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とある大学生の非日常

作者: 鍵一

この物語はふと思いついた話であり、なおかつリハビリを目的として執筆したものです。


過度な期待はしないでください。


面白くなくても作者は一切の責任を負いません。それでも構わない方のみ、本編へと進んでください。


夜中の午前三時ごろ、上島孝樹うえしまこうきは異様な寝苦しさに目を覚ました。孝樹は上体を起こし、軽く目を摩った。


いつもと同じ自分の部屋。だというのに、何故かいつもとは雰囲気が異なっている。しかも誰かの視線のようなものまで感じる。ただ事ではないだろう。


孝樹は眠そうな目で視線の主を探す。部屋は真っ暗なため、光源は窓から差し込む月の明かりのみだが、暗闇に慣れている目ならば、辺りを軽く見渡すぐらいならそう難しくはない。


だが、やはりと言うべきか、視線の主は見つからなかった。まあ当然だろう。孝樹は1LDKのボロアパートに一人暮らしをしているのだ。自分以外の人間がこの部屋にいる訳がないのだから。


いるとすれば不法侵入者ぐらいだが、このアパートの住人には貧乏人しか住んでいない。そんなところに態々危険を冒してまで盗みに来る泥棒などいないだろう。


では、この視線の主は一体どこの誰で、何者なのだろうか?


孝樹がこのアパートに暮らし始めたのは一月ほど前のことだ。県外の大学に進学した際、家賃の安いこのアパートを不動産屋に紹介された。


しかし、今までこんな不可思議な事態が発生したことは一度もなかった。何故今頃になってこのようなことが起こったのか、孝樹には理解出来なかった。


「…………くそ、面倒だな」


孝樹はそう一人ごちると、再び布団に潜り込んで目を閉じた。相変わらず視線は消えなかったが、今日は遅くまでバイトをしていたのですぐに寝入った。







『……め…い』


うるさい。


『う…め……』


だまれ。


『うらめしい』


消えろ。


『怨めしい……ああ、怨めしい』


「るっせいって言ってんだろ!!!」


怒鳴りながら目を覚ました孝樹は眠気でふらつく頭を押さえながら時計を見る。時計の針は、朝の五時を示していた。


孝樹は我慢の限界が近づいていた。睡眠不足の状態で大学の講義に出る訳にはいかない。きちんと講義を聞いていないと、損をするのは結局のところ、自分なのだから。


視線は感じない。ただ、異常な冷気が室内を漂っていた。春も過ぎ去り、今では五月の中旬だ。梅雨入りまでもう一月というところまで来ているのに、この部屋は冬のように寒い。


この状況は明らかに異常だ。それも、今まで孝樹が体験したことのないもの。こんな訳の分からない事態に陥った孝樹の怒りは天井知らずだ。今ならヤクザ相手でも正面切って罵れそうだ。


そして、孝樹は気付く。己が被っている布団が異様なまで膨らんでいることに。そう、まるで、自分以外にもう一人・・・・布団に潜り込んでいるようだった。


孝樹は意を決して布団を引っぺがした。するとそこには………………


『怨めしい……ああ!怨めしい!!!』


女が、いた。


血色の悪い肌。手入れの行き届いていない黒い長髪。顔は髪に隠れてよく見えなかったが、まるで血のように鮮やかな赤い唇だけが女の異常さを引き立たせていた。


これはもしや、幽霊やお化けといった系統のものではないかと、孝樹は怒りと寝不足で上手く働かない頭で考えたが、そんなことはどうでもよかった。


ただひたすらに………………


『怨めs』


「ふん!」


『あべし!!?』


殴りたくてしょうがなかった。


女は自分の身に何が起きたのか理解できなかったが、そんな女の事情など意にも介さずに、孝樹は更にジャブを三発、そして止めと言わんばかりのアッパーを女の顎に命中させた。


驚きと混乱でなにも考えられなくなった女の髪を片手で掴み、そのままずるずると引きずりながら孝樹はドアを開けて女を外に放り投げた。


「おい」


孝樹は幽霊と思しき女を見据える。女は呆けたように口をぽかんと開けたままだ。


「二度と俺の前に姿を見せるな。もし次にお前を見かけたら………その首の上に乗っかっている毛の生えた石っころを踏み砕くぞ」


孝樹はそう言うと、近所の迷惑ならない様に静かにドアを閉じて布団にダイブした。







大学に行く時間になった孝樹が外に出ると、大家が敷地内の掃除をしている場面に出くわした。


「おや、上島君、おはよう」


「おはようございます」


「大学かい?」


「ええ」


「そうかい……。今日も何もなかったみたいだね」


後半、何を言ったのか聞き取れなかった孝樹は、首を傾げた。大家はそれに気づき、なんでもないよと手を振った。


そこでふと、自分の身に起きたことを思いだし、それを大家に言ってみようと思った。もしかしたら、何らかの情報を得られるかもしれない。


孝樹の話を聞いた大家は、一言済まなかったと謝った。


何でも、孝樹の部屋は十年ほど前に自殺した女が住んでいた部屋らしく、そこに引っ越してきた者は女の霊を見て出て行くことが多いそうだ。


孝樹も出て行くのだろうと思いこんだ大家は、孝樹にいつごろ出て行くのか尋ねたが、孝樹はこんな格安のアパートを出て行くわけにはいかないので部屋に残る旨を大家に伝えた。


「ど、どうしてだい?上島君はあの女の霊を見たんだろう?気味が悪くないのかい?」


「そうですね。ムナクソは悪いですが、殴り飛ばして外に放り出したのでもうでてこないんじゃないですか?」


それに、もしまた出てくることがあれば、二度目の死を味わってもらいますがね。孝樹はそう言い残し、大学へと向かった。


後には、孝樹の恐ろしい一端を知ってしまった大家だけが取り残されていたそうな。



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