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■5×where is my ... ?■


■5×where is my ... ?■



 隣りで穏やかな寝息をたてぐっすりと眠っている香良。遊月はそんな彼女の少し汗ばんだ白い肌を隠すように、ベッドの下に落ちていた黒い着物を掛けた。

床に散らばった自らの衣服を集め香良の部屋に備え付けのバスルームに向かうと、手早くシャワーを浴びて着替える。

バスルームから出ると、ちょうど香良が起きた所だった。素肌に黒い着物を羽織り、赤い紐で細い腰を縛っている。


 「香良様、お目覚めですか」

 「黒唯……もう下界に?」


裸足のまま、ペタペタと香良は遊月の元に歩いてくる。


 「はい」

 「ふ――ん」


遊月の背に両手を回して抱きつく香良。


 「あなたには特別許可を下ろしてあげたじゃない?」


上目遣いに遊月を見上げると、瞳を細めながらクスクスと笑う。


 「赤い月の日以外の吸血許可のことですか?」

 「だからと言って、ずっと下界に居るのは感心しないわ。恩師が恩師だし、しょうがないけど。知ってた?あなたの恩師失踪中なの」


香良の一言で、今まで平常心を保っていた遊月の表情が一変する。そんな彼の様子を見上げながら、香良は赤い唇を弓形に吊り上げると満足そうな笑みを浮かべた。背中に回していた腕を解いて、遊月の胸元に這わせる。段々と手のひらを上へと這わし、胸元から首筋に、頬へと。


 「黒唯、あなたの恩師ね〜勝手に失踪したのよ。だから、あなたが探してちょうだい」

 「ですが失踪とは………」

 「そうねぇ、見つけ出したら……彼女を即刻、殺してちょうだい」


とても残酷なことを言っているというのに遊月の胸元に額を付けて、さも楽しそうに声をあげて香良は笑っていた。


 「そうだ黒唯、                     どうかしら?」


部屋を出る時、香良は遊月の耳元でそっと囁いた。


‐‐‐


 「フン……血神の暇つぶし、いや遊具に会うとはな」


香良の元から去り、屋敷を出たところですれ違い様に男に声を掛けられた遊月。あからさまな嫌みを含めたその言葉に遊月は立ち止まり、後ろを振り向く。すれ違った男も立ち止まり振り返っていた。


 「お前に言われたくないな、躑躅[ツツジ]」


躑躅と呼ばれた白いスーツの男。灰色の髪は光を集めると、蜘蛛の糸のように白く輝いて見える。軽くクセがついた髪は肩より少し上までで、髪の間から覗く耳元から首筋にかけて握り拳ほどの黒い蝙蝠の入れ墨。日に焼けた肌に栄える切れ長、深紅の瞳。薄い唇には銀のピアスが一つ輝いている。


 「言われてもおかしくないようなコトを、しているんじゃないのか?」


ククッと喉で笑いながら、躑躅は遊月を見やる。


 「此処じゃお前と血神の仲は皆、知ってる」

 「そうか?人気者は辛い」


茶化すように、笑いながら言って見せる遊月。


 「良くいう、吸血鬼の面汚しめが」

 「躑躅、君だって血神に呼ばれたからこそこんな所に来たんだろう?」

 「だから何だ」


 

表情一つ変えずに、いけしゃあしゃあと言い放つ躑躅。


 「せいぜい、彼女を怒らせないようにするんだね、躑躅。やり方が違うとも、俺もお前も願う事は一つだろう」


遊月はそう言い残すと、前を見て歩き出した。


 「ククッ、お前のような奴に心配されたくない」


そう言って、躑躅は屋敷の中へと消えて行った。



■■■■■■■■■



背中に感じる仄かに暖かい温もり。

鼻孔を擽る酷く甘い匂いがセノの意識を覚醒へと導く。髪を梳くように指先で撫でられて、擽ったさに体を丸めた。


「おっ、起きたみたいだな」

「…………遊…………月…?」


横向きで寝ていたセノを後ろから、覆い被さるように見やっていた遊月。彼と視線が合うと、ニヤリと遊月は笑ってみせた。


「俺以外に、誰がいるってんだ?」

「………匂い」


背伸びしながらポツリとセノが呟く。その直後、遊月の表情が堅いものへと変わった。それは一瞬のことで、瞬きの後はいつも通り表情に戻っていた。


「この匂い……」

「痕、消しといた」


話しを変えるように、遊月はセノの首筋を指差す。セノが自らの首筋に手をやるとそこにあるべきはずの二つの牙の痕が消えていた。


「着替えてくる」


そう言うと、セノはベッドから起き上がる。ソファに掛けてあった薄手の上着を羽織って、部屋から出て行く。

部屋に残された遊月もベッドから起き上がり、緩く締めていたネクタイを片手で解く。そのままネクタイを首にぶら下げて、スーツの上着を脱ぐとソファに放り投げた。


「ったく、この匂いは水でも落ちないか………」


甘い、甘い香水のキツい薫り。ねっとりとまるで絡みつくような甘ったるい匂いが、体中を包み込んでいた。シャワーを浴びても一向に落ちない匂い。それでも、ここに戻ってきた時に比べれば大分ましになっているはずだろう。


「……また、シャワーでも浴びるか」


ワイシャツの釦をプチプチと外しながら遊月はバスルームへと向かった。




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