2.汝は人狼なりや?
I「こんばんはー。師匠、ご無沙汰してました」
M「あら、アイリスさん。久しぶりね」
ミスズはチャーミングな碧い眼の若い女性だ。彼女はネット仲間で定期的に人狼ゲームを開いて楽しむグループ『朧月会』のリーダーでもある。
私の名前はアイリス。前回参加した人狼ゲームで、その魅力に取りつかれてしまった女の子だ。
M「今晩も人狼ゲームを催しますよ。よかったら参加してくださいね」
I「はい、そのつもりでやってきました」
M「今日はアドバンストルールで行う予定なの。アイリスさんはアドバンストルールをご存知かしら?」
I「はい、師匠。全然わかりませーん」
M「でしょうね……。じゃあ、今から説明するね」
I「お願いします」
M「基本的にはスタンダードルールと同じです」
ミスズの説明がはじまった。
スタンダードルールについては、前作の『小説・人狼ゲーム』の第2章に詳しく記してあるので、興味を持たれた読者の方は参考にしていただきたい。なお、本編を楽しんでいただくためには、やはりルールをしっかり把握されることが大切と思われる。
M「大きく違う点は、人狼、狂人、祈祷師、牧師、村人のほかに新しい役割として、妖狐と霊能者が加わります」
I「妖狐って?」
M「妖狐は人狼側にも村人側にも属さない第三勢力よ。人狼側と村人側の二つのチームが勝利を争う中で、息を潜めて単独勝利を目指す孤独の戦士よ」
I「どうすれば妖狐が勝利となるのですか?」
M「スタンダードルールでは、人狼側は終了時刻までに村人側を全滅させれば勝利。村人側は全ての人狼が死んでしまうか、あるいは終了時刻までに村人側の誰か一人でも生き残れば勝利だったわよね」
I「はい、そうでした」
M「アドバンストルールでは、スタンダードルールにおけるどちらかの陣営の勝利条件が達成された時に、もし妖狐が生き残っていれば、妖狐がたった一人だけで勝者となります」
I「妖狐が最後まで生き残ったら、妖狐一人だけが勝者になってしまう?」
M「そう、妖狐は村を妖狐族の支配下にしようと企んでいるのよ」
I「じゃあ、妖狐はどうしたら死んでしまうのですか?」
M「妖狐は人狼に噛まれると、ただの狂人に成り下がって人狼側のメンバーとなります」
I「狼さんに襲われた瞬間に、妖狐としての能力を失っちゃうというわけですね」
M「そのとおりよ。噛まれると狼族の手下になってしまうのよね。だから噛まれたあとでは、最後まで生き残っても単独勝利にはならないわ」
I「あくまでも、妖狐として生き残らなければ単独勝利はないというわけですね」
M「そう。噛まれたあとは人狼側の勝利を目指して行動するだけね」
I「狐さんは噛まれてしまえば狂人になるんですよね。じゃあ、人狼側のために自殺することもできるんですね」
M「できるけど、狂人と化した妖狐の勝利条件は、人狼側が村人を全滅させた瞬間まで生き残っていなければならないの。だから、自殺してしまうと勝利を放棄してしまうことになるわね」
I「ふむふむ。狂人になっても、死んだら即敗北という妖狐のサガは背負っていかなければならないんですね」
M「だから狂人化した妖狐が自殺することはまず考えられないわ」
I「じゃあ、そんな狂人は人狼側としては役立たずじゃないですか。さっさと殺しちゃえー、てことにならないですか?」
M「そうね、殺しちゃってもいいけど、人狼側としては狂人化した妖狐は、自分たちだけが狂人であることを把握している都合の良い仲間でもあるのよ。集団暴力の投票権もあることだし、生かしとけばなにかと役に立つと思うけど」
I「なるほどね。人狼側としてはなるべく早く妖狐を見つけ出して、手下に組み入れたいところなんですね」
M「そうなの。でも妖狐を見つけるのってかなり難しいことよ」
I「村人側からは、どうやって妖狐を退治すればいいんですか?」
M「集団暴力で吊るし上げる方法もあるけど、霊視で妖狐を殺すことができるわ」
I「霊視?」
M「追加されたもう一つの職業が霊能者なんだけど……。あっ、霊能者は村人側の職業ですよ。霊能者は全ゲームをとおしてたった一回だけ、夜の同居人の一人を霊視することができます」
I「全ゲームをとおして、たったの一回ですか?」
M「そうよ。そこでもし霊視された相手が首尾よく妖狐であったのなら、妖狐は正体を見抜かれたということになり死んでしまうの」
I「うわー、正体がばれた途端に死んでしまうんですか。じゃあ、霊視した相手が狐さんではなかったら?」
M「それでおしまい。霊能者は霊視する能力を失って、そのあとは村人側の一員として行動していくの」
I「霊視された相手も、自分が霊視されたことがわかるんですね」
M「そうね。うっかり狼を霊視してしまうと、その霊能者は人狼側に自分の正体を曝すこととなって、その後は狼たちの恰好のターゲットになってしまうでしょうね」
I「なるほど。霊視はたったの一回きりの能力だから無闇には使えませんねえ」
M「霊能者の能力はそれだけじゃないの。霊能者は毎朝、つまり昼の会議の前に、前日の集団暴力の犠牲者がいたならば、その人の職業を知ることができるの。実際にはゲームマスターから秘密会話で報告を受けるんだけどね」
I「ええっ、それって他人の役職を知る上で、めちゃ大きなアドバンテージですね!」
M「そうなの。だから、人狼側としてはいち早く見つけ出して殺してしまいたい職業なのよね」
I「昼の会議で、前日までの集団暴力の犠牲者の職業を霊能者が暴露しちゃえば、村人側が圧倒的に有利になって、ゲームが面白くなくなっちゃいませんか?」
M「問題はその人が本当に霊能者かどうかが判断できないことよ。狂人が嘘をついているのかもしれないしね。
それに、のこのこ霊能者がしゃしゃりでれば、すぐに人狼たちのターゲットになってしまうわ」
I「そっかあ。霊能者としては、しばらく様子を見ていたほうがいいということですね。奥が深いわ……」
M「そのほかのルールの変更点は、一つは初日の部屋割りが三人部屋を優先して行うことね」
I「よくわかりません」
M「ええと、例えば参加者が十三人とするわね。その時には、部屋割りを三人、三人、三人、二人、そして余った二人というように割り振っていきます」
I「二日目以降は従来どおり?」
M「そうです。だから初日だけ三人部屋が多くできることになるわね」
I「はいはい、ほかに変更点は?」
M「そのくらいかな? あっ、そうそう。前回と違って今回のゲームでは集団暴力投票で票が割れた時に、もう一回だけ決選投票を行います」
I「決選投票?」
M「同票数を得た最多得票者のみを候補にして、もう一回だけ投票を行うの。その時に、必ずしも前回と同じ人に投票しなければならないという決まりはありません。そこで最多得票者が出ればその人は吊るされるし、票が再び割れた時にはその日の集団暴力は中止します」
I「わかりました。結局、大きな変更点は妖狐と霊能者が加わったということだけですね」
M「そうなんだけど、それってかなり複雑なのよ。もう一回要点を繰り返すわね。
妖狐がもし噛まれずに最後まで生き残れば、単独勝者です。その時は、人狼側も村人側も敗北です。妖狐がもし人狼に噛まれれば、狂人と化して人狼側に所属します。
狂人化したあとで再び人狼に噛まれれば妖狐は死んでしまいます。もし最後まで生き残ってかつ人狼側が勝利を収めれば、人狼側といっしょに勝者になれます。ゲームの途中で死んでしまえば、いかなる場合にも妖狐は敗者です。
霊能者は毎朝、前日の集団暴力の犠牲者の職業を知ることができます。さらに、霊能者は全ゲームをとおして一回だけ、同居人の一人を霊視することができます。霊視された相手が妖狐の時には、妖狐は死んでしまいます」
I「細かい質問だけど、妖狐が狂人化したあとで霊視されたらどうなっちゃうんですか?」
M「あんた、時々ものすごく鋭くなるわねえ……。
たとえ狂人化したあとでも霊視されれば妖狐は死んでしまいます」
ミスズは感心していた。
I「わかりましたー。師匠、ばっちりです!」
M「じゃあ、ゲーム会場に行きましょう。みんな集まっているわよ」