02
幼児期はそれはもう暇の一言に尽きた。
寝て、ミルク飲んで、あやされて、ミルク飲んで、あやされて、寝て、ミルク飲んで、あやされて。
まぁ、ぶっちゃけると自分の機嫌は流石に取れる年齢なので、泣くことは少なかったように思う。
そりゃあ、生理的な反応で泣くこともあったけれど、他に比べれば全然泣かない赤ん坊だったろう。
まぁそんなことよりとにかく暇で暇で。
暇すぎて、天井の皺の数を覚えてしまったくらいだ。アレちょっと怖い。顔に見える。
まぁそんなこんなで赤ん坊の時代はすぎて……俺は、幼稚園児になった。
幼稚園児になって変わったことといえば、もちろんめいっぱい遊んで、お菓子食って、遊んで、ご飯食べて、寝て、遊んで。
とにかく動けること。
俺にとって動けるってことは、ものすごーくありがたいことになっていた。
彼は友達の智己くん。
小学校までは一緒だったが、なんの理由だったか、小5くらいの時に転校して行ってしまった男の子だ。
別に前世で特別仲良かったわけじゃないが、あっちの生意気なハナタレ小僧と遊ぶよりは、彼のような大人しい子と遊ぶ方が精神衛生上良いので、友達となった。
「かずとくん、積み木しよー」
「智己くん。いいよ」
「かずとくん、ぼくね、赤色の積み木がいいなあ」
「いいよ。はい、どうぞ」
うんうん、あっちのお友達を転ばせて喜んでるハナタレ小僧よりも、こっちの方が断然いい。
智己くんは鬼ごっこも好きだが、それよりも絵を描いたり積み木をしたりする方が好きだ。
俺は精神年齢分、アドバンテージがあるので、智己くんよりも当然積み木もお絵描きも上手い。
それを妬むことなく、智己くんは俺を褒めてくれるのだ。
38歳の上司に怒られてばかりの万年平社員に効く……。
「ともきくん、わたしとも遊ぼっ」
おっと来たな。
彼女は亜里沙ちゃん。
どうやら智己くんのことが好きらしい。
だが智己くんは俺のことが大好きなので、俺を目の敵にしている。
ま、俺は大人なので、隣は譲ってやる。
まあ、その反対方向に座るだけだけど。俺は優しいからな。
しかし亜里沙、亜里沙。どこかで聞いたことあると思ったら、この子は中学の時に俺の友達と付き合ってた女の子だ。
俺の友達は野球部のエースだった。1年生ながらに4番を取るくらい優秀な選手で、それはもうモテていた。性格も良かったし。足と脇は臭かったけど。
女の子の審美眼は素晴らしいものがある。智己くんはこのままいけばとても好青年に育つだろう。
まあ、小5で引っ越しちゃうんだが。
そんな毎日で幼稚園生活は過ぎていき、年長さんのころ。
俺はここで、前世では小学生の時にやっていたバスケと出会う。
出会うって言っても、某エゴサッカー漫画とか、某ダンクバスケ漫画とかみたいな出会いじゃなくて、ただ父親が懸章で当たったバスケットボールの試合に行っただけの話。
そりゃーもうかっこよかった。
シュートはスパスパ入るし、ダンクもたまに見れたし、何より敵をドリブルで抜く瞬間。あの瞬間、たまんないだよなーって、思い出した。
ふふっと見ていると、視線。……父親から。
「……おもしろいか」
「え、うん。かっこいいよね」
「……ボールを買ってやる。ゴールも」
「ちょっとあなた」
「へそくりから出すから大丈夫だ。庭をコンクリにして、ネットを張ろう」
「え……」
「どうだ。やる気があるなら、続けてみなさい。誕生日プレゼントだ」
「う、うん……」
……これは前世にはなかった変化だ。
そんなに楽しげにみていたのか? 俺。
ていうか、俺の父親そんなに一気に喋るんだ。初めて聞いたわ。
……ていうかうちの父親、へそくりとかあるんだ。