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■13×Her desire■


■13×Her desire■



遊月に抱き抱えられながら砦と世のアパートに戻ってきたセノ。腰は抜けるは、気を失うは、で大変だったが戻る時に人に会わなかったことがせめてもの救いだった。部屋に入るなり、セノをソファに下ろしてスーツ片手にバスルームに向かった遊月。

部屋に一人になったセノは服に鼻を擦りつけるように匂いを嗅ぎ、すぐに表情を歪ませる。


「血の匂い……」


遊月の服に付いていた血がどうやらセノの服にも付いてしまったようだ。バスルームからは絶え間なくシャワーの水音が聞こえている。

セノはゆっくりとした動きでソファから立ち上がり、足踏みしてみるとどうやらもう歩けるみたいだった。

そのままキッチンに向かい、水道の水で袖についた血の匂いを洗い落とす。水に濡れて少し重くなった袖を片手で器用に絞り、片手で叩きながら伸ばして水気をとばし始めた。



「はい、黒唯です…………………ええ…………はい……………………………………お気をつけて…………大丈夫です………ええ……………………では」


シャワーを流して音を消し、銀のチップを持ちながら遊月は話していた。ネクタイを解きワイシャツの釦を外し終えた所で、チップをハンガーに掛かった新しいスーツの胸元に仕舞う。

目の前の鏡で赤黒い血にまみれた自らの姿を見た遊月、その途端にドッと疲れに襲われた。


「ったく、一体どうなってんだ……」


‐‐‐


一人でソファに座りながら、セノは遊月のことを考えていた。セノが遊月について知っていることと言えば、名前と吸血鬼であること。

それだけしか知らないのだ。先ほど世と砦が『遊月サンは過去の“KILLER”の中でも指折りの力を持っていましたから』と言っていたがそんなことセノは知らなかった。聞こうとしても何を聞けば良いのか、聞いたとしても遊月のことだからはぐらかすに決まっている。


「あたしと遊月の関係……」


それは一体何なのだろう。友人、親友、恋人、家族。その4つのどれかに当てはまるのなら簡単だろう。しかし、遊月はどれにも属さない。

友人の様に話し、親友の様に悩みを打ち明け、恋人の様に一緒にいて、微かな記憶の中にある家族の様に一緒にいると安らげる。遊月はどれでもあって、どれでもない。彼はそんな存在だ。考えれば、考えただけ答えの出ない深みに深く、深くはまっていく。

少しでも、何らかの関係に収まっていれば安心は出来る。一番怖いのは、何の関係にも収まっていないこと。いつ切り捨てられて、一人にされてもおかしくはないのだ。


「セノ、どうかしたのか?」


急に声を掛けられ、全く予期していなかったセノの体がビクリと跳ねる。


「遊月………」


セノが俯いていた顔をあげると、着替えを済ました遊月がいつもと同じ表情で覗き込んでいた。


「どうかしたのか?」


同じように再度尋ねてくる遊月を見て、セノは首を横に振って否の意志を表す。


「そんな訳ねーだろ、目」


 

遊月に言われて目元に指先で触れると、温かい水が瞳から零れていた。俯いていたせいで、抱えていた膝も少し濡れている。


「何でも無い」


手の甲で何度も、何度も目元を擦りながらセノは変わらぬ声で言う。


「……お前なぁ、そうは言うけどな。何にも無くて、泣く奴は居ないだろう」

「……何でも無いって、本当」

「俺か?」


遊月の問いに、セノは答えなかった。下を向いて、俯いたままただ黙っていた。


「俺……だな」


短いため息を吐き、セノの隣りに座る遊月。膝を抱え下を向いたまま押し黙ってしまったセノの髪に触れて、やわやわと優しく撫でる。


「俺、何かセノが泣くようなことしたみたいだな」

「……何も、してない」


蚊の泣くような声でポツリ呟いたセノ。


「とは、言ってもなぁ……お、わっ」


突如として、抱き付いてきたセノに驚いた遊月。いきなりのことに戸惑いながらも、慰めるようにセノの肩を抱き背を撫でる。


「………遊月」


セノ自身でも、一体何を言いたいのか分からない。両親を無くしてから遊月に会うまで、寂しくても辛くても結局は一人でも大丈夫だった。

それでも、今は遊月がいることが普通になってしまった。彼が居なくなったらどうしよう、一人になったら、そう考えると行き場のない不安に駆られる。一緒に居て欲しい、と言えば伝わるのかもしれい。でもその一言を言ってしまえば、今の関係が壊れるかもしれない。


「……どうしたんだ、急に」


首を横に振るだけで何も答えようとしないセノ。遊月は肩を抱いていた手を解いて、きっちりと巻かれた黒髪を撫でる。


 「言わねーなら……血吸うぞ」

 「…………………………良いよ」


ほんの冗談のつもりで言った遊月だったが、セノは吸いやすい様にと首を傾け邪魔な髪を払って白い首筋を露わにする。そんな彼女の様子にさすがの遊月も驚いて、髪を撫でていた手を止めた。




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