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逆行したら強化選手に選ばれました。  作者: じらお
第一章 やりなおし
1/9

01

 死んだらしい。


 俺の名前は東堂(とうどう)一斗(かずと)。あだ名はイットー。まぁあだ名の理由はそのまんまだ。


 年齢は38歳。今日……いや昨日? 今日か?


 まあとりあえず、4/2が誕生日だった。


 死因は呆気ないものだった。トラックに轢かれた。


 妹に息子が産まれ、その甥っ子に生まれて初めてのプレゼントを持って行った、その帰り。


 だって、道路に子猫がいたんだもの。道路の真ん中にポツンと。


 そのまんまじゃ轢かれちゃうだろ。まぁ俺が轢かれたんだけど。


 あ、子猫どうなっちゃったかな。抱き抱えちゃったから、一緒に死んじゃったかな。死んでないといいな。


 まぁ、僅差で俺が悪いか、トラックの運転手よりも。飛び込んだワケだし。


 トラックの運転手さんには悪いことをした。こんなおっさんを轢いたばっかりに。退職とかにならないといいけど。なんらかの処分は免れないだろう。


 いやー、それにしても、あっけない。


 なるほど、死ぬってこういうことか、とかいうインターバル的なアレないんだな。なんだっけ、そう、走馬灯。


 まぁ走馬灯もなにも、つまんない人生だったけど。


 俺の人生のハイライトといえば、小学生の頃に入っていたバスケットボールのクラブチームでキャプテンやってたことくらいか。


 それも声がでかいからっていう理由で。


 なんつー理由だよ。まあ、それが大事なんだろうけどさ。俺は別にキャプテンって感じじゃなかったけどなぁ。


 それは置いといて、と。


 ……ところでここどこなんだ?


 あ、もしかしてこれが走馬灯? 何もなさすぎて真っ白?


 エグすぎるだろ、俺の人生。ブランクかよ。


「……え、ずっとこれか? もしかしてそういう感じ?」


 そう呟いた瞬間、ピンポーン、とインターホンが鳴る。突如として現れた音にビクッ! と肩が動く。


「な、なになに?」


『東堂一斗様、東堂一斗様。準備が整いましたので、前にお進みください』


「前?」


 すると、何もなかった真っ白な地面が、オレンジ色に輝く。


 まっすぐ、ずっとまっすぐ、道のように光り輝いたオレンジ色。


「……これをずっと進めってこと?」


 天国ってこんな感じなんだ……。いや、地獄かもだけど。


 とりあえず……進んでみよう。進めば、何かわかるはずだ。


 ずーっと、ずーっと続く道を進む。


 1分、2分、それから5分、10分歩いたって、道は続いていた。


 それなのに、不思議と疲れない。足が重たくならない。歩く気力が湧いて出てくる。


 歩く、歩く、歩く。


 どのくらい歩いたろう。


 汗ひとつかいていない体は、もう歩みを止めるという考えすら浮かばない。


 ただひたすらに、歩く。


 この先に何かあるのか? もしかしてそういう地獄?


 そんな考えが浮かんでは消え、浮かんでは消え。


 ……そうしてたどり着いたのは、これまた真っ白な扉。


「……開けろってこと、だよな?」


 扉の後ろには、オレンジ色の道は続いていない。扉の前で止まっている。


「……ま、ここまできて開けない選択肢はないか」


 ドアノブに手をかける。


 ……その前に、ふと気になって後ろを見た。


 闇が広がっている。


 なにもない。


 そこには、本当に、なにもない。


 ただ、深淵があった。


 吸い込まれそうな、深淵がそこにはあった。


 だめだ、落ちる。


 ――そう思った瞬間、俺は、扉を開けることなく、その深淵に飲み込まれた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 まぁ色々考えた末、出した結論はこうだ。


 俺はどうやら、転生というものに失敗したらしい。


 広がる風景は、どこか見たことのある場所。懐かしき部屋。懐かしき――俺の、幼少期の頃の家。


「かずちゃーん、ミルクですよ〜」


 哺乳瓶を持った女。……うん、親の顔よりも、いや実際親なんだけど、すっごく見たことのある顔。


 東堂(みなみ)。俺の母親だ。


 その奥には新聞紙を見ている気難しそうな男。


 東堂一基(かずき)。俺の父親だ。


 どうやら俺は、逆行というものをしてしまったらしい。

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