冬といえば…
「……なぁ」
「何?」
「……それ、おいしいか?」
「ええ、おいしいわよ」
「そうか」
「うん」
「……」
「……」
「……なぁ」
「何?」
「……それって何味?」
「苺味よ。決まってるじゃない。それ以外は邪道よ」
「そうか」
「うん」
「……」
「……」
「……なぁ」
「ああ、もうさっきからなぁなぁうるさいっ! 言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ! それでもあんた男!?」
「いや、だって……なぁ?」
「何よ」
「……この真冬にかき氷って、どうかと思うんだが?」
「あら、いいじゃない別に。おいしいわよ?」
「いや、そうじゃなくてさ。かき氷は普通夏だろ?」
「冬に食べるかき氷も格別よ? やっぱり冬といえばこれよね!」
「いやいやいや。暖房のきいた部屋で炬燵に入りながら言う台詞じゃないぞソレ」
「炬燵に入りながら食べるかき氷は最高よ?」
「いや、そこは普通蜜柑だから。ってだからそうじゃなくて、……ああもういいや。なんか疲れた」
「そう。……食べる?」
「いらん。つーかよくかき氷なんて用意できたな。うちにかき氷作る機械なんか無かったはずだが?」
「実はこの間ちょっとしたツテで手に入れたのよ」
「ふぅん」
「先輩のバイト先のスーパーで、売れ残ってたの見つけてね。それをもらってきたのよ」
「へぇ。太っ腹だな、その店」
「ええ。店員は皆平和ボケしてたから、持ち出すのに案外時間は掛らなかったわ」
「……おい、ちょっと待て。今ずいぶんと不穏な発言を耳にしたんだが」
「気のせいよ、キノセイ」
「……ちなみに、誰に断って持って来たんだ?」
「高橋よ」
「誰だよ?」
「近くにあった……置物の犬」
「それ人じゃねぇよ! つか、何売り物に名前つけてんの!?」
「命名したのは先輩よ」
「知らねえよそんなことっ! というかお前それ万引きじゃねえか! もうこれで何回目だよ!?」
「53回よ、まだ」
「『まだ』じゃない、『もう』だろっ! いい加減足洗え!!」
「うるさいなぁ。そんなに言うんならかき氷あげないわよ?」
「いらねえよ! そんな万引き犯の手で汚れたものなんて!」
「汚れてなんかないわよ。あ、もしかしてシロップ無しがいいの? 物好きねぇ」
「え、氷だけ? 味無し? 何それ美味いの? って話をずらすなああぁぁっ!!」
「うるさいわねぇもう。ほら、一口あげるから。えいっ!」
「んぐ……っ!?」
「おいしい?」
「…………ん」
「でしょ? もう一口いる?」
「……おぅ」
「ふふん。やっぱり何だかんだ言ってあんたもかき氷食べたかったんじゃない」
「……なんでこんな奴に惚れたんだろ、俺……」
「なんか言った?」
「いや、なんにも!」
「そう。ほら、もう一口。口開けて」
「っ!? いい、自分で食えるっ。スプーンよこせ!」
「ええぇ。いいじゃない別に」
「う、うるせぇっ!」
最後ちょっと甘めにしてみました。