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■12×The end of zero■


■12×The end of zero■



「ったく、しゃーねーな」


軽口を叩きながらも、その視線はしっかりと目の前に立っているゼロを見やっている遊月。普通、ゼロまで墜ちた吸血鬼には最高レベルの“KILLER”が最低でも四人派遣される。そんな奴を遊月は今から一人で相手にするのだ。


「さてと、どーすっかなぁ」


言いながらも動きやすいようにとスーツの釦を外して、ネクタイを緩め、ワイシャツの釦を二、三個外していた遊月だったが、ゼロは待ってくれるはずもない。激しい地響きをさせながら、遊月の元に走ってくるゼロ。

肉が裂ける音がして、ゼロの腕から何本もの白い牙が生えだした。辺りに酸を吐き出しながら、迫ってくるゼロが牙の生えた両腕を遊月の上で勢い良く叩き下ろす。沢山の砂埃が舞い、アパートの上からの視界が悪くなる。


「遊月!」


口元を両手で覆い、叫ぶように名を呼んだセノ。しばらくして舞い上がっていた砂埃が晴れると、そこにあるのはゼロの姿だけだった。遊月の姿を探すセノだったが、彼の姿は何処にも見当たらない。

泣き出しそうになったセノ、その時だった。ゼロの巨大な体が前後にグラリとふらつく。何とか体勢を立て直したゼロだったがその直後、牙の生えた両腕が煉瓦の敷き詰められた地面に落ちる。腕の切断面からはドクドクと深紅の血液が流れ出て、あっという間に大きな血溜まりが出来る。


「……………貴様……何ヲ…」


ゼロは血を流しながら後ろに向き直る。切断面から流れ出る血液が、止まることなく溢れ出ていた。


「……何って、斬っただけだろ」


ゼロの後方に立っていたのは、先ほどまでは白だったワイシャツを深紅に染めた遊月の姿だった。その手のひらに握られているのは、彼の身長を悠々と越える赤い刃の鎌。鋭く尖った鎌の先からは真っ赤な血がポタポタと垂れていた。


「遊月!」

「だから遊月サンは大丈夫って言ったじゃん?」


世は泣き出しそうになっていたセノを見て、そう言った。


 「遊月サンいつになったら、戻ってくるのかな」

 「えっ?」


セノが砦を見上げる。


 「普通、吸血鬼は同じ場所に長くは居ないのが普通だからね」


世はそう言って、下を覗き込む。


「……おい、殺って良いのか?」


アパートの上に向かって叫ぶ遊月。


「お願いします、遊月サン」


砦が両手で丸を作りOKサインを出す。


「分かった」


遊月は鎌を引きずりながらゼロに向かい走り出す。ゼロも辺りに血をまき散らしながら遊月に向かって走り出していた。遊月はゼロとぶつかる直前に鎌を軸にして飛び上がり、鎌を引き上げて空中で一回転して握り直す。遊月に向かいゼロが吐き出した酸を避けながら、ゼロの脳天目掛けて鎌を振り下ろした。


「グゥゥェァァァア―――……」


耳をつんざくような悲鳴と真っ赤な血。遊月がゼロの肩に両足を乗せ重心を移動させて鎌を引き抜くと、まるで噴水の様に頭部から吹き出す血液の雨が辺り一面に降り注いだ。ゼロの巨大な体が一瞬で灰と化し、辺りには血溜まりだけが残っていた。


「おい、終わったぞ」


ゼロの鮮血に頭から真っ赤に染まった遊月が、アパートの上を見上げながら呼び掛けた。


「あっ、すいません!今、行きますから遊月サン、ちょっと待ってて下さい」

「おい!砦、どうかしたのか?」

「遊月サン、セノサンがゼロが死ぬところ見て気ィ失って倒れちゃったよぉ」


世がアパートの上から身を乗り出して遊月にブンブンと両手を振る。


「……分かった。今、行くからそこで待ってろ」


‐‐‐


血生臭く、とても酷い血液の匂い。あまりの酷い血の匂いにセノが目を覚ました。目を覚ましたセノの目の前に見えたのは、ただただ深紅だけ。


「血……遊月、血出てる!」


遊月の腕の中でセノは目を覚まし、血で赤く染まった彼の服を掴んだ。


「……あ?ああ、平気だ。これは俺の血じゃねーよ。それより、セノお前こそ気失ってたんだぞ」

「なんか血が出て…でも、もう平気」


そう言って、セノは遊月から視線を逸らした。ゼロの脳天に鎌を突き刺した時の遊月の表情。そんな彼の表情が今も離れない。たった一瞬だったが、それはとても冷たいあまりに冷酷な表情だった。


「どうした?」

「………ううん、何でもない」


笑って誤魔化すセノ。


「ボク達、片付けときますから。遊月サン達、ありがとうございました。まだこの空間内に滞在しますか?」

「いや、空間内に師の気配もしないからな。もう、ここには居ないんだろう」

「じゃあ、遊月サン戻っちゃう?」

「何かあんのか、世」

「別にない」


しれっ、とした態度で言い放つ世。


「遊月サン、もう夜明です。そのまま、街中を歩くと…………」


ゼロの血に染まった遊月を見上げながら、砦は困った表情を浮かべていた。


「確かに、そうだな」


血に染まったワイシャツ。髪から垂れたゼロの血液が頬を伝い、新たなシミをつくっていた。


「部屋に替えのスーツありますから、それ着てっいって下さい」

「………そうか、悪いな」


歯切れ悪く、そう呟いた遊月。セノの腕を掴んで起こそうとしたその時。


「遊月………腰抜けちゃた…みたい」


上目遣いに彼を見ながら、セノは恥ずかしさに頬を染めて言った。




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