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閑話休題 交易都市のアクアータス紳士

 

 まるで雲海のような濃い霧の向こうに、40年ぶりの交易都市が姿を現し始めた。

 交易都市を訪れるのはパレアトゥスの就任式以来だ。


 口許のナマズ髭がチャーミングなアクアータス紳士の先祖、エヴェナリエ家初代は交易都市の発展に尽力した。それからも陰になり日向になり交易都市を支えて今日に至る。つまりエヴェナリエは銘のある家柄というわけだ。交易都市の象徴であり玄関となるギルド(迎賓館)はエヴェナリエの別邸を移築したもので、エヴェナリエの者たちは、王族や高官、親交のある銘家を伴っては、たびたびギルドを訪れ、長い交易都市逗留を楽しんだ。また、その際は街をそぞろ歩いて、下々の者たちと交流し、親睦を深めた。

 街行く人誰もが知る存在。王族よりも民草に慕われる存在。それがエヴェナリエの一族だ。


 現交易都市ギルド(迎賓館)長に腹心の友パレアトゥスを推薦したのはアクアータスだ。

 エヴェナリエの後押しもあって晴れてギルド長に選出されたパレアトゥス。

 就任式の時、二人は約束を交わした。

「パレアトゥスよ、お主なら長きにわたって豊かな生活を享受できるよう民草を導いてくれると信じとるぞ」

「おお、アクアータスよ、私はその義に応えよう、きっと長きにわたる繁栄をもたらしてみせよう」

「その時は再び逢おうではないか」

「また杯を酌み交わそう」

 それから間もなくして、アクアータス紳士は病を患った。症状は重いわけではなかったが、治療には長い時間がかかった。細身だったアクアータス紳士の身体は肥え太った。


 病床の彼を支えたのは交易都市ギルド長パレアトゥスと再会を果たす。その思いだった。そうして老い先短い爺の我が儘を通す形で、一人お忍びの旅を敢行した。

 ようやく約束を果たせる。昔のように一晩中飲み明かしたりは出来ないけれど、語り合う時間は豊かなものになるだろう。


 まずは街の様子を窺い、それからギルドに向かおう。再会を果たした瞬間のパレアトゥスはまず首を傾げるだろう。それから正体を明かす。するとパレアトゥスは、アクアータスよ、お前はどっしりと貫禄がついたと目尻に涙をたたえ笑うのだ。


 そんな想像をして船上の紳士はふふ、と微笑んだ。


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