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 ラスの家は城壁のすぐ傍にある。人通りの多い市場から遠く、ここに家があると認識している人が少ないため、ずっと家にいると人と関わらなくて済むのだそうだ。これは彼の母親の話。

 家の近くまで来ると、扉を開けようとしてやめる、という動作を繰り返しているラスが目に入った。どうやらまだ家に入ることもしていなかったらしい。

「ラス、入らないの?」

 背後から声をかければ肩がびくりと跳ね上がる。驚かせんなよ、と小声で返すラスに何故小声なのかと問うと両親に気付かれたくないという答えが返ってきた。もう気付かれていると思うのだけれど、とは言わないでおく。

 話をするのなら別の場所に行くぞ。そう言って広場の方へ向かうラスをミーナがぱたぱたと追いかける。ラスとミーナの身長差のせいで兄妹に見えてしまう。年の差があるため兄妹でも何もおかしくはないのだが。あまり離れると二人を待たせることになるから、私も早足で二人の後を追った。



「お前らはもう話したのか?」

 城壁から広場までの距離は結構ある。ようやく半分ほどきたか、というところでラスが口を開いた。彼の言葉をちゃんと言うなら「俺が家に入ることを躊躇している間にお前らは親に話をしてきたのか?」だろうか。

 彼はいい人と称される人間ではあるのだが、頭がよろしくないというか、変なところに引っかかって普段使わない脳を使って自分で問題をややこしくしてしまうことがある。問題を一つの視点からでしか見ることができない、良くも悪くも真っ直ぐな人間だと思う。ミーナだっていい子だけれど、頭がいいから、まずたくさんの選択肢とそれを選んだ先のことを考えることができる。私は二人の中間である。視点を固定してしまう時もあれば、広い視野で見ることもできる。臨機応変と言えば聞こえはいいのだろうか。意味が違う気がする。

「わたしは話せなかったんだ。一度事情を知ってる人とちゃんと話したいな、と思って出てきたの」

「んー、私も似たようなものかな。ちょっと今は頭が働いてないのよ」

「……でも、話さないといけないよな」

 途端に空気が重くなる。そうだ、今は逃げることが許されても、ちゃんと向き合わなければならないのだ。王から言われたこと。これからのこと。全部、包み隠さず話さなければいけない。出かける前に見た母の不安そうな顔、それが話をした時どう変わるのか。それが怖かった。




***




「……突然こんな話をされて戸惑っていることだろう。それに、どうして自分たちが呼ばれたのかと疑問に思っているだろう」

 王の発言に場にいた全員が固まっていた。身体も思考回路も。

 平和だった世界。これからも続いていくと思っていた。そのはずなのに、何故今、こんなことになっているのだろうか。私の脳内はそんな考えが占めていた。

「まず、諸君でなければならない理由を説明しようか。成人たちは自分の中の魔力をコントロールして魔法を使う。しかし、そもそも魔法が使える人間などごくわずかのはずなのだ。では何故誰もが使えるのか? 答えは初代国王の像にある」

 大変だ、もう既に理解できない。そんな顔で勢いよく私の方を振り向いたラスを無視して次の言葉を待った。もう一人の幼馴染をちらりと横目で見やると、彼女は真剣な顔で王を見ていた。年下の方が頭がいい、というのはいかがなものか。私も人のことは言えないのだけれど。

「あの像は常に込められた魔力を放出している。辺りに魔力を充満させ、封印をより強化するための装置らしい。それを生まれた時から浴び続けると、本人の魔力を増やすことになるという。それは成人した者たちが魔法を使っているのが証拠だ。我々は像の魔力と本人の魔力が混ざるその時が、成人の瞬間だと考えている」

 大変だ、私も頭が混乱してきた。つまりあれか、初代国王の像がなければ私たちは魔法が使えないはずなんだぞ、と。そうまとめてしまっていいのだろうか。

「最悪の場合奴に立ち向かわねばならん。その時に必要となるのは本人の魔力ではなく、像の魔力なのだ。奴の元へ向かう者には、悪いが魔力の封印を行わせてもらう」

 立ち向かう、という言葉に場がざわついた。未成年者はそもそもの数がそう多くない。今回集まったのは二十人ほどだ。そんな人数で、世界を滅ぼそうとする悪魔に立ち向かえと言うのか。

「……私たちに魔法が使えるはずがない、という証拠はどこにあるんですか?」

 場のざわめきを無視して己の疑問を口にしたのはミーナだった。大人しい彼女がわざわざ目立ってしまうことをするなんて、と驚いたが、確かにそれは王が言っているだけで、証拠はどこにもなかった。これからの話でそれは示されるのだろうか。

「最もな疑問だ。私の説明だけではそれを示すことはできん。……が、証拠ならある」

 そこに、と王が指差した先にいたのは――ラスだった。




***




「未だになにがどうなってんのかわかってないんだけどさ」

「ラスはもうちょっと日頃から頭を使うべきだと思うよ私」

「カイルちゃんってば……」

 ミーナはすぐにラスの味方をしようとする。鈍いわけではないからそこに好意が含まれていることはちゃんとわかっている。ただ問題なのは向けられている当の本人が気付いていないこと、かつラスの好意の先がミーナでないこと。ああ、それと、もう一つ。

「とにかく、この三人で旅に出ろってことだったよな」

 しばらくは三人だけで行動しなければならないことだ。

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