レンタルカレシの利用術?
「理想の恋人」を1分133円で買えるサービスがある。
目的は胸キュンでも、ロマンチックなデートでもない。私が呼んだのは、ただの「即戦力」だった。
カレシをレンタルした。1時間¥8000だ。当面、3時間でお帰りいただく予定━━。いや、そんなひとを邪険に扱うような言い方はよくない。カレにだって人格もプライドもあるのだ。まあともかく。
制限時間はできる限り有効に遣わなければ……。何しろ今のわたしは金欠気味だ。
レンタルカレシ3時間分の出費がぎりぎりの線なのだ。
それ以上出費が重なるとその後食べていけなくなりそうなの。
じゃあ、時間を一分一秒たりとも無駄にはできないわね」
わたしは深呼吸をし、玄関のドアノブに手をかけた。
心臓がけたたましく鐘を打ち鳴らしている。
ドアを開けると、そこには眩しいほどの笑顔を浮かべた青年が立っていた。
「はじめまして、今日一日きみの彼氏を務めるレンです」
爽やかな声が廊下に響き、わたしは思わず気圧されそうになる。
だが、ここで怯むわけにはいかない。
なんせ一分あたり133円もかかっているのだから。
「……上がって。まずは、あなたに手伝ってもらいたい作業があるの」
わたしは彼を部屋へ招き入れると、積み上がったダンボールの山を指さした。
「いいこと?これから3時間はわたしの言う通りの作業をお願いいたします」
わたしはきっぱりと言った。
カレシは、ちょっとどころではなく肩透かしを喰らったような顔をした。
「え、と…。それは……」
カレシは何かを言いかけた。が、わたしがそれを制する。
「えっ、引っ越し作業……? デートじゃなくて?」
「1分133円の労働力よ。恋人ごっこで浪費する余裕はないわ」
戸惑うレンに軍手を投げつける。彼は一瞬だけ美しい顔を歪めたが、プロの意地なのか素早く軍手を装着した。
「……わかりました。ご指名いただいた以上、全力でご期待に応えます」
そこからのレンは凄まじかった。
「この本棚、僕が持ち上げます。きみは怪我をしないよう下がっていて」
「よし、この段ボールは僕が運ぶ! きみのために……!」
無駄に甘いイケメンボイスと眩しい笑顔を振りまきながら、超人的なスピードで家具を搬出していく。胸キュン台詞と重労働のギャップが激しすぎて、わたしの情緒はおかしくなりそうだった。
開始から2時間55分。部屋は見事に空っぽになった。息一つ切らしていないレンが、爽やかに額の汗を拭う仕草をする。
「ふう……素晴らしいチームワークでしたね。きみと最高の思い出ができました」
「ありがとうレン……本当に助かったわ。そろそろ時間ね」
わたしが封筒を渡すと、彼は満足そうに微笑み、最後に甘い声で囁いた。
「またいつでも呼んでくださいね。……ちなみに次回の作業内容は?」
「次回?」
「はい。実は僕、実家が工務店なんです。来週ならインパクトドライバー持ってきますよ」
彼はプロのレンタル彼氏というより、ただの重機好きのドMだったらしい。
【了
】
最後までお読みいただきありがとうございました!
今作は「1分133円というリアルな数字への焦り」と「重労働×イケメンボイスのギャップ」を楽しんでいただくために書きました。オチのインパクトドライバーのくだりは、レンのプロ意識とプライベートの境界線が崩れる瞬間を描きたくて足した要素です。
切実な日常の悩み(金欠・引越し)に、少しだけ非日常(レンタル彼氏)を混ぜ込むことで、クスッと笑えるテンポ感を意識しました。またどこかで、レンがDIY工具を構えて再登場するかもしれません(笑)。
次回作もお楽しみに!




