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猫の精霊  作者: たにし
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ショッピングモールにも精霊

「ねぇこの味どうかな?」


「こっちも美味しそうだよ!」


女の人間2人がはしゃいでいる。


2人が目を輝かせている、数多くのアイスクリームが飾られているショーウィンドウの隅の上に、精霊のソマリはちまっと座って観察している。


ここはショッピングモールの中のアイスクリーム屋。


向かいにはブティック、吹き抜けから見える下の階にはゲームセンター。上の階にはまたブティック。

ショッピングモールには何故こんなにも服屋が多いのだろうか。ソマリは疑問を持つ。


都心のショッピングモールは人が多く、精霊の仕事の割り振りとしては、かなりのハズレの部類だった。


親がブティックで、洋服を選んでいる。それに退屈した子供はたちまち、遠くに見えるおもちゃ屋に誘惑され、一人で行ってしまう。


はい、これだけで、迷子の完成だ。


俺が仕事をしなくてはならない。

それにも骨が折れる。

子供のズボンの裾を噛み、ぐいぐい、と引っ張る。

子供は不可思議な力に困惑しながらも、引っ張る力に抵抗しないで、おもちゃ屋の外に引っ張られる。


そこを子供の親が発見し、「勝手にどこかへ行ったらダメでしょ!」と、叱責を受ける。

そしてソマリはまた一つトラブルを解決したという実績を積む。


精霊の力をもってしたら、こんな混雑を極めているショッピングモールとて、一匹で見ることは可能だったが、上級精霊の方針により、このショッピングモールには、3匹の精霊が配属されていた。

働き先を少しでも多くして、精霊たちを食わせていこうとしている上級精霊の方針なのだろう。

一匹一匹の精霊の取り分は減るが、それでもいい。


昔というまでもないが、最近でもない、少し前のこと、上級精霊の異動の伝達ミスで、働く筈だった場所には何もなく、それに上級精霊が気がつくまで、俺は野良生活を2ヶ月間も強いられた。たまたま道を通りすがった、ビーズ連ねたようなアクセサリーを首に掛けている精霊がエネルギーを分けてくれなかったら、危うく消滅しているところだった。


せっかく都会に生きているというのに、あんな辛い思いはしたくない。


だから野良が少しでも減るように、沢山の精霊を配置することはソマリは賛成だ。


ソマリは1.2番街を担当されていた。

このショッピングモールは7番街まであるから、俺以外の二匹の精霊、ラグドか、ペルシャのどちらかが、割を食っているのだろう。


それは俺の知ったことではないが。

と、ソマリは大口を開け、あくびをする。

にゃぁお、という声が漏れるが誰にも聞こえないので気にする必要もない。


いつの間にか、アイスクリームのイートインスペースには、二組の人間がいた。


先程の、アイスクリームを選んでいた女の人間2人。

紺色の洋服に身を包み、2人でたのしくおしゃべり、といった具合だ。

あの紺色の洋服は「せいふく」というらしい。


三番街に「がくせいふく」コーナーがあるらしい。その担当のペルシャが教えてくれた。


一方もう一組は、ピンク色の外装のアイスクリーム屋には似つかわしくない、柄の悪い二人組。


一人は茶髪パーマでカップに乗せたぱちぱちと弾けるアイスを食べている。

もう一人は紫のメッシュが入った長髪の男で、フルーツソルベとバニラアイスをコーンに乗っけて、交互にスプーンで削り、口に運んでいる。


「なぁ、浅川、お前は決まってそれ食うよな。」


「これが好きなんだよ」


ほとんど、中身のない会話をしている。

意味はあるのかもしれないが、ソマリには分からない。


こういう柄の悪い二人組というのは、たちまち他の人間に絡みだし、トラブルを引き起こすことが多いと知っている。


尻尾を立て2人をまじまじと見つめ、警戒態勢をとる。


ショッピングモールは大人数の人間が来るだけではなく、沢山の種類の人間もくる。


親切な人間もいれば、物騒な人間も、若い人間もいれば、老いた人間もいる。


まぁこれはきっと、ショッピングモール以外の場所にも言えたことなのだろうが、数多くの店があるこの場所では、より顕著に表れているような気がしなくもない。


上階で怒鳴り声が聞こえてきた。

ソマリの耳には最初その怒鳴り声は聞こえてこなかった。

ショッピングモールの喧騒に紛れていたこともあるし、何より、柄の悪い二人組をまじまじと見ていた為だった。


怒鳴り声は上階の右側から聞こえてきた。

あの位置ならば1番街と2番街の狭間だろうと、ソマリは当たりをつける。


足に力を目一杯いれて、3階までジャンプする。

ショッピングモールの吹き抜けになっている部分を通り抜ける。

ソマリは2階から3階までジャンプすることは得意だったが、反対に、3階から2階、2階から1階へと降りることはとても苦手だった。

高いところから低いところを見下げると、どうしても高く見えてしまって尻込みしてしまう。


それならば、フロアに点在している、人間が作った動く階段のようなものを使えばいいのではないか、と思うかもしれない。

しかし、この多い人間がいるショッピングモールではいつ、何処でトラブルがあるかは分からない。

動く階段を使うとなると、そこまで移動する必要もある。

しかも動く階段自体ものろのろとした速度で動くのだ。

それならば、自身の脚力でひとっ飛びし、降りるときも、尻込みしながら降りるほうが、時間で言えば早かった。


3階に着地し、右側を見てみれば、やはり当たりをつけたとおりの、1番街と、2番街の間で、40代くらいの男がベビーカーを押した女に怒鳴っていた。


しかし一旦ソマリはその場に座り込み、その二人の人間を観察することにする。

解決しようにも、怒鳴っている男が悪いのか、ベビーカーを押していた女が悪いのか判断しかねるからだ。

まぁ経験則でいえば、悪いのは男なのだろうが、それだけで判断するわけにもいかない。


「お前がそんなでかいもん、押してっからぶつかるんだろ。」と男はまだ怒鳴っている。

周りの客が怒鳴る男に注目しているが、そんな事は気にしないといった様子だ。


女側もしどろもどろになりながら反論はしていた。


「そもそも、あなたが携帯を見ながら急にふらっと曲がってきたことが悪いんじゃないですか。」


ソマリは腰を上げる。判断材料が揃った。

やはり経験則通りだった。


怒鳴っている男の隣には、チェーン店の喫茶店がある。

これだ、とソマリは思った。

これを使って男の頭を冷やしてやろう。


丁度注文を終えた青年が、受け取り口にて、アイスコーヒーを受け取り、笑顔でストローに口をつけた。

ソマリはサッと、その青年の前に飛び出す。


一方その頃、ソマリの知らないところで、意外なことが起きていた。


「まぁまぁ、落ち着いて、落ち着いて、」

と、長髪の男


「取りあえず、怒鳴るのをやめろや。聞いてた感じ、お前が悪いからなんなら謝れよ。」と少々、いや大分苛立っている茶髪パーマ。


アイスクリーム屋にいた柄の悪い二人組だった。


「トラブルが起きてる雰囲気がしたから上がってきたら案の定。」

と、茶髪パーマの男が続けて言う。


怒鳴っていた男もさすがにこの2人には気圧され、退散したい、という願望が露わになっている表情をしている。


ベビーカーを押している女すらも最早、この柄の悪い見た目の二人組に怯えてる部分さえあった。



ここでソマリの視点に戻る。

ソマリは青年の前に飛び出でて、自身の尻尾を上手いこと、青年が歩く、足の下へ滑り込ませた。


青年は何かを踏んだことを察したが、それが何かは分からない。気味の悪いものを踏んだと、「うわぁ」と情けない声を出し、膝から崩れ落ちる。


その拍子に、手に持っていたアイスコーヒーが放り出され、怒鳴っていた男に直撃する。

直撃した衝撃でアイスコーヒーの蓋が外れ、怒鳴っている男の側頭部でぶち撒けられる。


ぎゃ!っと声を上げ、飛び退く。

側頭部、もみあげの位置に手を当てると、男の手に黒い液体が付着する。

何を思ったのか、飛んできたものが重いもので、血が流れていたと勘違いしたらしく、その先入観のせいで、コーヒーと判別するまでに、時間がかかっていた。


その間にそそくさと、ベビーカーを押している女はその場を離れたが、男は怒鳴ることなどとうに忘れのたうち回っている。


柄の悪い二人組も驚いていたが、ざまぁみろ、というふうに男を見る。


がそれも少しの間で、長髪の男ほうが、あ、と声を出す。

下を見てみれば、長髪男の白のチノパンにコーヒーがまぁまぁかかっていた。

たぶんあれはシミになってしまうな、とソマリは無関係の被害を悼む。


いや、待て、この一連の流れの一番の被害者はコーヒーを持っていた青年だということを思い出し、青年の方を見る。


自分の買ったコーヒーがおしゃかになってしまったことにがっくりしていた。


しかしそこで、


「俺が買ってやるよ。スッキリしたしな。」

と、茶髪パーマの男が言う。

青年は、「いいんですか?」

といい、茶髪パーマの男と一緒に再びコーヒーを注文しに行った。


「つまり俺が一番の被害者ってわけね。水難の相が出てるな。」と、長髪の男がうなだれるのをみて、ソマリは、本当に申し訳ない気持ちになった。

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