悪乗りしてみた
「で、味覚が残念なことになっていると巷で有名な小百合さんがこんなありふれたスーパーにどんな御用でしょうか?また生体実験でもなさるおつもりかな?」
「一体私はどこのマッドサイレンティストなのよ!!それに私は別にそんなつもりはないよ。ただ、今日はお父さんもお母さんもいないから長女としての責務を全うしようとしただけよ。」
「へぇーー。最近の長女の責務には血の通った実の弟を食中毒で病院送りにするのも姉の仕事だったんだー。それは初耳だなーーー。」
俺がそう言うと小百合はバツの悪そうな顔をして顔を背けた。
「…………………………………あれはたまたま食材が腐ってただけよ。もしくは咲哉の胃腸が軟弱すぎたのよ。これだからゆとり教育世代は軟弱ものが多いのよ。」
「スゲェ!?まさか教育制度外のことまで政府のせいにするとは思わなかったよ!!」
「違うのよ。家庭だけに一時間も費やすことが時間の浪費なんじゃないかと思って化学の組み込んでみることにしただけなの。だから私は悪くないわ!!」
「一番組み合わせたらいけない二教科だよな、それ!?しかも何自分は正しい道を歩んでます、みたいな風に言ってるけどまったく正しくないからな!!」
「私の家の家訓では『オリジナリティーとアイデンティティーこそが最も必要』って説かれているの。そして私はただ忠実にそれを守っているだけなの。だから私は悪くない!」
「家訓の為に一族が滅亡したら本末転倒だろうが!!」
「それが小百合クォリティー」
「はぁ……。……ちなみにそんな小百合さんに聞くけど、今俺が右に持っている緑色の物体と左手に持っている赤い物体、さてどっちがブロッコリーでどっちがカリフラワーでしょうか?」
ちなみに俺が右に持ってるのはピーマンで左に持ってるのがパプリカ。
少しは成長してくれたかなぁーなんて淡い希望を抱いてみたりする俺。
俺の両手にある野菜を親の仇のように凝視した後、小百合は俺を見つめながら聖母の様な笑みを浮かべて、柔らかな口調ではっきりとそれを俺に告げた。
「右の緑色の野菜がブロッコリーで左の赤色の野菜がブロッコリーよ。」
「お前もうマジで帰れよ。」
俺は頬の肉が痩せこけていくような錯覚に囚われながらも、舐め腐ったセリフを吐く小百合に辛辣な言葉を吐き捨ててピーマンとパプリカを元の位置に戻す。
それら二つは流華姉の買い物リストに表記されていなかったので不必要なものだったりする。
で、俺がピーマンをパプリカのかごに、パプリカをピーマンのかごに入れる様子をただじぃーっと見ていた小百合は何をするわけでもなくひたすらドンドン買い物リストに名を書かれたものを買い物かごに突っ込んでリストから着々と名前を消していくのについて来ている。
「ねー。」
しばらくの間何事もなく買い物を続けていた俺たちだが唐突に小百合がナ行第四番目の文字を一文字間延びした声で出した。
「ん、どうした?」
聞き返すと小百合は妙にもじもじと体をくねらせ、何かに耐え忍んでいるように見える。俺はそこら辺のラブコメの主人公のように神がかった鈍い感性の持ち主じゃあない。なので察しにくいこともキチンと察してやり、相手を気遣うことのできる人間なのだ。
「トイレ行きたいならさっさと行ってこい、な?」
「流時のバカァァァァッァァッァァァッァァッァアアァァァッァァァァァ!!!」
小百合は顔を真っ赤にして叫ぶと自分の持っていた買い物かごを置き去りに砂塵を巻き上げるがごとく走り去って行った。
「サク、今日は助けてやったんだからそのうち飯でも奢れよ。」
俺は今居もしない、たった今自分が救ったばかりのツンデレ姫の弟に向けて一言漏らすと何事もなかったかのように買い物を再開するのだった。
こういう(小百合みたいな)友達が欲しいです。
周りはボケばっかりなのでこういうハイブリットな友達が欲しくなります。