受け入れるということ
荒れ果てた地を二人並んで歩く姿があった。
あれだけイッキの頭がショート寸前だったのだが、今はなんとか回路が繋がっているようだ。
そうなれたのは、リンコのおかげだったのかもしれない。
「わからないものは、わからないままでいいんじゃないの?」
元々、楽観的なイッキに多くの言葉はいらなかった。
「怖くないのか?」
二人の言葉以外に聞こえるのは、風の音それぐらいなもので、やり取りにかなりの時間がかかっているような錯覚に陥る。
「怖いよ」
風に乱される髪と颯爽とイッキの前を歩くリンコの後姿が強がっているようにも見えた。
「そっか、そうだよな」
そう言ったこぶしは強く結ばれて手の甲の模様は、また一層強く光を放っていた。
「ねえ、なんであの電車に乗ってたの?」
「あ、ああ、仕事 そういうあんたは?」
「私も仕事 看護師なの」
リンコは、後ろから聞こえるはずの足音とは違うクスクスという音に振り返った。
「ちょっと、なんで笑うの!?」
不機嫌そうなリンコをよそに、笑いながら説明し始める。
「・・・いやっ、こんなっ くはっ 天然っぽい白衣の天使もっ・・・ううっ いるんだなっって」
イッキの顔面と地面が激しく衝突したのは言うまでもない。
そんな調子でじゃれあいながら、時にこれからのことを話したりして、イッキの提案をリンコが冷静に受け流していた。
その度に、落ち込み足取りがおもくなったりしながらも、果てしなく広がる荒野を着実に歩み進める二人だった。
不安を抱えたまま進むその姿は、まるで何かに導かれるように。
「おなかすいたね」
この荒野を歩き始めてから、リンコのほうから話しかけたのは、そんなに多くなかった。
「あ、ああ!寝るところも探さないとだな」
白紙のような子の何もない台地に住居などなく宿泊施設なんてあるわけがなかった。
二人の影はながくなり、太陽は半分ほど沈んでいた。
「私達、どうなるのかな」
そう言いながら、前を歩いていたリンコがイッキのほうへ振り向く。
リンコノ表情が一変するのに気づく、それと同時に後ろからのただならぬ気配を感じた。
「・・・!!! わっ!ううう後ろっ!」
リンコの言葉と同時に、いや、少し早いぐらいにイッキは振り返った。
黒い狼、黒豹、二人が知っている言葉で表現するならそれが一番近い。
しかし、確実にその二つよりまがまがしい姿の動物が猛烈な速さで向かってくる。
イッキが振り返り終わった頃には、それはすでに飛び掛り宙に浮いていた。
こんなにも鋭利な動物の牙があるだろうか。
人間が作り出した刀剣にも負けず劣らずの輝きを放っていた。
避けることができるはずもなく、瞬間的に手で顔を覆うことがイッキには最善策だった。
リンコにも、これからどんな結末が起きるのか安易に想像できた。
その時
イッキの手の甲に刻まれた紋章が強く輝く!
この時、この瞬間を待ち望んでいたといわんばかりに。