いつかどこかで出逢ったならば
ハピエンかどうかは皆さんにお任せです。実験的に2人の内心を同時に入れてみました。読みにくいかもしれません。
()は、女の子の内心
『』は、男の子の内心です。
(ああここで)
『いまここで』
(『このまま時が止まればいいのに』)
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いつも家の庭の延長のように、村の近くで遊んでいた子供達。みんなと遊んでいたのに、気がついたら見知らぬ場所をさまよっていた小さな女の子。
「ここ、どこ…?」
遊んでいたのは昼間のはずなのに、夕暮れ時のように赤い空。最初はすぐに戻れると思っていた女の子は、見慣れぬ周囲に、次第に不安になってきた。
「このまま、よるになっちゃったらどうしよう…。」
つい先日5歳になったばかりの女の子には、夜の森は恐ろしい。父母が何度も「夜の森には怪物が出る」と言っていた。近所のディーンは、外を彷徨う怪物を見た事があると言っていた。恐ろしい咆哮をしていたとも。
キョロキョロとあたりを見回すが、知っている風景は何もない。歩き疲れて、とうとう女の子はしゃがみ込んでしまった。
「おとうさん、おかあさん…」
もうお姉さんだから泣いてはいけない、と言われていたが、我慢できなかった。薄い緑色の大きな瞳に涙をいっぱい溜めてしばらくしゃがんでいると
「なんだ、君は?」
後ろから、高いボーイソプラノが響く。振り向くと、そこには女の子より少し年の大きい男の子が立っていた。
(くろいおかみ、ベリーみたいにまっかなおめめ…?)
『薄い金色の髪、若葉色の目…これは人間?』
「君は人間だろう?どうしてこんなところに?」
「あなたは?にんげんじゃないの?」
「僕は人間ではないよ。知らないのか?」
「わかんない…きがついたら、ここにいたの…みんなで遊んでたのに」
女の子の目から、とうとう大粒の涙がこぼれ落ちる。女の子の涙を見て、慌てて男の子はそばにしゃがみこんだ。自分よりさらに小さな肩を撫でる男の子。
「ここは人間がいていいところじゃないんだ。でも…迷い込んだなら、どこかにワームホールがあるのかな…?」
「ぐす、かえれる?…ぐす」
「ワームホールの場所はわかれば帰れると思う。どっちからきた?」
「あっち」
手を繋いで立ち上がり、ふたりで女の子が指差した方へ歩いて行く。女の子の記憶を頼りにしばらくあたりを探していると、小さな子供が1人しゃがんで入れる位の小さなワームホールを見つけた。
「ここだね。ここをくぐったら、きっと元の場所に戻れると思うよ。」
男の子は握っていた手をぎゅっと握り締め女の子を勇気づけるように言った。
「よかったぁ。」
大きな瞳にいっぱい涙を貯めたまま女の子は笑った。キラキラと輝く緑色の瞳。男の子は、女の子の大きな目を覗き込みながらいった。
「ここに来たこと、大人に話してはいけないよ。」
「どうして?」
「人間と僕たち魔族は戦っているんだ。」
「どうして?」
「それは僕にはよくわからないけど、ここに来たことが知られたら、大変なことになってしまうかもしれない。」
男の子の言葉は、女の子にとってとても恐ろしく響いた。しかしここで出会った親切な男の子のことを、ここで最後にお別れするのは、とても悲しいとも思ってしまった。
「このあなってずっとあいているのかなぁ。」
「大人に言って塞いでもらわない限り残っていると思う。でも、こんな小さな穴じゃ大型の魔獣は入れないから、普通はわからないんじゃないかなぁ。」
「そしたらまたあそびにきてもいい?」
「え?」
「だって、おともだちになったのに、あそべないのはさみしいもの。」
女の子よりも少しだけ年上の男の子は、魔族と人間のことについて、少しだけ女の子よりも知っていた。ためらっていたが、女の子の大きな瞳に再び涙が溜まるのを見て、了承する。そして幼い魔族と、幼い人間との秘密の友人関係が始まった。
時折、女の子が小さなワームホールをくぐっては、男の子の本を訪れる。小さな女の子の小さな魔力を感じると、男の子はすぐにワームホールの近くまで迎えに行き、2人で気が済むまで遊んだり、話をしたりした。男の子も女の子もお互いの種族の事については話さなかった。心のどこかで、自分たちは違う生き物であると言うことを感じていたのかもしれない。2人の話題に登るのは自分の身近であったこと、見たこと聞いたこと。たわいのない話ばかりであった。
「ねえ、わたしね、おかあさんから糸つむぎを教わったの。次の冬じたくはわたしも布をおるんだよ」
「布を作ることができるの?」
「布はみんながつくって服にするの。隣の家のアマンダおばさんの布はとっても綺麗で有名なんだよ。」
「布を作るなんて聞いたこともない。服になった布しか見たことがなかった。」
身分が違うであろう男の子と女の子は、お互いが話すことの違いにとても興味を持った。
(きっとこの子は身分の高い人)
『きっとこの子は普通の女の子』
お互いに違うところばかりの2人だったが、不思議と気があって、この不思議な関係はその後も続いた。
「8歳の誕生日、おめでとう」
男の子は、女の子の教えられた誕生日を、毎年祝った。見たことのない不思議な花で作られた冠、おもちゃのような小さな指輪、髪を飾るリボン…毎年女の子のために一生懸命男の子は考えた。毎年嬉しそうに受け取る女の子の、輝くような笑顔を見たかったからだ。
「ありがとう。すごくきれいなリボン。うれしい!」
男の子の腕の中に飛び込む女の子。男の子はぎゅっと女の子を抱きしめた後、髪にリボンを結んでやった。
「本当はもっと、良いリボンをあげたかったんだけど…」
「ううん。このリボンがいいの。あなたが毎年一生懸命選んでくれたプレゼントが、一番うれしいから。」
「よかった。」
ほっとしたように笑う男の子。
「あなたの誕生日はいつなの?いつもお祝いばっかりしてもらっている気がする。」
「僕には誕生日はないんだ。僕の国には、誕生日や年っていう考えはあまり重要視されていないからね。」
何度聞いても、男の子が女の子に誕生日を教えてくれなかった。自分の種族には誕生日と言う考えは無いからだと言う。そこで女の子は自分の誕生日と同じ日に、男の子の誕生日を祝うことにした。次の年から、女の子の誕生日には、女の子もプレゼントを用意し、男の子の誕生日を祝うようになった。
そうしてまた、時が過ぎたが、2人の秘密の交流はずっと続いていた。
「最近ね、よく隣のニックがいじわるしてくるのよ。」
「どんなことをされたの?」
「色の抜けた絹ような髪の色だって言って、髪を引っ張ってくるの。」
「こんなに美しい色なのに。」
男の子は隣に座る女の子の髪を優しく撫でた。まだ子供で結い上げる必要のない女の子の髪は、さらさらと男の子の指の間を通っていく。
『きっとその男の子はこの子のことを好きなんだ。』
隣でプリプリしながら、話す女の子。男の子は、隣のニックが何を考えているかわかってしまった。
「こんなに背が小さくて、体が小さくて、嫁に行ってもろくに働けないだろうって言うのよ。」
「俺には、こんな働き者で気だての良い子はなかなかいないと思うよ。」
『その男はこの子を嫁にする気なのだろう』
心の奥底を引っかかれたかのように小さく、泡立つ男の子の心。
何も気がつかない。まだ幼い女の子は、男の子たちに意地悪をされていると思っている。しかし、女の子の状況を考えれば、この子は早いうちに、近くの男に嫁ぐことになるだろう。この子よりも年上の男の子たちは、それがわかっていて、この子を結婚相手の候補として見ているのかもしれない。
「そんな男なんか気にしなければいいんだよ。この綺麗な髪も大きな可愛い瞳も、君の可愛さは俺がわかってるから大丈夫。」
そう言いながら、男の子は自分よりもまだまだ小さな女の子の肩を、優しく抱き寄せる。安心したように、男の子の方に頭を預ける女の子。
(あなたが私の村にいたらよかったのに)
幼いながらも言ってはいけないと押さえつけていた。素直な心が溢れ出す。
(あなたが私の村にいてくれたら、何も嫌なことなんてないのに。ずっとずっと一緒にいられるのに。)
『この子が魔族に生まれていればよかったのに。魔族でさえあれば、どんなに身分が低くても、ずっと一緒にいられるのに。』
(このままずっと時間が止まればいいのに)
『このままずっと時が過ぎなければ良いのに』
2人の言葉にできない思いは、静かに、でも確実に心に降り積もっていく。
とある日、男の子は思い詰めた表情で女の子を待っていた。
「父上が崩御された。跡を継がなくてはいけなくなってしまった。会える時間が少し減ってしまうかもしれない。」
男の子の父親は、先日人間の勇者に倒された。跡を継ぐのはこの男の子しかいない。女の子は息を飲んだ。身分の高い者のことはよくわからなくても、彼に大きな責任がかかる立場になったという女の子にもわかっていた。2人は引き合うように近づき、そっとお互いの背中に手を回した。
「あなたなら、大丈夫よ」
(会えない日もあなたのことを思っているわ)
「ありがとう。しばらくは忙しくなってしまうけれども、落ち着いたら必ずまた会いにきて欲しい。」
『離れていても心はいつも近くに』
間隔は今まで以上に空いてしまうようになったものの、2人の秘密の時間はそれ以降も続く。その間、男の子には何度か縁談の話が出ていたが、男の子の心にはいつも輝く笑顔の大きな瞳の女の子が住んでいた。女の子も、村の中で縁談の話が持ち上がる年になった。しかし、女の子の心の中には、夜の闇を集めたような黒い髪と、血のように真っ赤な目をした男の子しかいなかった。お互いに自分にきた縁談の話はしなかった。したくなかった。2人だけの時間はお互いのためにだけ使いたかった。相変わらず暗い森のの片隅で、2人で肩を寄せ合って笑いあっていた2人。しかし、唐突にその平穏が壊れていった。
女の子が15歳になった誕生日の日。いつものように待ち合わせに来た。男の子の前に初めて会った時と同じように絶望に目を染めた女の子が瞳に涙をいっぱい溜めて立っていた。
「どう、した…?」
男の子の元に駆け寄って、すがりつく女の子。
「今日、教会の人がきて…新たな聖女の神託が、おりたって。私が、新しい聖女だって…!」
しかし、それは、男の子が、前からなんとなく感じていたことだった。歳を経るにつれ、女の子の持つ魔力は澄み渡るような美しさを讃えてた。村に住んでいるだけであれば魔力は必要ないので、この女の子は無頓着だったようだが、男の子にはこの力が自分とは正反対のものであることがうっすらとわかっていた。
「来週にでも村を離れなきゃいけない…!」
(村を離れたら、ここに来る事は二度とできなくなってしまう)
女の子の悲痛な叫びが、男の子の心に重く響く。
「でも聖女になれるということは、人間にとって最高の名誉なのだろう?」
『思ってもいないことばかり口から出る』
「名誉なんていらないの。私はずっとここにいたいだけなのに」
(あなたといたいだけなのに)
「…断ることはできないのだろう…?」
『いっそこの子を連れ去ってしまえばいいのだろうか』
「聖女は王都の神殿に行くって…」
(いや、行きたくない!)
優しく女の子を抱きしめ、男の子は女の子の目に溜まった涙を指先でそっと拭う。
「今日が…最後だね…」
『このまま屋敷に閉じ込めてしまえ』
「王都は遠いわ…」
(2度と会えないかもしれないなんて耐えられない)
「いつかまた、村に戻っておいで」
『魔族の自分より、この子を幸せにしてやれる男がいるかもしれない。』
「いつかここにきたら、気づいてくれる?」
(これでよかったのかもしれない。貴方が奥方を迎えるなんて耐えられないから)
「必ず気づいて、すぐに会いにくる。」
『本当は俺が幸せにしてやりたかった』
(こんなに好きなのに)
『これほど愛しているのに』
そっと男の子が女の子の唇に触れるだけのキスをした。冷たい男の子にじんわりとした暖かさが伝わる。
最後の時間を、男の子と女の子は抱きしめあって過ごした。
その後、女の子は王都へと渡った。村とは何もかも違う。目まぐるしく過ぎ去る日々。そして、数年ののち女の子には、勇者の一行として魔王を討伐する命令が下る。
勇者はいい人だった。旅の仲間はみんないい人だった。しかし旅は過酷だった。村で平和に暮らしていた女の子は、いつの間にか魔獣と戦い、仲間を癒し、魔王を殺すための旅をしていた。
魔王の城へと到達した女の子。既に仲間は何人も失っていた。見覚えのある場所、感じたことのある魔力。
魔王の城の1番奥、魔王の玉座には、男の子が座っていた。
(ああ、やっぱり)
『やはりきてしまったか』
溢れ出る、膨大な魔王の魔力に、勇者が斬りかかる。戦闘が始まった。少ない仲間、強力な魔力を持つ魔王。女の子も命をかけて戦った。聖女として。
(ここで会いたくなかった)
『ずっと会いたかった』
聖騎士が気をそらしている間に勇者が斬りかかる。上から聖女の魔法が降り注ぐ。しかし魔王には当たらない。
聖騎士が次の一撃で首を取られた。崩れ落ちる聖騎士の体。続け様に魔王からの攻撃が降ってくる。勇者は遠くへ飛ばされてしまった。聖女である女の子は、護身用の短剣に聖力を込めて、魔王である男の子の懐に飛び込んだ。
女の子の手に伝わる肉を裂く感覚。男の子は避けなかった。防御もしなかった。いつものように胸に飛び込んできた女の子を抱きしめた。
「…っ、どう、して…」
優しく抱きしめられる感覚。泣きたいほど女の子が求めていた感覚だった。思わず女の子はいつものように、男の子の背に腕を回した。
その瞬間、何かの魔方陣が展開する。それは見たこともない位鮮やかで美しい模様だった。女の子の背中に鋭い感覚が走る。
「…ぐ…一緒に…」
女の子の背には、魔王の宝剣が刺さっていた。
女の子の心臓を正確に宝剣が貫いている。
「い、っしょ…?かはっ」
「そう…一緒だ…」
「あぁ、うれ、し…」
「もう、離さない…」
ぐっと深く刺しこまれる宝剣。同時に、女の子の短剣も深く男の子の胸に突き刺さった。
(ああ、恋しい。ずっと一緒、今度こそ)
『ああ、愛しい。俺だけの女の子』
事切れる瞬間、発動していた魔方陣が大きく膨らむ。
『(愛してる)』
命の灯火が消えると同時に、魔方陣は収束し、2人の姿は跡形もなくなくなった。後に残ったのは、聖女が後生大事に身に付けていた古びたリボンだけだった。
目が覚めると、そこには愛しい女の子の寝顔があった。昔の夢を見ていた。ずっとずっと自分が生まれるよりも、前の。恋をしていた。心から愛していた少女。かつては手に入らなかった少女は今、自分の腕の中でで安らかに眠っている。
「…ん…」
長いまつげがそっと震え、女の子の目が開く。
「どうしたの…?眠れないの?」
心配そうな女の子。かつてとは違い、今は鳶色の瞳。しかし自分が愛した大きな煌めきは失わなかった。
「少し目が覚めてしまっただけだよ。まだ早いから、もう少し寝ていよう」
優しく頰と唇にキスを落とす。柔らかく男の子の背中に回される腕の温もり。何度もキスをして、先ほどまで、愛し尽くした女の子の体をいたわるように布団を掛け直してやる。
「明日は休みだから、ゆっくり寝ていよう」
「うん…」
短く返事をして、かつての女の子は幸せそうに眠りに落ちていく。
男の子は今、幸せの中にいる。前の生では得られなかったものを手の中に大切に仕舞っている。




