■2×THE BLOOD INCREASE DISEASE■
■2×THE BLOOD INCREASE DISEASE■
白い肌を首筋から胸の谷間のすぐ側まで、ゴツゴツした手のひらが何度も何度も這うように動く。
あまりの擽ったさに豊かな胸の持ち主が身動きすると、首元にズキリとした痛みを覚える。
「……………っ」
うつらうつらなまま、痛みを覚えたその場所に触れようと腕を伸ばす。
首筋に触れていた髪を退けた途端、その細い手首を角張った大きな手のひらに掴まれた。
「折角、固まりかけてんのに触んな」
「……遊月[ユヅキ]手首、痛い」
遊月、とそう呼ばれた男は肩下まである少し紫がかった夕陽の色に似た髪。
細くしなやか、柔らかそうで光を受けなくても艶がある。滑らかな白磁の肌に、切れ長の澄んだ蒼い瞳。鼻筋の通った端麗な顔立ち。
弓形につり上がった薄く、紅をひいたように赤く艶やかな唇。軽く着くずした細身の紺色のスーツから覗くのは引き締まった胸板。
背中に回された腕が、床に横になっていた少女の細い体をぐっと優しく抱き寄せる。
「痛いの嫌か?」
低く、それでいて適度な甘みを含んでいる独特の声色。
至近距離ギリギリまで顔を近づけて囁くように尋ねる。
「勿論、嫌」
遊月の指先が、やわやわと少女の白い胸元に伸ばされる。
「何考えてるの、変態」
胸元に触れるか否かのところで、少女は手首を掴み止める。
光によって、緑がかって見える漆黒の胸下まである細く、キツく巻かれた髪。
パッツンに真っ直ぐ切りそろえられた前髪は大きな黒い瞳のギリギリ。長い睫が瞳の周りを囲み、右の目元にある泣き黒子が何とも言えない色っぽさを醸し出している。
滑らかな雪のように透明感のある白い肌にふっくらとした女らしい唇。
「お前が俺の腕の中でぐっすり眠ったせいで、俺は一晩お預け食ったんだ。俺が言ってる意味分かるよな、セノ?」
ニヤリと口元だけで笑い、抱き寄せたセノのキャミソールの裾から片手を差し入れる。
冷ややかな視線を送る彼女が全く抵抗しないことに気を良くした遊月は、ヒヤリとした冷たい手のひらで、セノの傷一つない腹部から腰を撫で回す。
「やだ」
パシッと遊月の頬にセノの平手打ちが入り、それと同時に鳩尾に蹴りが入る。
セノから両腕を離して鳩尾を押さえ、背中から倒れ込んだ遊月。痛がっては見たものの、実際の彼はこれっぽっちの痛みも感じてはいない。
「何すんだ」
「調子に乗りすぎ!」
そう言って勢い良く立ち上がり乱れた服を整えるセノ。
その直後、立っていられないほどの激しい目眩に襲われて足元がふらつき、そのまま倒れそうになった。
「おっと………ったく、無茶すんな」
危うく倒れそうになったセノ危うく倒れそうになセノの体を抱き止める。
乱れて首筋に掛かる髪を退かし赤黒い血の固まったその場所に湿った舌を這わせると、セノの体がピクリと反応する。
「………無茶させて、こんなになるまで血を吸ったのは遊月じゃない」
「俺を誘ったのはお前だろう、セノ」
T.B.I.D.[血液増加病:THE BLOOD INCREASE DISEASE]
原因不明、発症者今までにゼロ。そんな病気にセノの体は侵されている。
T.B.I.D.の症状は体内の血液が異常に増加し、定期的な激しい胸の痛み、酷い時は呼吸混乱に陥り最終的には大量の吐血をしてしまう。
未だ治療法も発見されていないこの病気にセノは幼い頃からずっと、苦しめられていた。医師から出されている鎮痛剤などは全く効かず、ただ体内の血液が正常な量に戻るまでひたすら血を吐き出し胸の痛みに耐える。
冷気が辺りを包み込み、白い雪が降りしきる冬のことだった。
病気の症状に襲われたセノ。死んだ方がましだと思うほどの苦痛に苛まれていた時、彼女は遊月に出会ったのだ。