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匿名

作者: はるかぜ

谷田花は超がつくほどのコミュ障だ。

大学2年の代だが1年の休学を経て復学し今は私立文系大学の1年生。1つ下の学年の子達と授業を受ける。学生証を掲示する場面では、学年の数字が見られないよう、さっと手で覆い隠す。徹底的に。誰かに気づかれたらそれだけで崩れてしまう気がしていた。


休学の1年間は浪人をしていたが、その間家族以外とは一切言葉を交わさなかった。今は一人暮らしをしているため誰とも話さない日が何日もある。コンビニでも声を発するのが苦手でレジ袋が必要ですか?この弁当温めますか?という言葉にも掠れた声で小さな返事しかできず聞き返されたり、何を言ってるの?という顔で見られることだらけだ。


彼女の周りだけ透明なバリアが張り巡らされているかのように大学内でも誰とも関わらない。


そんな彼女でも孤独は嫌いだ。

ある夜、衝動的にSNSを始めた。名前も顔も明かさない匿名の世界。

誰かが「孤独すぎて死にそう」と書いていて、思わず返信をした。「わかります」それだけ。ただそこから少しだけ会話が続き、

「孤独なのはあなただけじゃなくてたくさんいるよ」という温かい言葉に救われた気がした。


その子が貼り付けてあるXのアカウントを見ると同じ大学であることがわかり、それを伝えると「今度会おうよ!」と言われた。この教室の◯時に待っていること、服装まで写真に撮って送ってくれその子らしき人を見つける。


しかし、教室の前で足が止まる。

待ってくれている素振りはあったがその子は他の子と楽しそうに談笑していた。そこで話しかければいいのがわかるが一歩が踏み出せない。


結局、声をかけることができなかった。

そしてそこからその子とのやりとりも途絶えた。

最後に残ったメッセージは「また明日ね」という文字。

花にとっての孤独は1人でいるからこそ感じる静かで深いもの。その子にとっての孤独は、周りに人がいても消えない、にぎやかな中での孤独だった。もちろん、どちらも孤独で悩まされていることに違いはないが花にとってそれぞれステージが違うと感じた。


花はベンチに腰をかけてスマホを見つめる。

そこに光る文字列はただの匿名の記号にすぎない。

現実でも、誰からも知られていない自分は匿名のようなものだ。

自分にとっても本当の自分を隠して生きている匿名だ。


ただそんな自分にもどこか安心している花がいる。

誰にも知られていないからこそ自由だ。

孤独のそばには自由がある。

自分の存在を隠しても、誰かに評価されなくても、そこには自分だけの世界がある。

それでも人である以上、承認されたいという欲求や、誰かに共感して欲しいという人間の性が邪魔をする。


花にとっての孤独や匿名は自分を守るためのものだ。

誰にも干渉されず、傷付かずにすむ場所。

心地のよい鎧のようになっている。


(人生って難しいな‥‥。)


今日も花は匿名で生きている。

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