汚馴染一号は堕天使様?
「まてぇ〜!」
「まちなさーいっ!!」
「アンタの童貞よこせぇえええッ!!」
「お姉さん達が優しくしてあげるから♪」
「ウホ! 良い男…♡」
「誰が待つかっ! この腐れビッチ共めッ!!」
喧騒で溢れ返る都会の街中を、大勢の女性に追いかけられながら全速力で逃げているのは、一応この物語の主人公。
神無月 愛徒
つまり俺だ。
俺は今どんなモテ男も軽く引くぐらいの、尋常じゃない数の女性の集団に追われている。傍から見れば、
『沢山の女に迫られるなんて、なんて羨ましいハーレム糞野郎なんだ!』と思うヤツもいるだろう。
しかし、追いかけられている当の本人からしてみれば
『ええいっ! 冗談ではないッ!!』だ。
考えてもみてくれ。
好みでもない相手から迫られる鬱陶しさと不快感を。
そしてソイツら全員、漏れなく経験済みである事を。
そう、俺は俗に言う処女厨…。ユニコーンってやつだ。
別に俺的にはそんなつもりはない。
『やる時は出来ればお互いに初めての方が良いなぁ〜』
ってなだけだ。
それが俺の理想であり、願望でポリシーみたいなもん。
それで気持ち悪いだの何だの言われるのなら、別にそれでも構わないと思っている。
それにちょっと前にとある出来事が重なって、俺は軽いトラウマを植え付けられている。
それで余計に拗らせてしまっている。
いや〜。今更だけどあんなもんを立て続けに見せられて、よく闇堕ちしたりグレたりしなかったなぁ〜俺…。
自分で自分を褒めてあげたい!
・・・・話が脱線しそうなので話を戻す。
兎に角。何で俺が好きでもない女共に追いかけ回されているのかと言うと、とある人物が俺に懸賞金を……正確には俺の“貞操”に懸賞金を懸けやがったからだ。
『これより余興を執り行なう。ルールは簡単。
【神無月 愛徒の“純潔”を奪え】
最初に奪った者には賞金〘三百億円〙か〘神無月 愛徒〙本人を与える。
尚、この余興の参加条件は十代〜三十代の
[既に経験済みの独身女性限定(心は女性は無し)]
とする。詳細は追って伝える。──天星院 皇戯』
と書かれた画面が人々のスマフォやパソコン。テレビや繁華街の超大型ビジョン等、様々な情報機器に表示された。
それから続けて
『頑張って逃げてね(笑) 親愛なる僕の心の友♪』
ってすんげぇームカつく文章と共に、俺の地獄の逃走劇が始まったってわけだ…。
信じられるか?
一介の学生の貞操なんかに〘三百億〙ってアホみたいな額の懸賞金を普通は懸けねぇーだろう?
ワ〇ピの世界でも、もうちょっと現実的だよな。
でもこの巫山戯たお遊びを考えた奴は簡単にやるし、それを実行出来る財力や権力を持っている。
アイツは基本『自分が面白ければ全て良し♪』なやつだ。
他人の…ましてや俺の都合なんて関係ない。
寧ろ『親友が嫌がる事を全力で!』がモットーの、大変困ったイカれ糞野郎なのだ。
まあそれでもこんな事に巻き込まれた上、あんな事されたのにまだアイツを『親友』呼ばわりしている俺も、第三者から見たら大概アタオカ野郎なんだろうけどな…。
なので俺はいつも様に烏合の衆を撒いたのを確認した後、ルール上は絶対不可侵聖域の我が家に向かって歩き始める。
すると───。
ヒュンッ! ドスッ! ドスドスドスドスッッッッ!!
俺の頭上より鏃がハート型になっている、桜色の無数の矢が降り注いできた。
俺はそれを間一髪で回避する。
「うわっ! ギリギリセーフ…。──おい美羽! ……じゃなくて魅輪さん! いきなり何すんだよっ!? あぶねぇーだろうがッ!!」
俺はこんな物騒な矢を射ってきた上空に居るであろう人物を、呆れ気味に睨み見る。
そこには神々しい光を纏う、真っピンクの美少女がいた。
天使はその誰もが魅了されてしまう容姿(特に胸)を強調しながら、先程の俺の非難の声に涙声で返答する。
「だってあっくん! こうでもしないと私の話をマトモに聞いてくれないんだもんっ!! それにそんな他人行儀な対応しないで! 前みたいに『美羽』って……ううん! 昔みたいに『みーちゃん』って呼んでよっ!!」
そう言って天使は目尻に涙を溜めて、抗議の声を上げる。
どさくさに紛れてサラッと己の願望を言うなよなぁ…。
「他人行儀って…。事実、俺とお前は他人だろう? ただ幼馴染ってなだけで…。それにお前は【魅輪 美羽】って名前だろうがっ! 『魅輪さん』を『魅輪さん』って呼んで何がおかしいんだよ! なあ、魅輪さん?」
俺は敢えて『魅輪さん』呼びを連呼する。
するとやはり美少女天使は…“汚馴染一号”は案の定、顔を歪めて堰を切ったように喚きだす。
「また『魅輪さん』って…。酷いよぉ〜…。何でそんなイジワルするの…? 私の大好きなあの頃の優しいあっくんに戻ってよぉ…。お願いだから『美羽』って呼んでぇっ!!」
泣き噦る汚馴染を見上げて、頭を掻いて溜息を吐く俺。
あー…クソッ! やっぱり俺、まだコイツの事が…。
あの現場さえ…あの出来事さえなければなぁ…。
そしたら今でもずっと、コイツは俺の中で一番の幼馴染だったのになぁ…。実に残念だ。
バツが悪くなった俺はもう一度溜息を吐いて、魅輪さん…美羽に降りてくるよう促す。
「分かったから取り敢えず、【固有魔法の発動】やめて降りてこいよ! じゃないと話も出来ないだろう?」
「でも…だって…あっくん…」
「頼むよ、美羽…。 ───“みーちゃん”ッ!!」
俺にそう呼ばれると、さっきまでの表情がウソみたいにパァアアと晴れて、俺が心奪われて惚れ込んだ太陽の様な眩しい笑顔になる幼馴染様。
「うんっ! 今そっちに行くね! えへへ♪」
俺からの『みーちゃん』呼びが余程嬉しかったのか、満面の笑みで地上に降りてくる天使。
一瞬だけ一際強烈な光を放った後、ニッコリと微笑んで暫く俺を見詰め佇む。
変身時はスーパーロングで超激濃いピンクだった神秘的な髪も、今は本来のセミロングでピンクブロンドの髪に戻っていた。
トテトテと歩き、バインっ!! ボインッ!! と二つの凶悪な擬音を轟かせて近付いてくる幼馴染。
「えへへ…。やっとあっくんと、ちゃんとお話しが出来るねっ! ……あのねあっくん。あの時のあれは何かの間違いで…。事故ってゆーか…。あっくんの勘違いなのっ! それから私、あっくんの力に…あっくんを助けたいのっ! だからこのゲームに参加する事にして───」
「黙れ小娘ッ!! お前に俺の不幸が癒せるのかっ!!」
「ふえええぇっ!?!?」
突然の俺の一喝に、アホ丸出しの声をあげる汚馴染。
ついさっきまで『癒しの天使』だったのにコイツは…。
人の神経逆撫でしやがって!
ここでみんなに思い出してもらいたい。
このゲームの“絶対的参加条件”を!
────[既に経験済みの女性限定]
・・・・つまりそう言う事である。
そう。こいつはとっくの昔に『非処女』だ。
勿論、この汚馴染の相手は俺じゃない…。
汚馴染の所為で、俺が頑張って忘れようとしていた【忌まわしき記憶】が甦ってくる─────。
『やあ愛徒! おかえりなさい♪ バイト早かったね?』
『あんっ♡ しゅごいぃ♡ ふえ?♡ ──あっくん!?』
バイトで疲れて帰ってきた俺の視界に真っ先に飛び込んできた光景は、親友と初恋の幼馴染が対面座位で激しく絡み合っている場面だった…。
最初は『俺、相当疲れているのかなぁ…』ってちょっと現実逃避気味に思ったが、汚馴染の喘ぎ声で我に返る。
『………』
『やんっ!♡ ちょっと待っ…♡ やめっ…んんっ!♡』
『♪♪〜♪』
暫く一切の感情を殺した冷めきった目で見続ける俺。
しかし、一向に行為を止めない馬鹿二人(正確には動くのを止めない親友)に痺れを切らして、
『対面座位だけに、部屋に入ったらご対面〜ってか? 全然面白くないわッ!! クソッタレェエエッッ!!』
そう吐き捨てながら戸を勢い良く閉めた。
『違うのぉ〜♡ 誤解なのぉお♡♡ 許してぇええ♡♡♡』
って部屋からヨガリ声混じりの意味不明な懺悔が聞こえてきたが、ガン無視して家を出た。
それ以来、そのまま二人とは殆ど会っていない…。
(一部訂正。汚馴染とは同じ学校・同じクラスなので、仕方なく必要最低限の会話はしている。それでも、距離は出来るだけ取っているけど…)
なので俺は閉じていた目を開けて、俺に心の傷を植え付けた汚馴染──【美羽】を見据えながら言葉を続ける。
(あ~…ちくしょう…。小聡明いキョトン顔も、ずっと昔のままでカワイイなぁ…。クソがッ!!)
「俺は可哀想な男だよ…。仲良しだった幼馴染二号・三号がいつの間にか親友にパックンちょされていて、大切だった義姉や義妹も気が付けば毒牙に…。唯一の心の拠り所であり、信じていた最後の希望の幼馴染一号でさえも先日、物の見事に寝取られをカマされたんだからね…。お前はそんな俺を救えると言うのかッ!!」
「分からない…。でも共に悲しむ事は出来るよ…(キリッ」
・・・・キメ顔でなに言ってんだコイツ?
そして俺もなに言ってるんだ…。
(まあでも、美羽の妙にノリが良いところは相も変わらずで、マジで好きだったのになぁ〜。いやホント残念だ…)
俺は軽く口角を上げ、更に勢いよく大笑いする。
「フハハハハハッ!! 共に悲しむぅ? 誰よりも俺の信頼を裏切って傷付けたお前がっ!! 一体どうやってッ!! ──それとも俺が他の女とオセッセしているのを、裏切り者達と一緒になって横で見るつもりか?」
「違うよっ! それじゃあ哀しみを増やすだけだよッ!!」
言うに事欠いてコイツは…。
いや、そう言う流れの返しの台詞だけども。
お前に言われるのはなぁ〜…。
不満を抱えながらも、俺は言葉を続けた。
「小娘、もうお前に出来る事は何もない…。お前はじきに俺を裏切った罪悪感に圧し潰されて死ぬ…。──日没とともに此処から去れッ!!」
「そんな…。どうして……」
「どうして…」じゃねーんだよ。そろそろマジで日没だから言ってんの。
いくらお前が『A+判定の【固有魔法】持ち』だとしても、女子が夜道を独り歩きするのは危険だから親切心で言ってんの! 全く…。これだから危機感の薄いお嬢様は…。
仕方ないからこんなしょーもないやり取りを数回繰り返した後、俺は笑っていた顔を真剣な表情に変えて美羽に言う。
「あ~楽しかったw 久しぶりに美羽とこうして話せて良かったよ…。──でももう、これ以上俺に絡んでこようとすんなっ! 美羽の望み通り幼馴染のままで…友達のままではいてやるからさっ♪ だから………じゃあな!」
「あっ! 待ってあっくん! 私まだ、言いたい事やお話ししたい事が沢山───」
「【固有魔法】発動ッ!!」
俺はそう言ってその場を去った。
【固有魔法】を発動する瞬間、チラッと見えた美羽の表情はなんとも言い難く、辛くて悲しそうな顔をしていた───。
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※どうでもいい補足説明。
幼馴染と親友がオセッセしてた場所は幼馴染の家です。
訳あって愛徒くんは幼馴染の家に居候していました。
だから正確には二人は愛徒くんの為に宛てがわれた部屋で、わざわざオセッセをしていた!ってな感じです。