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無銭飲食紳士の供述

「久しいのぅ、40年じゃよパレアトゥス。儂じゃよ、エヴェナリエ家のアクアータスじゃよ」

 胡乱な眼差しで見つめ返すギルド長に、と親し気に肩をポンポンと叩く無銭飲食現行犯。

「ようやく動けるようになったでの、お忍びで見物にきたのじゃ。交易都市の紙幣のデザインが変わったと思わなくての、いかんせん降りるのは40年ぶりだで。此度の下々の無礼は咎めないでやっておくれな、供も連れずにきた儂にも幾ばくかは非があるでの。ともかく民草が健やかなのは何よりじゃよ。そのうちに摂家の者どもと連れ立って、鷹狩りにでも参ろうかの、逗留の際はよしなにの」


 商業都市ギルド長アエネゥスは困惑しきりだった。

 全く見知らぬ、記憶にも記録にもない男、しかも偽造通貨使用の現行犯が、旧知のように肩をたたいて「パレアトゥス」と親し気に呼び、旧交を温めるがごとく、全く事実と異なる事象を、あたかも周知の事実のように滔々と語る偽札紳士に対して、幾ばくの恐怖を感じざるを得なかった。


 まず、アエネゥスギルド長の知己にアクアータスという人物はいるが、全く風貌が違うし、彼の者は王都重鎮カリクティス家の隠居。エヴェナリエ家など聞いたことがない。

 ここは商業都市だ。交易都市じゃない。

 紳士の所持していたデザインの紙幣など、過去に流通した記録はない。

 それ以前に 商業都市だけじゃなく、どの都市のギルドもそうなのだが、ギルドは庁舎だ。貴族の別荘や離宮じゃない。


 なにより不気味なのは、妄想に整合性がとれているという点だった。

 その場その場の思い付きで語っているのであればどんなによかっただろう。言葉尻を捉え、矛盾した点を指摘し、ロジックを崩してやればいいだけだ。

 それがない。全くの事実誤認なのに、「ここは商業都市ですよ」指摘しても、「うんにゃ、交易都市じゃろうて。なんじゃパレアトゥスお主まで儂をからかいおって」と単語が、設定が全くブレない。理路整然としている。


 言葉遣いは丁寧だし、着ている衣服も、王都でもそうそう見られない上等な仕立ての一点ものだ。仕草も洗練されている。非の打ちどころのない品の良さを感じる。

 つまり躾の良い上品で身分の高い何者かということだ。だから虚言を妄想を吐く理由が、目的がわからない。


 それは隣に控えるアマンダさんも同じ感想を抱いた。


 まるで、ギルドを知らない、知っていても同じ名前の全く違う組織を指しているような印象を受けたと、アマンダさんは言った。


「埒が明かないし、アエネゥスギルド長も限界のようでしたから。一度休憩を挟んだほうがいい。そう判断して一旦退出を」

 ギルド長はよほど恐怖だったのか部屋を出るなり安定剤を服用し、今は仮眠室でがたがた震えているという。


「あの紳士の話だけなら、ここは交易都市と言う名称の街で、ギルドは王都の王族や王都重鎮たちの離宮という扱いになるのだけれど。そんなことあるかしら」

 そう独り言ちるアマンダさんの頬は青ざめ、唇は微かに震えていた。


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