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【書籍化決定・タイトル改定】無能令嬢と追放しても構いませんが、後悔しても知りませんよ? ~義家族の皆様、どうぞ最高の終焉を~  作者: お伝


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悲しみを乗り越えて

ばあやが帰国して以来、時折ふと寂しそうなお顔を見せるお母様を心配したお父様が、ある事を思い出した。


「そう言えば、ミリアムが生まれた頃に、ポンヌフ夫人が抱っこしたミリアムをあやす君の姿があまりに美しくて、三人が一緒に居る所をデッサンした事があるんだ。確か資料室にあるはずだ」


そう言って、肖像画や彫刻が沢山置いてあるお部屋にお父様とお母様に連れられて入ったのだ。


そこで、一人だけ髪の毛の無い彫刻に目が留まった。

一人だけつるつるの頭がなんだか可哀想だと思って、髪の毛が生えれば良いなぁと思って見つめていると、あっという間に髪の毛がフサフサになってしまったのだ。


『わぁすごい!』

と思って振り向くと、お父様は壁の肖像画を見ながら何かお話していていてこちらに気付いていなかったので、側に居たお母様のドレスを引っ張った。

振り向いたお母様はフサフサの彫刻を見て目を見開き、お父様がこちらを見ていない事を確認すると、囁くような声で「ハゲなさい」と言ったのが微かに聞こえた。

せっかく生えたのにと、残念に思っていると、フサフサの髪の毛は細かく濃い金色の粒になって、お父様の上にキラキラと降り注いでいった。


『わあ綺麗!』


と思ってお母様を振り返ると、お母様はとっても慌てて、さっきのキラキラより少し薄い金色のキラキラをお父様にふりかけていた。


『わあ、こっちも綺麗!』


そしてその後から、お父様の綺麗な金色の髪が少しずつ少なくなっていく気がした。

気が付けば、お父様の頭のてっぺんの髪の毛はずいぶん薄くなって、遠くから見るとうっすらハート形になっている。お父様はお外に出る時は必ずシルクハットを被るようになり、髪の毛をとても気にしているが、お母様も私も、どんなお父様だって大好きだ。


それからしばらくたったある日、あの日の出来事をきっかけに私に魔法が使える事が分かったのよと、お母様に優しく伝えられた。これから一緒に確かめましょうねと、テラスの窓際に一緒に立ち、日の光に瞳を透かして手に持っていた鏡を二人で顔をくっつけて覗き込むと、そこに映っていた私とお母様の瞳は金色に輝いていた。よく見れば私の方が少し濃い金色だ。驚いてお母様を見上げると、いつもと同じラベンダーの瞳で微笑んでくれた。


「ミリアム、貴方は私と同じ魔法使いよ。これから一緒に魔法の練習をしましょうね」


そう言ったお母様は人差し指を口に当て、内緒話をするように続けた。


「でもね、この国には魔法使いが居ないから、こっそりね」


そう言って、私はお母様と楽しく魔法のお勉強を始めたのだ。まずは魔力を認識して思い通りに動かす事からだった。お母様は体の中にある魔力を手のひらの上に集めるお手本を見せてくれた。集めた魔力は光の粒になって表れ、人によってその光の粒の色は違うのだそうだ。お母様の手のひらの球は少し薄めの金色のキラキラだった。あの日、お父様に振りかけていたキラキラはこれだったのね!


それを思いついたのが嬉しくて、ミリアムも真似してやってみた。お母様の半分もない大きさの球だったけれど、金色のキラキラの綺麗な球だった。そのキラキラを使って、イメージ通りに魔法を発動するのだと聞かされ、先ずは物を動かしたり形を変えたりすることから始めると説明された。実際の物が目の前にあれば、その色や形を変える事や動かす事はイメージしやすい。その他、ミリアムが彫刻に髪を生やしたように、イメージを強く持って瞬きをせずにじっと見つめると、そこに魔力が集まって魔法を発動することも出来るらしい。


お父様は、お母様が魔法使いである事は知っているが、植物と話せたりする、ほんの可愛いらしいものだと聞かされていたようだ。ミリアムも同じ魔法使いだと知ってとても喜んでくれたのだ。それからは、ぬいぐるみの色を変えたり、紙飛行を長く飛ばしたり、葉っぱや枝を本物そっくりの動物や物に変えてみたり、まだまだ思い通りには行かないけれど、まだ幼いミリアムは、魔法は楽しいと思いながら育っていった。そして、魔法を使った後は必ず解除しておくこと。そうしなければ呪いになってしまう事があると聞いてとても怖かった。だからこれは必ず守らなければいけないお母様との大切なお約束だ。

そうしてお母様と一緒に過ごす時間と、そんな二人を愛おしそうに見つめるお父様の姿は、ミリアムの心の奥の一番大切な思い出だ。


それから二年が経ち、ミリアムが八歳になった頃だった。その年の初めにお母様が少し体調を崩した。最初はただの風邪だと思っていたのに、それから徐々に悪化して行き、その年の春、周囲の必死の看病も空しく帰らぬ人になってしまったのだ。


亡くなる前日、お母様は私を枕元に呼んで、自分の首からペンダントを外してミリアムの首に掛けてくれた。お母様の瞳の色と同じラベンダー色で、光に翳すと金色に輝く石のペンダントが嬉しくて、くるくる回って見せていた。そして、大切なものだから肌身離さず着けておくようにと言われた事だけははっきり覚えている。愛しているわと言われ、寝台に横たわるお母様にぎゅっと抱き着いたのが、お母様との最後の思い出になってしまった。お母様が亡くなるとは思っていなかったミリアムは、お葬式の後からずっとお母様のお部屋で泣き続けていた。そんなミリアムに、お父様は優しく私に寄り添ってくれた。


大好きなお父様。

大好きなお母様が亡なってすぐの頃は、二人で毎日お母様との思い出のお話をして笑いながら泣く毎日だった。とっても不思議な光景だったと思うけれど、それはお母様とお父様の最期のお約束だったから。


『最初は泣いてしまうかもしれないけれど、必ず毎日少しの時間でも楽しい思い出を話して笑ってね。そうしているうちに、だんだん泣かずに思い出話が出来るようになって、幸せな思い出だけが残っていくの。二人の幸せを見守っているわ』


習慣になったその時間は、やがてお母様の残してくれたジラード国の言葉で書かれた絵本を読み聞かせてくれる時間となり、次第にジラード国に留学していたお父様の手解きで、お母様の母語であるジラード語を習得する時間へと変わっていった。ミリアムが、お父様の留学中のお母様とのエピソードをせがむ度に、お父様は懐かしそうに二人のなれそめから結婚までの話を幾度となく聞かせてくれたのだ。

大好きなお父様と過ごす時間は私にとって掛け替えのない大切な宝物であり、私はこの毎日がずっと続くと信じて疑っていなかった。


そうして七年の月日が経ち、十五歳の誕生日を迎える前日の事だった。


その日、私の幸せな生活は音を立てて崩れてしまった。


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