後悔を抱きしめて、もう一度恋をする
何の捻りもない話ができてしまいました。完成した以上は投稿すると決めているので投稿しました。
※設定はざるです。ご容赦ください。
いつから君のことを好きになったんだろう。
最初は憧れから始まったと思う。いつも僕をいじめっ子から守ってくれる強い君に。
「男なんだからもっと強くなんないとだめ!」
なんてことをよく言われては僕の手を引っ張ってくれた。それが僕には眩しく、そしてカッコよく見えた。
小学生に入ってからも同じだった。周りからバカにされ、時には意地悪をされる僕を守ってくれる君。僕も君みたいになりたい。そう思っても行動に起こすことはできなかった。
学年が上がるにつれて君はリーダー的な存在になっていった。僕だけじゃなく、みんなを引っ張っていくようになった。もうその頃には君のことが好きだという自覚があった。
だから小さい時のように僕の手を引っ張ってくれる時なんかはドキドキしたし、もっと触れていたいと思っていたんだ。
中学生になると男勝りだった君も恥じらいを覚え、短かった髪を伸ばし、もともと整った顔はさらに磨きがかかり、体つきも女性として成長していく姿を見て僕は焦りという感情を持つようになった。
「最近の高西、カワイくね?俺、告白しちゃおっかなー」
多くの男子に君のことを女性として、付き合いたい人として見られるようになったから。僕はただの幼馴染。ただ近所に住んでいるだけでそばにいることを許された存在。
特に秀でたものを持っている訳でもない。むしろできないことの方が多い人間。付き合える確率はないに等しい。
いつか誰かと付き合うことになるんじゃないのか?と思うと彼女の傍にいる時間にカウントダウンがかけられているという気がして僕の感情を揺さぶった。
そこで僕は少しでも彼女といられるように登校の時間を合わせたり、下校の時間も一緒に帰れるように頑張った。
でも頑張っただけで何も進展はないし、アピールにもならない。何かが変わる訳じゃない。そんな状況に何を思ったのだろう。僕は思い切って尋ねてみた。君の好きなタイプを。
「うーん、強くて私を引っ張ってくれる人かな」
この時、僕の恋が叶わないことが決定づけられた。僕とは真逆のタイプだから。
それを聞いた時から僕は君を好きな気持ちと諦めないといけない気持ちとのジレンマに苦しむことになった。
なんでこんなに好きなのに苦しいんだろう?なんで諦めることがこんなに苦しいんだろう?
時々「大丈夫?なんか苦しそうだよ?」なんて心配される度に僕の心の苦しさは増していった。
元々強くない僕はその苦しさに耐えることはできなかった。向き合うことができなかった。だから君から離れていった。
高校も別々のところへ進学した。これは僕と君の学力差を考えれば当然の話ではあったけど、僕は君と肩を並べようと努力すらしなかった。
高校時代、苦しさは少しずつなくなっていった。離れればいつか君のことを忘れられる。時間がいつか解決してくれると思うようになった。でも次の恋へ進めるという気は一向に起きなかった。
時折、街で君が他の男性と肩を並べて歩いている姿を見ても、胸の痛みを感じるようなことはなかった。むしろ二人がお似合いだと祝福できるようになっていた。
それから僕は大学へ行ける学力もなかったから就職することにした。介護職に就くことになった。思ったよりも体力が必要だったし、それなりに知識もないといけない。それとコミュニケーション能力も必要で仕事に追われる毎日。
自分のことで精一杯で気がつけば25歳になっていた。ハッとさせられたのは中学校の同窓会の案内が届いたからだった。卒業して10年という節目だからということで開催されることが書かれていた。
もしこの案内が来なかったら気がつくことなくずっと働き尽くめの毎日を過ごしていたと思う。それくらいに自分に余裕がない生活を送っていた。
それがよかったんだと思う。迷いなく参加することを決めることができた。多分刺激が欲しかったんだ。
久しぶりの同級生との交わりは新鮮だった。全く価値観が違うと思っていた相手と似たような価値観を持っていたり、僕と同じように介護職に進んで共通の話題があったりと知らない一面を見れたことは本当によかった。
その帰り道、たまたま君と一緒になってしまった。
「久しぶりだね、三浦君」
もう名前でも呼ばれないくらいになってしまったのか、と少しショックを受けたけど、それは自分が距離を取ったんだから仕方ないこと。
「今度、結婚することになったの。相手は大企業のエリートなんだ!」
結婚!?そうか、もう僕達の年じゃ結婚していてもおかしくないのか……。その時、初めて僕に後悔という感情が芽生えた。
「おめでとう!それはよかったね!やっぱり君より強くて引っ張ってくれる人なのかい?」
「っ!?うん、そうだね。ってよくそんなこと覚えていたね……」
「忘れるわけないよ。僕が君を諦めるきっかけになった言葉だから」
「えっ!?どういうこと!?」
「僕は君が好きだったんだ。でも僕はいつも君の後ろをついてまわるだけで守られてばかりいた。ははっ!今になってなんで思い切って告白しなかったんだろうって後悔が出てきたよ。君に頼られるような人間になろうってあの時変われば何か変わっていたかもしれないなあ」
「……、そうだったかもね。でも、もう遅いよ……」
「分かってるよ。結婚するってなった人に失礼な言葉だったね。ごめん、忘れて!それじゃ幸せになってね!」
そう言って僕は君と別れた。その時、僕は君に見えないように涙を溢した。
好きだった、じゃない。今も好きなんだってことに気づいてしまったんだ。
それから僕はひたすら仕事に打ち込んだ。もう後悔するということはしたくない。あれから色んな本を読んだり、おじいちゃん、おばあちゃんからこういう話をよく聞いた。
「あのとき、こうしておけばよかった。っていう後悔が一番心残りだ」
僕は君のことを好きだと伝えればよかった、という後悔を経験した。だからこれからの人生は絶対後悔しない人生にしたいと強く思うようになっていた。
だから勉強して介護福祉士とケアマネージャーの資格を取得した。そして自分で介護施設を起ち上げることを目標として頑張っている時だった。
君が病院へボロボロの状態になって運ばれたということを聞かされたのは。
病室へ入ると顔には痣が、腕や足はギブスで固定されていて予断を許さないという状態だった。
聞けば夫からDVを受けていたと。暴力だけでなく言葉によるモラハラも受けていたみたいで心身ともに衰弱していると聞いた。
また一つ僕に後悔の念が生まれた。君が僕と結婚していたらこんなことにはならなかったのに!という思いだ。
僕は毎日君の顔を見に行った。1週間ほどして夫側の弁護士という人物がやってきた。どうやら今回の件は公にしたくないから示談したいということだった。
僕はおじさんとおばさんに代わって「こちらも弁護士をつける!」と言って裁判で決着をつけることにした。おじさんとおばさんはすごく僕に感謝してくれた。本当はどうしたらいいのか分からなくてパニックになっていたらしい。
とにかく弁護士をつけるにしても君が目を覚まさないと何も始まらない。毎日顔を見に行っては自分の仕事の話をして帰るという日々を送っていた。
1ヵ月後、ようやく君が目を覚ました。
「ここは?どうしてしろ……三浦君がいるの?」
「君は夫からDVを受けていたんだろ?君が運ばれてきた時は見るに堪えない姿だったよ」
「そっか……、知られちゃったんだね。そう、私……、彼から……うぅっ!」
泣きじゃくる君をただひたすら背中をさすりながら落ち着かせることしかできなかった。何か気の利いた言葉でも出せればよかったけど、僕にそこまでの技量はない。
目が覚めてからは弁護士が入ったから夫とのことは弁護士に任せた。僕には聞かれたくないことや聞かせたくないこともあっただろうから僕は何も聞かなかった。
でも僕に会うたびに泣きじゃくる君は相当精神的に参っていたんだろう。僕はただ黙って彼女が泣き止むまで背中をさすり続けた。
「ねえ?私が夫とどんな生活を送っていたか聞かないの?」
ある日、君が突然そんなことを聞いてきた。
「二人のプライベートな話だから聞かないようにしていたんだよ。それに君は深い傷を負っている。そこにさらに傷をつけたくはなかったんだ」
「……、じゃあ、私が聞いてほしいって言ったら聞いてくれる?」
「ああ、もちろん聞くよ。でも今は精神的に不安定だろうから……」
「ううん、聞いてほしい」
「分かった」
君の話はあまりにも残酷だった。結婚した途端に変貌した夫から暴力を振るわれ、「役立たず」や「無能者」と罵られる毎日。逃げ出したくなっても逃げることもできない。誰かに相談することもできない。そうしてあの運ばれた日、一番ひどい暴力を振るわれて正気に戻った夫が通報したという。
「自分より強くて引っ張ってほしいっていうのは間違っていたよ」
「そんなことない!君は小さい時から僕やみんなを引っ張ってくれたじゃないか!そんな君だって頼りたい、寄り添ってほしいって思える人が必要だったんだよ。それは間違ってなんかないよ。相手を見る目がなかったというと君が悪いみたいになってしまうね。ごめん」
「謝ることじゃないよ。史郎くんの言う通り、私の見る目がなかったんだよ」
僕に思いを打ち明けてからは何か憑き物が落ちたみたいにだんだんと明るくなっていく君。昔、いや今も恋焦がれる魅力ある君に戻っていくのを毎日見舞いに来ては感じていた。
やがて退院できるくらいには回復した君だったけど、まだ骨折した手や足は治っていないから僕が介護を買って出た。まさかここで僕の仕事が役に立つとは思ってもみなかった。
「今日、やっと夫との離婚が成立したの。これでバツイチになっちゃったなー」
最初は恥ずかしいと言ってた頃とは違って、当たり前のように僕が君にご飯を食べさせてあげている時のことだった。突然君から離婚が成立したことが告げられた。
「それは君にとってよかったことでいいのかな?」
「もちろん!もうあんな生活送りたくないし、顔だって見たくない!」
「じゃあおめでとうだね!あとは体が自分で動けるようになったら晴れて自由の身だね」
「そのことなんだけどさ……。史郎くんは何か言いたいことはないの?」
「僕?そうだなあ、あっ!今デイサービスの施設を開こうと思っててさ。もうじき認可が下りそうなんだ!今の働いている施設長も応援してくれてるんだ」
「史郎くんってもしかして忙しいの?」
「うん、まあ人並みには忙しいかな。なんせ介護職って人手不足だからさ。人を探すのが大変なんだよ。僕の後任も探さないとだし、僕の方は僕の施設の人を雇わないといけないからね」
「なんか充実してるね……」
「充実しているというよりかは、後悔しない生き方をしたいって思ってるんだ!君に教えてもらったからね」
「どういうこと?」
「君と同窓会で出会った時に言ったじゃない。好きだって伝えておくべきだったって。もうあの時のような後悔はしたくないんだ」
「……そっか……。じゃあ今度は私の番だね」
約3ヵ月、君のお世話をさせてもらった。リハビリもしっかりしたから後遺症とかもなく、もう十分体は回復できた。あとは心なんだけど、まだ傷を負ってるような気がする。
「今日でお世話も終わりかあ。史郎くん、ありがとうね!」
「いやいや、君が無事に回復してくれてよかったよ。あとは心の部分だけど、大丈夫そう?」
「そのことなんだけどさ、心のケアも史郎くんにお願いしたいと思ってるの」
「僕が?どうやって?」
心のケアは難しい。本来ならカウンセラーとか心療内科とかに通った方がいいはず。
「私と、私と付き合ってください!」
「え?」
「史郎くん言ってたじゃない?後悔したくないって。私も一つ後悔していることがあるの」
「何を後悔しているの?」
「史郎くんが中学校の時に好きなタイプを聞いてきた時。私、史郎くんに強くて引っぱってくれる人になってほしかったの。あんなこと言うんじゃなかったって」
「どういうこと?」
「私、史郎くんのことが好きだったの。でも史郎くんって引っ込み思案だったじゃない?私を強引にでも彼女にするってくらいに積極的になってほしいって意味で発破をかけたつもりだったの。それが史郎くんの恋を諦めさせることになるなんて思ってもみなかった。そうしたら今ごろ私、史郎くんと結婚してたかもしれないのに。こんな目に遭うことなんてなかったのに」
涙を溢しながら僕に訴えかける君。そうだったんだ……。僕は全く気づかなかったよ。
「だから今度は私がちゃんとけじめをつける番!私と結婚を前提に付き合ってください!」
思い出した。どうして僕が毎日見舞いに行って君の介護を買ってでたのか。忙しさに追われて肝心なところを忘れていたよ。
「ごめん、僕が千恵美ちゃんのお世話を買ってでたのはまだ好きだから。元気になったらもう一度好きだって伝えようと思ってたんだ」
「やっと私のことを名前で呼んでくれたね。嬉しい。じゃあ私の心のケア、お願いね!」
僕が千恵美ちゃんと呼ばなくなったのは好きなタイプを聞いた時。もう後悔はしたくない。あの時から止まった僕の時間が再び動き出した。
あとがき
僕は今本業をやりながら色んなことをやっています。それは死んだときにあの時こうすればよかったって思わないためにです。だからやりたいことが一杯あります。小説を書くのはその一つです。もっと書いて満足のいく作品を作りたい。そう思っています。
お読みいただきありがとうございました。
感想をいただけるとありがたいです。




