プロローグーーー平和の世界を求めた一人の魔王(3)
「準備はできているわよ」
中から凛とした声が聞こえてきた。
クリスはその声を聴くとギギギと扉を押し開けると中にはピンク色の髪を肩まで伸ばして、背中から立派な羽が生えている吸血鬼の少女が魔法陣の調整をしていた。
「あら、意外としんみりしていないのね」
吸血鬼の少女はクスクスと笑いながら呟いた。
彼女はシノン。私の親友であり、私の魔王軍の将軍をしている何かとすごい親友なのだ。今は世界を分かつ結界ディバイドを破壊する術式をくみ上げた何でもできる系の天才なのだ。
「ふふ、これはイノリのおかげね」
「ああ、そうだな」
■■とクリスは顔を見つめ合って笑うとシノンはジト目でクリスを見つめていた。
あれ、もしかしてクリスに何か思うことがあるのかしら。もしかしたら思いを寄せていたり//私がいなくなった後に始まる恋愛物語・・・少し悲しいけれど私はイノリと二人とも幸せになってほしいのもの私は大人しく見守っておきましょうかね。
■■が顔を赤らめたり青くなったりくねくねしているとそんなことお構いなしに二人は話を続けていた。
「今はこの子をほっといておきましょうね。私はてっきり・・・」
シノンは■■を優しい目つきで見つめた。
「計画を先延ばしにすると思っていたけど外れてしまったわね」
「ああ、そうだな本来はそうしたかったんだが」
クリスはシノンとは違い苦しみと悲しみに満ちた目で■■を見つめていた。
クリスは■■に近づくとそのまま頭をゆっくりと■■を噛みしめるように優しくなでていた。
シノン二人を見て全てを察したのか目を伏せていた。
「ちょっと急いだほうがいいのかもね。■■そこの魔法陣の中心くらいにたってくれない?」
「了解!でも、ちょっと待ってね」
■■はそのままぎゅっとシノンに抱き着いた
「わっ」
シノンは驚きの声を上げたがそのまま■■に力いっぱい抱き着く。
「シノン。私の頼みを聞いてくれてありがとうね。こんなこと頼めるのもあなたしかいないもの・・・」
シノンは先ほどの明るい雰囲気からうって変わり顔をくしゃりと歪めて泣かないように必死に唇を嚙んでいた。
「どうしてっ私があなたを殺す手伝いなんかしなきゃいけないのよ。しかも私の一番の親友のっ」
「ごめんね。でも頼めるのはあなたしかいないから」
「わかってる。こんな私をそばにおいてくれたのは■■しかいなかったのに。これから私はどうしたらいいのよっ!」
「うんうん。最後にこれだけは言わせてあなたに会えて本当に良かった。ずっと私の友達でいてくれて私の親友でいてくれて本当にありがとう」
シノンは泣きながらフッと笑うと
「違うわ。これからもずっとよ。私の方からも言わせて本当にありがとう。世界のために自分まで犠牲にしてしまう親友を持って私は本当に・・・もうなんだか世界を恨んじゃいそう」
「それはダメでしょ。あとイノリをよろしくね」
■■とシノンは言いたいことを言い終えるとゆっくりと距離を取った。
するとシノンは涙を拭って、無理やり笑顔になるとビシっと■■に指を差した。
「最後にあなたにサプライズがあるわ。でもこれはあなたが死んだあとね」
サプライズ・・・懐かしいな。シノンにはいっぱいサプライズしてもらったなぁ。私も負けじとサプライズをして一回魔王城を吹き飛ばしたことがあったけ。
でも死んでからのサプライズってどういうことだろう?
「じゃあ行くね」
■■がそう言うとシノンはとびっきりの笑顔で親指をぐっと上げていた。
「行ってらっしゃい!」
■■はふらつく足取りで魔法陣に向かって歩く。
「あっ」
足がもつれて転びそうになるとすかさずクリスが支えてくれる。
「今日でもう二回目だね」
「・・・ああ、そうだな」
そして一緒に一歩ずつ魔法陣の中将に向かって歩いていく。
魔法陣を踏みしめたところからゆっくりと空中に魔法陣が浮かび上がり始めた。まるで私の進んだ一歩一歩の軌跡ようにキラキラと輝いていた。
これがもしかしてシノンの言っていたサプライズなのかな。でも、サプライズは死ん後って言ってたし
「うーむ」
サプライズが何か考えているうちに魔法陣の中心にたどり着いた。
「ありがとう。ここまで運んでくれて」
「ああ、感謝されるほどでは・・・」
シノンは真剣な顔で手を輝かせながら魔力を魔法陣に込め始めた。
やがて魔法陣はとてもつもないほど輝き始めた。
シノンは顔をバッと上げると
「もう時間は無いよ。勇者最後に何か言うことがあるのなら今のうちに!」
クリスは■■の肩を自分のほうに引き寄せると泣きそうなほど弱々しいほどの声で
「俺は君を愛している・・・これからもずっと。あとは任せてくれ俺たちが夢に見た理想郷を君の分まで作って見せる。だから・・・いつかお前が見ても笑われないように・・・立派なものにしてみせる。イノリも任せておけ、俺が立派にどこに出しても笑われない立派なお姫様にしてみせる。心配しなくてもいい・・・でも俺は君がそばにいてほしい。行かな・・・」
ふふ、それより先を言われたら私の思いを無駄にしちゃうわよ。そんな自分に正直なあなたが好き。
■■は人差し指を立てるとクリスの唇に押し当てた。
けれどクリスは他の言葉を紡ごうと必死になっている。この時間を終わらせないように。
でも残念これじゃあ私が残す言葉の時間が無くなっちゃうじゃない。ここは申し訳ないけど次は私の番ね。私だってつ当てたいことはあるもの。
「あなたの番はおしまい。次は私の番ねあなたは私に短かったけれどとても幸せな時間を味合わせてくれたこれはこれまで生きてきた中で一番尊くて大切な時間だった。私は口下手だからあなたみたいにすらすらと言葉は出てこないけれど最後にこれは言わせて愛しているわクリージスこれからもずっと。イノリのことをよろしくね」
■■がいい終わると同時に魔法陣がより一層強い光を放ち世界から魔族と人間を分かつ結界ディバイドが消滅した。
ーーーこれは一人の魔王が自分の身を犠牲にして、平和を願いそして世界に希望を残したそんな一人の少女の物語。後に語られる物語は一人の少女が魔王が歩んできた軌跡を追い求めながら気ままに旅をするそんな物語が始まろうとしていた。