吸血鬼の少女、旅に出る(2)
ここからの十年間は物凄く大変だった。
お母さまの修行を甘く考えすぎていたのだ。お母さまの修行はとてもつもなく厳しく次の日から早く起こされて魔力増強のために自分の中の魔力を全部外に出し切り、魔力の容量を増やすというものだった。魔力とはどの生き物も体の中にある生命エネルギー、簡単に言えば生きるために必要なものだそうだ。魔力というものは筋肉と同じで酷使するほどより強力に、より強くなるらしい。お母さまはその理論に則って、ずっと魔力を吐き出し続けていた。
午後からは魔力視や、身体能力向上の修行を受けた。
本当にこの午後の修行の時間は地獄だった。だって、魔力すなわち生きるためのパワーを全部出し切った後だよ?そりゃあ体だってとてもだるいし集中もまともに出来ない。その中で最も集中力を必要と言われている魔力視だ。魔力視というのはお母さまは曰く、どんな相手か見破る力だそうだ。魔力視を使えば相手の魔力量が分かり、そこから相手の力量。最後の段階まで行くと相手の感情や相手の考えが分かるようになるそうだ。この技術はとても難しいと言われていて魔法を使ういわゆる魔女や、魔術師と言った魔法のエキスパートの人でも使えない人が多いらしい。
こんな難しい技術私に使えるわけないじゃないと思いお母様に聞いたことがある。
「お母さま、魔力視難しすぎてできる気がしないんだけど」
「あら、あなたなら使えるはずよ。だって私の親友は使えたのよあなたができるわけないじゃない。ほら修行の続きをしましょうね」
と意味の分からないことを言って火の玉を連射してきたのを鮮明に覚えている。
その時は本当に死んだかと思った。魔力視と同時にしていた身体能力の向上の訓練は体というよりも心の負担がものすごくやばかった。何をするかと言うとお母さまが急に放ってくる魔法を魔力視を使って感知してから避けるというものだった。お母さまは鬼畜と言っても生易しいくらいと当時は思っていたくらいにはやばかった。お母さまは目で見た時にはもう避けられない速さの魔法を使ってくるかってきて「あ、これは死んだな」と何度”死”が頭によぎったことか。
そんな死と隣り合わせの訓練を10年受けやっと世の中で戦えるレベルまで育ったとお母さまからGOサインを貰えたのだ。
その時の私と言えば嬉しすぎて庭になんか生えているマンドラゴラと一緒に悪魔召喚をしてしまったくらい、その悪魔はなんか世界を滅ぼすとか言い出したのでマンドラゴラを生贄にして地獄に帰ってもらったの今になってはいい思い出なのかもしれない。
マンドラゴラ君今も地獄で元気にしているかな・・・good lack
お母さまに旅に出る日を相談したところ
「お母さまいつ旅出ようかなって考えてるんだけどいつくらいがいいと思うー」
リビングのソファーでゆったりしながら晩御飯を作っているお母さまに聞くと
「何?」
とゆったりした声でこちらに振りむいた拍子に私に向かってキラリと光る銀色の物体が私めがけて飛んできた。
間一髪のところで首を傾けて避け、恐る恐る後ろを振り向くと壁に飾ってあるマンドラゴラ君2世の頭にぐっさりと刺さっていた。マンドラゴラは何か刺激があると大きな声で叫び、聞いたものを混乱状態に陥れるちょっと危ないものだけどそのマンドラゴラが声を発する前に動かなくなっていることから物凄い威力があると推測できる。
ちょっと待ってよ。なんで予備動作なしでマンドラゴラが反応できな速度で包丁投げられるのよただの化け物でしょ・・・お母さまは吸血鬼でした。そうでした。
お母さまはフッと笑うと優しい目で私を見つめた。
「これならあなたを心配なく送り出せるわね。そうね、ならあなたの15歳の誕生日の次の日というのはどうかしら?」
15歳の誕生日の次の日・・・って明後日じゃん。旅に出たい出たい言ってきたけどこんな早く行けるとは思ってもいなかったから・・・つい今更だけどなんか怖くなって気がする。
「結構、急だね」
「でも、こういう経験は若いうちにしておいた方がいいのよ。あなたの性格だといざ実行しようとすると怖気づいて次へ、次へと先延ばしにして結局やめた。ってなることがよくあるんだからこれくらいがちょうどいいのよ」
「ん、まぁ・・・そうだね。よく私を分かっているようで」
お母さんから目を逸らしながら気まずそうに答えるとお母さまは胸を張った。
「そりゃあ。あなたのお母さんだもの。何年の付き合いだと思っているのよ」
「15年?」
「意外と少ないわね。体感100年くらいかと思ったわ」
「年取り過ぎて時間間隔狂ってるんじゃない?」
お母さんは心外と言わんばかりに口に手を当ててお上品にホホホと笑っている。
これは嫌な予感が・・・急いで魔力視を使うとお母さまの魔力が小さく揺らめいだ。これの魔力の揺らめき私じゃなかったら見逃してたわね。急いでしゃがむと元々私の首があった場所を透明の刃が通り抜けていった。
ガシャン。と物凄い音が部屋に響いた。
後ろを振り向くと壁がきれいに切れており小さな隙間から外が見えるようになっている。あと壁にオレンジ色のものが付着しており、床には緑の葉っぱが付いたオレンジ色の野菜みたいなものが落ちていた。
これは・・・マ、マンドラゴラ君2世!マジでやばい。これ私を殺す気だったでしょ。年の話をした私も悪いところはありますよ。ええそこは反省しています。でも、実の娘を殺そうとするのはやりすぎなんじゃないですかねぇ。あ、修行で何度も殺されかけてました。てへぺろ。
そこからパパが帰ってきてなぜかお母さまのヘイトがパパに向いて家族全員参加(姉を覗く)の大乱闘が勃発した。大乱闘のルールは簡単最後まで立っていた人!ということで始まった激しい激闘の末優勝したのはっーージャン!マンドラゴラ君3世でした。
パチパチパチーなんで?
大乱闘も終わり私は自室に戻り夜空を眺めていた。