プロローグーーー平和の世界を求めた一人の魔王(1)
「ん~~」
今日もいい天気!
■■は玉座に座りながら背を思いっきり伸ばしていた。
ここは魔王城と呼ばれ人間から恐怖の象徴と呼ばれている魔王が住んでいる場所だ。
■■は窓の方へ視線を向けると空は綺麗な赤色の空が広がり雲の一つもなくとても清々しい天気だった。
のんびりと空を眺めているとコン、コンと扉をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ~」
■■がそう言うと大きな金属性の扉がギギギという音を立てながら開いた。
そこには小さな銀髪の赤ん坊を抱えた■■の側近が静かな足取りで入ってきた。
側近の名前はアスタといい、■■が赤ん坊の頃から使えている。体つきは細いが魔族ということもあり、魔力量がとても多く、魔力により体の強化ができるので見た目以上の力を使える。顔つきは好青年といった感じ。小さい頃からお世話になっており小さい頃に亡くなった親に変わりずっと私の面倒を見てきた。実質もう一人の保護者と言っても過言ではない。
そのアスタに抱かれた来た赤ん坊はキラキラと輝く銀髪をしていて■■とお揃いの小さな角がちょこんと生えていた。目は勇・・・お父さん譲りの長く見ているとなんだか飲み込まれそうなくらい綺麗な深紅の瞳をしていて全体的にぷっくらとしていてとても愛らしい。
かわいい~!!やっぱり私がお腹を痛めて産んだ甲斐があったわね。この顔を拝むためならもう地獄だってどんな苦しみも私が背負ってあげたくなっちゃうわね。ふふふ。
でももう私の目じゃ霞んであまりよく見えなくなってきちゃったのがとても悔やまれるわね。
■■はゆっくりと立ち上がってアスタの元まで歩きだそうとした瞬間アスタが大きな声で叫んだ。
「そのまま座ってお待ちくださいませ!我が魔王。自分の体調をきにしてくださいませ・・・私がそちらに行きますので」
アスタは子供を叱る大人のように少し優しさを孕んだ怖い声で言ってきた。
もう~私はもう子供じゃないのに。どんだけアスタは心配症なのかしら。
「大丈夫よ。少しは動かないとそれに私は早くイノリの顔を見ないと死んじゃう呪いにかかっているもの!」
■■は胸を張ってそういうとそのまま立ち上がり少しふらつく足取りでアスタの元まで歩いて向かう。
アスタは心配してた顔から呆れた顔に変わった。
「はぁ、どうして我が魔王はこうも頑固なんだろうな。この子にも遺伝してなければいいんだが」
アスタはふらつきながらこちらに向かってきている■■のほうに歩いていく。
■■はぷう、と頬を膨らませながら
「しょうがないでしょ・・・もしかしたらイノリに会えるのが今日で最後かもしれないんだから」
■■がそう言うとアスタは悲しそうな表情を浮かべていた。
なんであなたがそんな悲しそうな顔をするのよ。ふふ、しょうがないのかもね実際、私が赤ん坊の時から付きっ切りで育ててくれたのはアスタだったものね。普通の人間の感性はよくわからないけれど親より先に旅立つ子供ほど親不孝なものは無いと聞いたことがあるもの。アスタもどこか思うところがあるのかもしれないわね。
アスタの元までたどり着くとイノリを受け取った。
「私の可愛いイノリ。今日もいつもより可愛いわね!」
■■がイノりを抱きかかえると先ほどまで寝ていたイノリが眠そうな目をぱちぱちさせながらゆっくりと目を開いた。
「あら、起こしちゃったかしら、ふふ」
■■は思わずイノリに頬刷りをするとイノリは嬉しそうにキャッキャと可愛い声をあげながら顔をぺたぺたと触っていた。
「あらあら、そんなに私の腕の中が 心地良いのかしら。ふふふ」
ふと■■の目じりから一筋の涙がこぼれ落ちた。
おかしいな。嬉しいだけなんだけどどうして涙がこぼれ落ちるのかしら。
覚悟はしていたつもりだったのに私の心はまだ準備ができてないのね。
これはイノリと離れる寂しさから来る涙なのか死を恐怖する涙なのか分からないけれどできれば前者で有ってほしいなぁ。
「・・・魔王さま」
「どうしてあなたが悲しそうな顔をしているのよ。そのカッコいい顔が台無しよ」
アスタは■■から顔が見えないように静かに俯いていた。
「うぅぅ?」
「あら、どうしたのイノリ?もしかして私を心配してくれているの?」
■■がイノリに問いかけるとイノリは■■を気にもとめないでアスタのほうに向かって手をバタバタさせていた。
その光景を見たアスタは先ほどまで漂わせていた悲しい雰囲気をどこかにしまい込んだのか「ぷっ」と噴き出した。
「ははは、イノリ様は私めの心配をしてくださるのですね。お母さまを差し置いて。将来有望ですね」
■■はぷうと頬を膨らませると
「もう、イノリったらちゃんとママから慰めないと駄目でしょう。待って痛ッ。ねぇ痛いんだけど」
イノリはアスタが笑ったのを確認するとそのまま■■の顔をみて頬を流れる涙をぺチンと叩いた。それはもう思いっきりと。
「ふふふ、やっぱり私の子ね特に空気が読めないところがそっくり痛ッ。でもね限度があるんじゃないかしら痛ッ。そろそろやめないイノリ?ママのほっぺがなくなっちゃう痛い」
もう痛みか寂しさか分からないけど絶えず流れる涙をイノリは手の届く限り叩いていた。
イノリを見ると眩しいくらいの笑顔でキャッキャと言いながらリズムよくなかなかの力で■■の顔を叩いている。
力があるのはお父さん譲り何だろうけどさすがに限度があるんじゃないかしら。それに私譲りの物凄い魔力を持っているし、将来が楽しみね。剣士になってもいいし、魔女にだってなってもいい。私がいなくても将来は大丈夫そうね。
でもそろそろやめてくれないと私のほっぺがなくなっちゃう。