだよ」

「結論がそれはおかしいよな!?」

 何もおかしくはないはずだ。髪は青い、古代語は読めない、身分は平民、神の泉の場所がわからず身体を清めてもらえなかった。唯一当てはまる可能性のある学問は壊滅的。ミーナもどこをどう擁護すればいいのかと頭を悩ませている。悪いが反論の余地はないと思う。

「……もう馬鹿でいいよ…………」

「自覚をすることが馬鹿脱却の一歩だと思うよ。できるかどうかはさておきね」

「カイルは本当に俺に優しくないよな!」

「二人ともすごくいつも通りだね……」

 ミーナが呆れたように溜息を吐いたのがわかった。確かに、つい先程まで親に話さなければ、とか旅に出るとか突然すぎる、とかそういうことが頭の中をぐるぐると回っていたのだが、今は全く浮かんでこなかった。同じ境遇にある者同士だからだろうか、それとも長い付き合いだからだろうか。とにかく重かった気分はどこへやら、いつもの調子を私は取り戻していた。

 しかし気付いた瞬間にまた現実が頭の中を巡った。私たちがあの「時を喰らう者」に対面し、最悪の場合封印しなければならない。――そんなことが本当にできるのだろうか。失敗すれば世界は滅ぶ。とんでもない重圧感だった。

 私たちはまだ魔法を使うこともできていない――だからこそ選ばれてしまった。この国から一歩も出たことがない――それもまた、この三人が選ばれた理由だった。右も左もわからぬ土地で、世界を滅ぼさんとする悪魔を封印するための旅に出る。こんな子供に何ができるというのか。こんな子供に何を期待するというのか。

 いや、王も半ば自棄なのかもしれない。誰も私たちが世界を救うことを期待などしていないのだ。そう考えないと歩いていけそうになかった。

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