戦車
僕は戦車だった。動かせるのは、キャタピラー(あのタイヤの輪っか)と、頭だけだった。主砲の向きが動かせることを確認していると、突然頭を軽くぶたれた。迷彩服を着て、ヘルメットを被ったサングラスの男だった。そいつは、「何やっているんだ。もう始まるぞ」と言った。始まる?
辺りは、廃墟のような街だった。人はいない。道は砂利ばかりで、草がほとんど生えていない。人によって死んだ街だった。
突然、あたりが轟音に支配された。僕は聞いた事のない轟音に恐怖した。しかし、戦車は固くて、恐怖しても体がすくまない。男が僕の中に入って、僕を操縦した。僕は主砲を構えた。
主砲が向きを変えて、静止する。僕は狙いを定めさせられる。主砲から弾が勢いよく出た。僕は、苦しくてむせ返りそうになったが、戦車は咳が出来なかった。苦しいと思っていると、男が「よくやったぞ」と言った。僕は、弾がどこかに直撃したという感覚を得た。なにかを撃ってしまったんだ。そう思うと恐ろしかった。苦しみと、恐怖に悶えた僕は、逃げ出したかった。出来ることなら、体を自由に動かして、その足でどこかに行きたかった。そう思うと、自分の体、二本の足と両腕が愛おしくなってきた。ああ、帰りたい。そう思ったとき、僕はもう目覚めていた。