05
学校が終わると、近くの駄菓子屋に10円玉数枚を握りしめて向かう。
俺はコーラガムがお気に入りだ。甘いし、うまいし、満腹中枢が刺激されて今からの練習に精が出る。
ラムネを1本買ってみんなで分け合って飲むと、俺はそこで別れる。
明るいうちに練習を始めたいからだ。
「ただいまー!」
「おかえりかずちゃん」
母さんが出迎えてくれる。おっと。今日は父さんもいるるしい。
「父さん今日仕事早いの?」
「ん、あぁ」
「おつかれー。母さんタイマー!」
「はーい」
母さんは厳密にいうとタイマーではないが、タイマー係である。
母さんが来る前に庭でストレッチを済ます。
小さい体とはいえ油断は禁物だ。いや、小さい体だからこそ、今から体の柔らかさを鍛えるべき、とも言えるか。
母さんがやってきて、1分を測ってくれる。
俺はコートの右サイドと左サイドの線をタッチしながらダッシュで行き来して、1分。それを3セット。
休憩も1分だ。
こまめに水分補給もしている。どんな季節でも、脱水はひき起こりうるものだからな。
そしていつも通り縄跳びとドリブル練習をしてから、お楽しみ。
みんな大好きシュート練習を、1年生から始めてみた。
とは言っても、まずはレイアップからだ。ステップは魂に刻まれているため完璧だが、いかんせん体がまだ小さいから、これまた不思議なくらい、入らない。
なのでとりあえずは左右それぞれ10本決めれたらシュート練習は終わりということにしている。
それからはもう一度縄跳びをして、ストレッチをしたら1日のメニューは終了。
まぁとりあえず1年はこれを続ける予定だ。
夕飯は母さん特製のハンバーグ。
俺はハンバーグが大好きなので、大喜びでがっつく。
「……一斗」
「ん、なに、父さん」
「今度の日曜日は空けておきなさい」
「えーと……わかった。どっか行くの?」
「2年生から学校のバスケのチームに入る予定だろう」
「うん」
それがどうかしたというのか。
「毎日練習しているのを見ていたが、お前は筋がいいと思ってな。近場のクラブチームに話をしてみた。小学1年生はいないらしいが、行ってみるぞ」
「え!」
それは嬉しい誤算だ。
近場のクラブチームといったら、櫻葉ミニバスケットボールクラブだろうか。
小学4年生のころに週一で通っていたクラブチームだ。
楽しみだな〜……あそこには、ふたつ年上に強い子が1人いたし。あの子の動きやばかったからな〜。
……と。俺はそこで、クラブチームの名前を聞かなかったことをちょーっとだけ後悔することになる。
――やってきた日曜日。
俺は父さんの車の助手席に乗せられて、新品のバッシュを持ってとある場所に向かっていた。
もちろん、櫻葉ミニバスケットボールクラブがよく使っていた市民体育館――では、なく。
「……ここどこ?」
「櫻葉生涯スポーツセンターだ」
「……あの、父さん」
「なんだ」
「聞くの忘れてたんだけど、なんていうクラブチームなの?」
「言ってなかったか。宿利原アンブラというクラブチームだ」
や……宿利原アンブラ!
隣町の名門クラブチームじゃん!
しかも、ミニバスじゃなくて中学高校の子が多いとこ……。
入団テストあるとこだろ!?
な、なんてとこに連れてこられたんだ俺は……。
「と、父さん、マジで言ってる?」
「早く行くぞ。待たせてるからな」
「は、はあい……」
なんてこった……宿利原て。
しかも確か宿利原って、ミニバス向けのチームあるだろ? それを差し置いて、こっちのクラブチームて……。
どんだけ父さん、親バカなんだ??
俺は人よりも知識があるだけで、別にそんな大差ないと思うけど……。
「挨拶。こんにちは」
「こんにちは!」
「あっ、こんにちは。もしかしてお電話の……」
「東堂です。こっちが息子の東堂一斗です」
「東堂さん。一斗くんですね。初めまして、きてくれてありがとう」
「は、はじめまして」
「1年生にしては体格がいいですね。……バランスも取れてる。なにかトレーニングを?」
「息子が自主的に行なっています。いつもは庭にあるハーフコートで練習しているので、体育館でバスケットボールをするのは、初めてのはずです」
そういえば昼休みとかにもやんなかったもんな、バスケ……やればよかった。今度からはやろう。
「そうですか。ジブンは宿利原アンブラのコーチの安原です。監督は今日はいらっしゃらないので、ジブンが案内をしますね」