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続、小説・人狼ゲーム  作者: iris Gabe
出題編
3/10

3.初日の出来事

 初日の夕刻


M「こんばんは。お集まりの皆さん、長々とお待たせして申し訳ありません。ただ今より人狼ゲームを開催いたします」

 ゲームマスターのミスズが台上で宣言すると、参加者たちから一斉に歓声が沸き起こった。

M「本日はアドバンストルールで行います。

 では……、ここは名も無き村――、ここにいる村人は全部で十三名。しかし、皆さんの中には村を滅ぼそうとする恐ろしい魔物が紛れこんでいます。

 魔物の数は、人狼が三人、妖狐が一人、であることが判明しています。

 村人を救出する狩人たちの到着時刻は八日目の夕刻です。

 今回は集団暴力リンチ投票が同数で割れた時に、決選投票を一回だけ行うことにします。それでは、皆さんあらゆる知恵をふり絞って生き残りをはかってください」

 本編のゲーム参加者は、前回のメンバー、アメンボ(A)、ボス(B)、チイ(C)、ドロシー(D)、エリカ(E)、フォックス(F)、グレイ(G)、ヒミコ(H)、アイリス(I)に加えて、ピイスケ(P)、クイーン(Q)、リョウタ(R)、シノ(S)の総勢十三名だった。偶然とは恐ろしいものだが、今回の参加者のイニシャルも、AからIと、PからSまでの連続したアルファベットになっていた。

 例のごとく私はゲーム内容をメモするためのノートを用意して、参加者の名前をアルファベット順に書きこんだ。人狼ゲームは、部屋割りを決める時の状況や、昼の会議での発言、集団暴力リンチ投票の結果などが勝敗を大きく左右することになる。釈迦に説法ではあるが、読者の皆さんにもメモを用意されてお読みいただくことをお薦めする。


M『アイリスさん、聞こえますか?』

 秘密会話を通してゲームマスターのミスズから連絡が入った。

I『はい、師匠、よく聞こえてまーす』

 私は返事をした。

M『アイリスさんの今回の役職を連絡しますね。アイリスさんは……』

I『はい』

 私は息を呑んだ。

M『人狼です!』

 ミスズの連絡に私は呆然とした。

 人狼――。よりによって……。

 もちろん、私にとって未知の職業だ。一体なにをすれば? それに、仲間の人狼は?


 読者の皆様にあらかじめお断りをしておく。人狼ゲームでは会話の手段が二種類ある。一つは普通のオープンな会話で、近くにいる誰もが会話の内容を知ることができる。それに対して秘密会話なるものがある。これは選んだ特定の人物たちだけの間で交わされる会話で、部外者は会話の内容を盗み聞きすることはもちろん、秘密会話が行われていることを察知することもできない。全ゲームをとおして秘密会話の使用が許されているのは、ゲームマスターとの間のやりとりと、人狼同士の秘密会話のみである。人狼同士はゲームの途中のいかなる時にも、他の人狼との秘密会話の交信が許可されている。ただし、人狼も死んでしまえばその瞬間から、仲間との会話は一切禁止される。

 なお本編では、通常のオープン会話は普通の鍵括弧(「、」)で表現して、秘密会話については二重の鍵括弧(『、』)を用いることとする。


 しばらくすると、また誰かから秘密会話の交信がかかってきた。恐る恐る私は受信する。

C『こんばんはー。あいちゃん、お久しぶりです』

 聞き慣れた声だ。

I『あらー、チイちゃん。どうしたの?』

C『あいちゃん、今回のゲームでは、私たちお仲間です』

 チイは前回のゲームでも共に活躍した私の友達だ。まるで不思議の国から飛び出したかのような、とてもかわいらしい少女だ。

I『本当! わーい、チイちゃんよかったね』

C『……』

I『どうしたの。チイちゃん?』

C『あっ、あいちゃんといっしょなのは、嬉しいんですけど……』

 チイはなぜか元気がなかった。

I『えーと、人狼は私たち二人だけ?』

C『あっ、もう一人いますよ』

I『誰、誰……?』

C『そ、それがね……』

G『はーい、アイリスさん、ご無沙汰しています。グレイです』

 またどこかで聞き覚えのある声だった。

I『えー、ひょっとしてもう一人の狼さんってグレイさんなの?』

G『はい、前回もチイさんと私が狼でしたよね。だから、ミスズさんに今回は間違いじゃないかと問いただしてはみたのですが、サイコロでこうなったと』

C『私、良い子でいたいのに、また狼さんだなんて……。えーん、ついていないですう』

 チイが嘆いた。

I『チイちゃん、そんなことでも悩んじゃうのね』

 私はチイが元気のない理由にようやく気がついた。

G『案外、チイさんって、狼に向いていると思いますよ』

 出し抜けにグレイがいった。

C『そんなぁ。グレイさんひどいですう』

 チイが泣き出した。

I『そうよ、グレイさん。チイちゃん本気で悩んでいるんだから!』

G『あらら、すみません。そんなつもりでいったのではなくて……。

 実は前回のゲームの直後に、参加した男性陣たちが集まって青猪亭ブルーボアで飲んでいたんですよ』

I『青猪亭って、ネット上のあの酒場?』

G『はい。リアルでお酒を飲みながら、ネット上で語り合うのです。これが結構楽しくてね』

I『良い子は決してまねしちゃいけないことですね』

 と私は頷いた。

G『そこでの議論で、どの女の子がタイプかという話になりまして。チイさんは断突の一位でした。

 ですから、仮にチイさんに狼の嫌疑がかかっても、チイさんのファン倶楽部のメンバーがこぞって吊るし上げからチイさんを守ることでしょう。

 かくいう私もチイさんの熱烈なファンでして、これからはわたくしめのことは下僕とお呼びください』

C『なっ、なにをいってるんですか?』

 チイが顔を赤らめた。

I『ねえねえ、グレイさん。あたしの評判はどうだったの?』

 興味津々で私が訊ねた。

G『アイリスさんは、なんというか。天然で……、いや、そのぉ、好みが大きくわかれましたね。

 でも、実はボスさんが熱狂的なアイリスファンですよ。あの参り様は尋常じゃなかったですね』

I『気をつけます。あっ、フォックスさんは?』

G『彼が狙っているのはリーダーですよ』

I『リーダー?』

C『ミスズさん』

I『あっ、なるほどね。あり得るわ……』

 私は納得した。

G『彼はリーダー一筋です』

I『あはは、相当人間関係がこじれていますね』

 私は苦笑いをするしかなかった。


M「皆さん。各プレーヤーへの役職連絡が終了しました。いよいよゲームをはじめますよ」

 突然、ミスズによるゲーム開始の宣言が響き渡った。

 今回の参加者はなんと総勢十三名――。虚実のかけひきが交叉する中、生き残りをかけた血みどろの戦いの幕が切って落とされたのだ。

M「それでは今から部屋割りを行います。初日だけ部屋割りは三人、三人、三人、二人、二人と分けますからご注意ください」


 私たち人狼チームは、急きょ秘密会話で相談をはじめた。

I『部屋割りの作戦はなにかありますか?』

G『チイさん……。ではお願いします』

I『あのねえ、グレイさん。あんた男でしょうが!』

 私がつっこみを入れたが、

G『私はチイさんの下僕ですから、なんなりとご命令を』

 とグレイは平然としていた。

C『まず、二人部屋に私たちがいっしょに泊まれるチャンスがあれば、積極的に二人部屋になりましょう。

 三人部屋に二人の人狼は最悪です!

 三人部屋で三人がいっしょに泊まれれば、それが一番理想なんですけどね』

I『ええい、めんどうくさい! 折角最強キャラの人狼さんになれたんだから、噛み捲くっちゃえばいいじゃん』

 我慢できずに私は反論した。

C『あいちゃんの作戦もいいと思います。ただ、今回のゲーム終了時刻の八日目夕刻という期日がかなり遅いので、ゆっくりと様子を見るという選択肢も私たちは取れます。臨機応変にいきましょう』

I『了解です』

G『了解です』

 こうして私たちの相談は終了した。


 いよいよ初日の部屋割りが行われる。静寂を破ってミスズが発言した。

M「部屋割りの指名順を発表します。リョウタさん、ドロシーさん、ピイスケさん、ヒミコさん、グレイさん、フォックスさん、アイリスさん、エリカさん、アメンボさん、チイさん……の順番でお願いします。なお、三人部屋の指名では、最初に指名された方がその部屋の三人目を指名する権利を有します。

 ではリョウタさん、どうぞ」

 リョウタは坊主頭でシャツと半ズボン姿の少年キャラであった。いたずら好きそうな目をキラキラさせて、リョウタは口を開いた。

R「そこのおじいさんでお願いします!」

B「ははは、おじいさんですか」

 老人キャラのボスが笑っていた。

B「では、もう一人の指名をさせていただきます。えーと、じゃあピイスケさん、よろしくお願いします」

 ボスは三人目の同居者にピイスケを選んだ。

P「はい、光栄です」

 ピイスケは地味な青年であった。着ている服もおしゃれ気が全く感じられず、いわゆる初期キャラともいえるような殺伐とした容姿であった。

M「ではお次は……、ドロシーさんですね。ご指名お願いします」

D「はい、じゃあ、グレイさんでお願いします」

G「あっ、私ですか? はい。

 えーと、もう一人指名しなけりゃいけませんよね。じゃあ、クイーンさんでお願いします」

 ドロシーはチイよりちょっとだけお姉さん風ではあるが、ティーンエイジャーの女の子である。一方の、グレイとクイーンは二人ともミュージシャン風の派手な服装で、重そうなメタルのアクセサリーをじゃらじゃらと身につけていた。グレイのほうが少し大人っぽい雰囲気があるが、むしろグレイがクイーンをライバル視したために彼を指名したような感もあった。

M「じゃあ、次の順番の方は……? ヒミコさんですね。指名お願いします」

 ミスズがうながした。

H「はい、ではシノさん。お願いします」

S「ええ、喜んで。

 じゃあ、私はそこのマントの方……にします」

F「えっ、私のことですか? わかりました。フォックスと申します。光栄です」

 指名されたフォックスはいささか戸惑っていた。

 ヒミコは背が高くてモデルのようなグラマラス美人である。そして、シノと名のる女性は、ネットゲームでは珍しいおばあさんキャラであった。なんでも、リアルでもシノさんは五十代の専業主婦であるらしい。フォックス氏は黒装束に身をつつんだ年齢不詳の男性である。人狼ゲームのキャリアは高いらしく、なにを考えているのか読めない人物だ。

M「お次は……。アイリスさんですね」

I「はい、じゃあ……。仲良しのチイちゃんがいいです」

 かくして、私は無事にチイを指名することができた。

C「はい、あいちゃんですね。光栄です」

 チイが嬉しそうにいった。

 私とチイはあえて広場で離れた場所に立っていた。念には念を入れておいたほうがいいという配慮からであった。

 首尾よく事が運んで初日にチイと同じ部屋に宿泊することができた。同部屋に宿泊した人狼は、パスを消費せずに翌朝を迎えることができるのだ。このパスと呼ばれる行為は、全ゲームを通じて人狼は一回しか使うことが許されていない。

M「では、残ったお二人の、エリカさんとアメンボさんが同部屋ですね」

 ミスズが確認した。


 ここで初日の部屋割りをまとめておこう。

 (春の間)リョウタがボスを指名して、ボスがピイスケを指名した。

 (夏の間)ドロシーがグレイを指名して、グレイがクイーンを指名した。

 (秋の間)ヒミコがシノを指名して、シノがフォックスを指名した。

 (冬の間)アイリスがチイを指名した。

 (松の間)残ったエリカとアメンボが同居する。

 平和な名も無き村に、いよいよ、恐怖の夜が訪れる……。



 初日の夜


 冬の間で私とチイはくつろいでいた。少なくとも今宵この部屋で事件は起こりようがない。

 とその時、仲間のグレイから秘密会話が送られてきた。

G『こちら、グレイです。今日の行動はどうしましょうか?』

C『祈祷師がいそうですか?』

G『いえ、全くわかりません。なにしろ、このクイーンという奴はなにもしゃべろうとしないので……』

 さもありなん。私とチイは苦笑いをした。

C『もう一人のドロシーさんはどんな方ですか?』

G『彼女は逆に堰を切ったようにべらべらとしゃべってきますね。やるなら、彼女かなぁって感じがします』

C『お任せします』

G『了解です……』

 ここで、グレイからのメッセージは途切れた。一分ほど経過しただろうか?

C『もしもし、グレイさん。大丈夫ですか?』

 心配したチイがグレイに秘密会話を送った。

G『グレイです……。

 やばいです! ブロックされました!』

C『誰にされたのですか?』

 冷静を装ってチイが訊ねた。

G『ドロシーさんです! どうしましょうか?』

 グレイの戸惑っている様子がはっきりと伝わってきた。

C『明日の会議で互いにブロックされたといい張るしかないと思います。

 まあ、私たち三人は協力することができますから、落ち着いて行きましょう』

G『わかりました。あーあ、初日から災難だなぁ……』

 グレイの声はぐったりとしていた。

 ブロックとは人狼が牧師に噛みついた時に、牧師が抵抗することだ。ブロックは全ゲームを通じて一回しか執行できないが、執行すると人狼のその日の攻撃を牧師はかわすことができて、双方死なずに翌朝を迎えることができる。この時、人狼のパスは消費されない。

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