■9×I met two killers■
■9×I met two killers■
「遊月サンの彼女?」
唐突過ぎる世の質問にセノは一体何て答えればいいのか全く分からなかった。自分と遊月がどんな関係だなんて考えたことが無かった。
ただ一緒に居る、いつの間にかそれが当たり前のことになっていた。
「それより、お前達は何してんだ」
セノが戸惑っていることに気付いたのか遊月が話を変える。
「ボク達は指令で来たんです。一様、ボク達“KILLER”ですから」
遊月の問いに答えた砦。
「“KILLER”?」
聞き慣れない単語にセノは首を傾げる。
「“KILLER”は通称と言うか、そのまま“殺し屋”の意です。吸血……」
そこまで話してからハッ、とした表情で砦は遊月を見上げた。
「知ってる、俺が吸血鬼だってこと」
「良かったぁ。
じゃあ普通に話して大丈夫ですね。ボクと世は“KILLER”で、墜ちた吸血鬼。つまり自らの吸血鬼の血に押しつぶされて最悪、見境無しに人を襲うようになってしまった吸血鬼を殺すのがボク達“KILLER”の仕事なんです。あっ、因みにボク達も吸血鬼です。簡単にまとめたつもり何ですけど、分かりましたか?」
「……うん。分かったケド、良くわからないような感じ」
セノは複雑そうな表情を浮かべると、遊月を見上げた。
「お前らさぁ、この空間内で俺の師を見なかったか?」
「遊月サンの師ですか?……ボクは見てないです。世は?」
「ボクも見てないよ。少し前に失踪したって噂になってたけど、本当?」
世の言葉に遊月はただ頷いた。
「ふ〜ん、そうなんだ」
世は一言呟く。
「あの……遊月サンは、師を探しに来たんですか?」
「あぁ」
「ボク達の今回の獲物なんですけど……経歴などを見たところ、元情報屋らしいんです。まだ最悪レベルまで墜ちてませんから師の手掛かりが聞けるかもしれませんよ?」
「……そいつは何処だ?」
遊月が尋ねると、世は何かを含んだ笑みを浮かべた。胸の前で両手を組んで、らんらんと瞳を輝かせる。
「仕事、手伝ってくれる?遊月サン」
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世と砦と共に、彼らが仕事の為に借りた部屋へと向かったセノと遊月。歩道橋から少し東に向かい、大通りを抜けて行くと煉瓦作りの古ぼけたアパートに入っていく。外見からは想像もつかない程に広く、清潔感のある室内。
「何で俺がお前らの仕事を手伝わなきゃならねーんだ」
「良いじゃん、なぁ?砦、お前だって遊月サンに手伝って欲しいよな」
「でも、無理矢理に手伝ってもらうのは遊月サンに悪いんじゃ…………ぅあ」
余所見したせいで、躓いた砦は何歩かよろけてから床に倒れた。
手に持っていたプレートの上から、遊月とセノの為に運んでいたコーヒーカップが床に落ちて割れる。
「砦クン!」
すぐさまセノが駆け寄り、倒れたままの砦を起こす。床に無惨にも散らばるコーヒーカップの破片を拾い、プレートの上に乗せた。
「火傷しなかった?」
「あっ、はい大丈夫です、ありがとうございます。今、新しいの煎れてきますね」
「じゃあ、あたしも」
「えっ、あっ、すいません」
プレートを持った砦の後に次いで、セノもキッチンへと向かった。ソファから立ち上がった世が、零れていたコーヒーの液体の上に手を翳すとあっという間に液体は消え去る。
「無駄に使うなよ」
それを見ていた遊月はポツリと呟いた。
「えぇ〜、この場所だけ少し時間を前に戻しただけだよ」
「お前なぁ」
「力があって使えるのに使わないなんてナンセンスだよ、遊月サン」
ニコリと笑って見せた世。
「……そうかも、な」
遊月は自嘲するようにそう言うと、ソファに身を預けて溜め息を吐いた。
「何か遊月サン、少し会わない間に変わったね」
遊月は何も言わず、ただ世を見やっただけだった。