1.名も無き村
本編は、前作「小説・人狼ゲーム」の続編です。本編では前作よりもさらにルールを複雑にして話が進行します。ルールを理解するためにも、前作をお読みになることが役立つと思います。また、本編には前作のネタばらしも一部含まれております。まだ前作をお読みになっていない読者の方は、まずそちらからお読みいただけるとありがたく思います。
登場人物
アイリス (I) 若い女性
ミスズ (M) 司会者(若い女性)
アメンボ (A) 青年
ボス (B) 老人
チイ (C) 少女
ドロシー (D) 少女
エリカ (E) 若い女性
フォックス(F) 年齢不詳の男性
グレイ (G) 中年男性
ヒミコ (H) 美人
ピイスケ (P) 青年
クイーン (Q) 中年男性
リョウタ (R) 少年
シノ (S) 老女
目次
『出題編』
1. 名も無き村
2. 汝は人狼なりや?
3. 初日の出来事
4. 二日目の出来事
5. 三日目の出来事
6. 四日目の出来事
7. 五日目の出来事――前編
読者への挑戦
『解決編』
8. 五日目の出来事――後編
9. 六日目の出来事
10.感想戦
本編は、多数の人物が登場し、それぞれの考えに従って独自の行動をとってゆきます。彼らがする発言や行動の順番などのひとつひとつが、読者が真相にたどり着くための貴重な手掛かりとなっています。しかし、その情報は複雑かつ膨大なものであり、とても頭で覚えきれるものにはなっていません。
そこで、読者の皆さんには、ノートなどのメモ用紙をご用意いただき、気が付かれたことを逐次書き留めながら、本編を、地面をはうがごとく、ゆっくりと読み進めていただくことを推奨いたします。
まことに勝手で七面倒な要望ではございますが、こうすることで、見事に本編の正解をお当ていただいたあかつきには、これまで感じたことのない満足感にひたることができるような内容になっていると、自負しております。
さあ、賢明なる読者の皆さん。私が文中にこっそりと忍ばせた手がかりをひとつたりとも見過ごすことなく、どうか真相を暴き出して、至福の喜びを得てください。
なお、本編は、できれば「縦書きPDF形式」でお読みいただくようお勧めいたします。(作者)
私の眼下には翡翠色の広大な森と、曲がりくねった美しい川、深い山並みが広がっている。そして静かな森に取り囲まれて、ささやかな集落がそこにあった。
名も無き村――。
周囲から孤立して独自の生活を営む、慎ましくて、のんびりとした平和な山村だ。
ある日この村に一人の旅人がやってきた。村人たちはこころよく旅人をもてなした。旅人がやってきた最初の日は、特にこれといった事件はなにも起こらなかった。
二日目の夜――それはかつてないほど艶麗な満月の夜であった。やがて夜も更けて、月が沈み、太陽が山間から顔を出した。
いつも畑仕事をしている村一番の早起き老人の姿が、どうしたことか今朝はなかった。心配をした村人たちが老人の家の前に集ったのだが、そこで彼らが目撃したのは想像を絶する凄惨な光景であった。
老人の遺体には内臓がほとんど残っていなかった。あんなにやせ細っていた老人から吹き出た大量の血しぶきの臭いが、ほこりっぽい部屋の中に充満していた。
さらに翌朝になると犠牲者は二人に増えた。村はずれに一人で暮らす孤独な農婦と陽気な床屋の次男坊が、見るも無残な姿で死んでいるのが発見されたのだ。そして昨晩は、さらに村長を含む四人までもが姿無き猟奇的な殺人鬼に惨殺されてしまったのであった。
ようやく、村人たちは気づいた――。
彼らはあの旅人が泊まる小屋の前にぞくぞくと集結をした。やがて村人の代表がいった。
「旅人さんよぉ。あんたしかいねぇ。この惨劇を引き起こした張本人は……」
旅人はあえて弁明をしようとはしなかった。それを見て村人たちは、旅人を取り囲むと、容赦なく集団暴力を行った。やがて息を引き取る間際になって、ようやくその旅人はかたくなに閉ざしていた口を開いた。
「――ふふふっ、これで済んだと思うなよ……。
すでにお前たちの中には呪われた狼族の血に汚された人物が三人紛れこんでいる。俺を殺しても悲劇は再び繰り返すのだ。はっはっは……」
不気味な予言を残して、旅人は息を引き取った。しかしその呪われた予言に怯える村人たちが、互いに疑心暗鬼になるのもやむを得ぬことなのかもしれない。彼らは急きょ会議を開き、夜間は信頼のおける者同士で複数になって寝泊りすることを取り決めた。
その会議に集った村人全員の人数は十三人。そしてその中にはこの私も含まれている。
くくくっ……。いよいよ面白くなってきたぞ……。
この名も無き村において、臆病で体力に劣る人間どもと、野蛮で知力の低い人狼どもが、血みどろの抗争を繰り広げる。馬鹿どもの無益な争いの末に、どちらか片方の陣営が滅んだ時こそ、我ら妖狐族の長年の悲願が成就されるのだ。人間か人狼、どちらか一方の勢力だけになってしまえば、奴らを乗っ取るのはいとも容易いことなのだ。
誇り高き我ら妖狐族が繁栄する時代が、間もなく訪れようとしている。私は口元がかすかにゆるむのを感じていた。