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プロローグーーー平和の世界を求めた一人の魔王(2)

背後から急に声を掛けられたのでリタは悲鳴じみた声をあげながら肩をビクリと震わせた。


「急に話しかけないでよ。ふふ、ようこそ我が魔王城へ。歓迎するぞ。あなたそんなだらしない顔をしてどうしたのかしら勇者らしくないわね。ぷっ」


勇者こと私の旦那。名前はクリージス・サイエスティア愛称はクリス。


漆黒の髪に燃えるような綺麗な深紅の瞳を持った美丈夫で少し怖いと印象付ける顔をしていて、最初はこの私でも少し恐怖を覚えたものだ。体つきは非常に良く日頃から剣を振るっているのだと分かる。赤いマントに胸当て腰には剣を携えていて騎士らしい恰好をしていた。


クリスは■■に抱かれているイノリに目が釘付けになっており、怖いと感じる原因である引き締まった顔がとろんと愛するものを見るかのように眺めていた。


可愛いところもあるのね。心のカメラで写真を撮っておかないと・・・カシャ!


■■はイノリを抱きかかえながらゆっくりとクリスの元にふらつきながら歩いていく。


「あっ」


ふらついていた足がもう片方の足に引っ掛かり体が思いっきり傾く。


「ッ!」


クリスは素早い身のこなしで私の腰を支えた。


すると心配そうな声でチョップしながら呟いた。


「無理をするな、■■。お前は病人なんだから」


「無理をしているつもりはないんだけどね。でも・・・イノリがいるから気を付けないとね」


クリスは呆れながらため息を吐いた。


「イノリがいなくても、だ」


クリスを見上げるけれど目が霞んでよく勇者がどんな表情をしているか分からない。


クリスがここにいると確認するように空いている手をゆっくりと上げてクリスの顔を撫でた。


すると、いつも引き締まっている顔がより厳しいものになっている気がする。


■■は目でクリスを見るのを諦めると魔力視に切り替えるするとクリスのシルエットが浮かびあがり青色の魔力が彼を包み込んでいるように見える。


魔力は人を写す鏡。


魔力は感情によって様々な色に変化する。


例えば赤色だったら怒り、青色だったら悲しみ、黄色などの暖色系はうれしいとかいい感じの感情。そのほかも色々ある。


イノリを見ると黄色い魔力が包み込んでいた。つまり嬉しいや楽しいと思ってくれているということ。


使いずらいと思うところは一つ自分の魔力の色がどんな感じか分からないということかな。


「どうしたのよ。私の旦那さん。そんなに悲しい顔をして」


■■がそう言うと、より一層クリスの青い魔力の色が濃くなっていく。


「残念だな。おれは今・・・変顔をしているんだぞ」


そう言うと一粒の雫が私の頬に落ちてきた。


「あなた・・・泣いているじゃない」


クリスの顔に手を当てると暖かい涙が■■の手のひらに流れてくる。


「泣いてない。これは雨漏りだ」


■■はクスクスと笑うと


「そうなのね。そうかもしれないわね」


そういえばここにクリスが来たということは、ついにこの時がやってきたのね。私の命の灯火が燃え尽きる前でよかったわ。


■■はそっとイノリのおでこに口づけをした。


イノリの魔力が茶色に変化した。


この魔力の色は・・・困惑なのかしらね。顔が見れなくて本当に残念ね。


いつも口づけをするときは嬉しそうなのに今回は困惑してるのね。やっぱり赤ちゃんは何か感じとることができる特殊能力的なものがあるのかしら。


もしかしたらもう、魔力視が使えるのかもね。


「イノリ今回あなた伝えたいことがあるの聞いてくれる?」


イノリは「うん」と言わんばかりに■■の指を力いっぱい握った。


「そう、ありがとうね。まずこれは最初に言わせてね。生まれてきてくれて本当にありがとう」


■■の目からたくさんの涙が流れ落ちた。


これが最後だから・・・ちゃんとイノリに伝えないと。


「次あなたが目覚めた時にはきっと世界を分かつ壁が消えて世界が一歩づつ平和に近づいていくはずよ。私はその光景をあなたの隣で見ることが出来ないけれど・・・もし、私に次があるのならあなたの隣でその光景を見守りたい・・・な。イノリと過ごした日々はとても長いようで短い時間だったけれど私にとっては本当に・・・本当に大切な思い出だった」


■■は涙を裾で吹いてこれまでで一番の笑顔を作った。


別れたくない・・・別れたくないよぉ。


でも!


「あなたは私を覚えていないかもしれない。けど私はあなたを覚え続ける。何年たっても私はきっとあなたにまた会いに行くから・・・ここではほんのお別れ、私は本当に幸せでした。あなたの太陽のように眩しい笑顔、ぬくもりを私はずっとあなたを覚えているから。生まれてきてくれて本当にありがとう。愛しているわ。そしてさようなら・・・イノリあなたの吹くな運命は私が全部まとめて背負っていくわね。これが最後に私があなたにできることだから   スリープ」


■■が魔法を唱えるとイノリはスース―と寝息を立てて寝てしまった。


そのままアスタにイノリを預けようとしたけれど先ほどから握っていた人差し指を眠っているのにすごい力で握っていて、手を抜こうとしても離れない。


「どうしようかしら、イノリ私から離れたくないみたい。・・・こんなにうれしいことはないわね」


■■は口では困っているように見えるけれど顔はとても嬉しそうな顔をしていた。


「■■は口では離れないとって言ってるけど顔はイノリと同じで離れたくない顔してるぞ」


「ええ、そうね本音を言うと離れたくないもの。けど私の死がこの子の未来につながるなら私は喜んで死ぬわ。結局なにも残せず死ぬ運命のはずだった命だもの。私に残された時間は少ない・・・そんな私でもイノリとあなたの役に立つことができる。こんな嬉しいものは無いわ」


クリスは泣かないように必死に唇をかんで我慢していた。


「そうだな」


■■はいいことを思いついたと言わんばかりの笑顔になると


「ねぇ、クリス一緒にイノリの手を外してあげましょう?人差し指は願いや夢の象徴と言われているのだからこの子の願いを込めながら外してその願いを世界に解き放ってあげましょうよ」


なんの願いにしましょうか?ここはやっぱりこの子の健康?それは安直すぎるわね。


やっぱりこれね。


クリスのほうを見るとすでに願いは決まっていたようで私の方を見て頷いた


「じゃあ、二人で同時に言いましょうよ。言霊魔法というものもあるしきっと言葉にはすごい力があるのよ言葉にしたらきっと・・・」


「みなまで言わなくて分かってる」


クリスから赤っぽいピンク色の魔力を感じた。


ふふ、どうやら恥ずかしがってるみたいね。


■■は片方の手でイノリの手を握った。


クリスも続いてイノリの手の上に手を乗っける。


「ふふ、じゃあ行くわよ。最初で最後の家族全員での合同作業ね」


「「いつかまたみんなで過ごせますように!!」」


■■とクリスは少し驚いた顔で見つめ合ってぷっと噴き出した。


「まさか同じ願いだとは思いもしなかったわ」


「心は通じ合っていたということだな」


「イノリも同じ願いだったらいいなぁ」


クリスは■■の手の上にそっと手を重ねると


「きっと同じ願いだ・・・だって俺たちの子だもんな」


■■は再びアスタに向き直ると優しくイノリを差し出す。


「あとは任せたわねアスタ。私の分までっ支えてあげてね」


今私は笑顔でイノリを送り出すことができているのかしらね。


アスタは神妙な面持ちでイノリを受け取ると深々と礼をした。


「魔王・・・いえお嬢様忘れたんですか私がここまであなたを育てたんですよ。お嬢様の分まで可愛がって育てますので」


「ふふ、あら最後のは皮肉かしら」


■■がそう言うとアスタはそういうわけではと慌てていた。


ふふ、最後までぶれないわね。


その光景を見ていると目から大粒の涙が零れ落ちた。


ふふ、今なら断言できるこの涙はイノリと別れるのが寂しくて心からあふれ出してしまっているのだ。でも、今更やめるという選択肢は私にはない。これは私にしか出来ないことだから。


この私に宿っている魔王因子と一緒に・・・世界を破壊することしかできないと思ってた力で世界を救えるのなら。


この力で世界を平和にできるように・・・


「じゃあいくわよ。私の旦那様」


「あぁ、今更言うのは違うと思うが別に今日じゃなくても明日でもいいんだぞ」


どうして今更そんなこというのよ。決意が揺らいじゃうじゃない。


■■はゆっくりと顔をクリスの顔の近くに寄せる。


「ん!?」


クリスは薄っすらととても悲しそうな表情をしているのが見える。


どうしてかしらね。今日はとても天気がいいはずなんだけどみんなの顔は晴れないわね。


「これ以上先延ばしにしても私の灯火がいつ消えるかわからないもの。今日かもしれないし明日かもしれない。出来る時にやらないと」


「それもそうなんだが・・・それでも私は・・・」


クリスは苦しそうな顔でそっと暖かくて大きな手が■■の冷たい頬を包み込むように撫でた。


「■■、お前・・・」


「ほら、子供みたいにごねないの。タイムリミットは短いかもしれないのよ」


「キャッ」


クリスは■■が言っていた意味を理解すると腰と肩をそっと持ち上げてお嬢様抱っこをした。


「軽いな・・・」


「ご飯はたくさん食べているつもりなんだけどね」


首だけはアスタとイノリに向けると■■は震えた声で


「アスタ、イノリ元気でね」


「はい、お嬢様」


アスタは深い礼をするとイノリを抱きしめながら■■が見えなくなるまで見続けていた。


アスタとイノリが見えなくなった途端我慢していた涙がブワッとあふれてきた。


やっぱり別れというものは何度経験していても慣れないなぁ。


「ほら、そんなに泣くな」


クリスはそう言うと大雑把に■■の涙を羽織っていたマントで拭いてあげていた。


「別れは笑顔でだろ。これはお前が俺に教えてくれたことだぞ」


「ふふ、そうだったね。お別れは一度きりだから最後は笑顔でいないとね」


■■気合を入れるために頬を力いっぱいに叩いた。


「痛ッッッ」


■■が痛みのあまり叫ぶとクリスが慌てたようで問いかけた


「どうした!?」


忘れてた。そういえばイノリに頬をめっちゃ叩かれてたんだった。なかなか強い力で叩いていたから余計に頬がピリピしてめっちゃ痛い。これ分かるいるかな。


「いやさっきね・・・」


■■が説明し終わるとクリスはとても安堵した顔をしていた。


「はぁ、心配して損した。でも少し安心した。さっきよりも生気を感じる」


クリスは目を細めて優しい顔で■■を見つめていた。


急になんでそんな優しい瞳で見てくるのよ。


不意打ちを食らって■■の顔は一瞬で赤くなってしまった。


こんな時にそれは卑怯でしょ。これじゃ私どこにも逃げ道ないじゃない。これは完全なる詰みね。


「はは、顔がさっきよりも生き生きとしてきたな」


■■は最後の抵抗でクリスから目を逸らすとそれがツボに入ったのかずっとはははと笑っていた。


結局■■もクリスにつられるように笑ってしまう。


「ふふふ」


笑い合っているとやがて目的の部屋に辿り着いた。


扉は魔王の間みたく金属製の扉でとても重そうだ。


もう私には扉を開ける力がないので大人しくクリスの後ろに立っているとクリスは私に最後の確認と言わんばかりに告げた。


「それじゃあ入るか」


「うん」


■■の返事を聞くとクリスは頷いて扉をノックした。

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