07
ジロジロと不躾な視線が突き刺さる。
子どもってこうだよなぁ、遠慮なく見てくる。
こっちが大人になるか……。
ニコッと笑って手を振ると、ちらほらと手を振りかえしてくれる。女子は特に、みんな手を振りかえしてくれた。
「ボールは、っと……あったあった。5号級はこれだけなんです。大丈夫かな?」
「大丈夫です! ありがとう!」
ボールを受け取る。うん。屋外用のボールよりも、やっぱりどこか手に馴染む。
ボールをつくと、程よく空気が入っているのがわかった。探すそぶりを見せてはいたけど、メンテナンスはちゃんとしているんだな。
「ちょうどハンドリングの時間だから、ちょっと待ってね。集合!!」
――はい!
体育館中に響く声がして、男子全員がダッシュで円になる。
「今日は見学の男の子が来てくれたから、みんな優しくね。いつも通りハンドリング! 指先をしっかり意識して行うように」
「はい!」
おー、返事がしっかりしてる。俺がいたミニバスチームとは大違いだ。
やっぱり名門は違うなぁ……。
「えーと……門倉。ハンドリングのメニューを教えてやってくれ」
「わかりました」
返事をしたのは、体格の良いおそらく高校生くらいの男の子。いわゆるマルコメってやつで、くりくりの坊主頭に、いかつい顔つきだ。
「よろしく」
ニッ、と笑った顔はいかついままだが、どこか父さんを思わせる。根は優しいのだろう。
「お願いします!」
「ハンドリング。やったことある?」
「ありま……」
……待て。今世ではやったことないんじゃないか?
「……ありません!」
「おお、ゲンキ。じゃあ教えるな?」
ちょっと待ってて、と言われて、父さんの隣で待……待て、父さんどこ? あ、後ろか。コーチと話ししてる。
キョロキョロしていると、ボールを持ったカドクラさんが戻ってくるのが見える。
「お待たせ。みんな始めてるし、ぼちぼちやるかぁー」
「はい!」
「じゃあまずはボールをこうやって持って……指先でタップ」
指先タップか。スタンダードなやつだな。手のひらも使う奴がたまにいるが、あれは致命的な間違いだ。
指先タップはその名の通り、指先でボールをタップするハンドリング。手のひらとかでペチペチやってても、ボールは手に馴染まない。
「そうそう、上手いじゃん! ほんとに初めてか?」
「ありがとうございます!」
「余裕できたら、上下に動かしてやってみ」
「こう……っんん、むず!」
ちっちゃい手のちっちゃい指先じゃ、どうも上下の指先タップはむずい!
けど、これができれば確実に俺のドリブルは上達するはず!
ハンドリングもドリブルも、重要なのは指先にボールが馴染んでいるかどうかだ。一体になるくらいの勢いでボールに馴染まないと……。
「次は右手だけで指先タップ。さっきのを片手でやるだけ」
「はい!」
……んおお、むずっ。
急に難易度爆上がりした。これ左手多分できねーな。
というか指がめちゃ疲れてくる。疲れるってことは、負荷がかかってるってことだから、正しくできてる証拠……なはず。
「遅くならないように、一定の速度でやるんだ。上手い上手い」
「めっちゃむずい……」
「ははっ、そりゃそうだ。初めてだし、そんなに手がちっちゃければ、これだけできてるのが不思議なくらいだよ」
「はい……次は左?」
「そう、左。失敗してもいいから何度も挑戦してみて」
左の指先でタップ。……むずいなやっぱ。
ころころボールが転がっていくのを慌てて取りに行って、挑戦しての繰り返し。
けど、これが楽しい。
そういえば俺、バスケのこういうハンドリング練習が好きだったなー……なんて、思い出した。