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■16×Introductory chapter to end■


■16×Introductory chapter to end■



所々が切れて、白く薄汚れた長い黒のコートに身を包んだ人物。顔を隠すかのように目深に被った黒い帽子。白っぽく汚れた黒い手袋をした手に大事そうに握られているのは、何重にも布でくるまれた細長い棒状の物。

人物の目の前には、高い柵で囲まれた広い屋敷。その屋敷の表札を見やり、もう一度確認する。手袋を外し指先で柵に軽く触れると、外部からは開くはずのない柵がいとも簡単に開いてしまう。

手袋を填め直し、開いた柵の隙間からその人物は屋敷の中へと足を踏み入れる。


「……………………黒唯」


ポツリと呟いた人物は、目の前に見える屋敷へと歩いて行った。


‐‐‐


「置いといた本、知らない?」


セノはビッシリと古書が詰まった応接室の本棚を眺めつつ、ソファに寝ころんだ遊月へと尋ねる。


「さぁな」


大きな欠伸をしながらポリポリと首もと掻き、答える遊月。


「あっ、あった。あった」


本棚の奥を覗き込んだセノは、探していた本を見つけたようだ。本棚の奥に腕を伸ばして、探していた本を取り出した。被っていた埃を片手で払いながら、遊月の隣りのソファに座ってその本に目を落とすセノ。


「なぁ、セノ?」

「ん?」


セノは本から視線を上げて遊月を見る。丁度その時だった、来客を知らせる電子音が屋敷内に鳴り響く。セノは読み始めたばかりの本を閉じて玄関ホールへと向かった。


 扉の覗き穴から外の様子を見やると、そこには誰の姿も見えない。不信に思ったセノは鍵を解除して扉を少し開いた。


「…………キャ?!」


突如、横から伸びた黒い手袋をした手に手首を強く掴まれたセノ。掴まれた腕を解こうとするが、掴まれた腕は一向に外れない。


「離して!遊月!!遊月、来て!!」


うとうとソファで眠りかけていた遊月だったが、聞こえてきた叫ぶようなセノの声にソファから起き上がり急いで彼女の元へと向かう。


「セノ!?どうした!!」

「嫌!離して!!遊月!!!」


玄関ホールでは全身を黒一色で包んだ人物が、セノの腕を掴んでいた。遊月はすぐさま黒一色で全身を包んだ人物の腕をセノから離させると、その人物の胸ぐらを掴んで玄関ホールの壁に強く押し付ける。胸ぐらを強く掴む遊月の手首を片手で掴むと、黒づくめの人物はいとも簡単に頭上高く捻り上げた。


「黒唯、私だ」


遊月の手首を思い切り捻り上げたまま、棒状の物を持った片手で、被っていた帽子を脱ぐ。遊月はその声に驚いたようにその人物を見た。


「螺螺[ララ]様…………」


螺螺と呼ばれた人物は、捻り上げていた遊月の手首を離して持っていた帽子を彼へと押し付けた。

太陽の黄金の光を細く捩ったような金髪の髪を一つにまとめ、高く結っているその女性。透明感のある滑らかな女性独特の白磁の肌に、桃色のまるで花弁のようなふっくらとした唇。黄色がかった茶色の瞳は少し吊り目がちで、初めて彼女に会った者には取っつきにくいような印象を与えるだろう。


「相変わらずだな、黒唯。やるのなら骨の二、三本折るぐらいの力を入れなければ意味がない、とそう何度となく教えたはずだが。私が教えたことをもう忘れたのか、馬鹿者が」


遊月を睨み付けながら荒々しく言い終えた後、螺螺はきょとんとしているセノの目の元まで歩いて行く。目の前で立ち止まると、上から下までセノの全身を見やった。


「亜宮セノか?」

「え、あ、はい。そうです」

「私は螺螺、黒唯の師匠だ。この馬鹿者が世話になっているようだな」


少し威圧感のある声音に、強い口調。女から見ても憧れの対象になるだろう。


「いえ、こちらこそ。あの……師匠さんってことはもしかして、遊月が探してる………」

「私のことだろうな」


きっぱりとそう言って退ける螺螺。


「セノ、バスルームは何処だ」

「あっ、奥です」

「今から風呂に入りたいのだが、構わないか?」

「あっ、はい。すぐに用意します。替えの服はどうしますか?」

「心配するな、替えならある」

「用意してきますから、少し待ってもらって良いですか。すいません」


頭を下げて言い残し、足早にバスルームへと向かったセノ。その姿が遠ざかったことを螺螺は確認してから、遊月に視線を向けて口元だけで笑った。


「セノ……か。なかなか、良い子じゃないか」

「はい。螺螺様、お借りしていた物をお返しします」


遊月は銀のチップを螺螺へと手渡す。


「ああ、このチップなら血神にも探知不可能だからな。連絡をとるには持ってこいだっただろ?」

「ええ」

「………百の時代と空間を巡り、やっと見つけた。これが“例の物”だ」


螺螺は、何重にも包まれていた棒状の物を遊月へと差し出した。螺螺は一枚、また一枚と慎重に布を解いていく。大事そうに何枚もの布に包まれていたのは、深紅の鞘に収まった鞘と同色の柄を持つ刀だった。




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