異世界初日
目を開けると目の前は大きなスクランブル交差点だった。高層ビルがそびえ立ち人がごった返す、そんな俺が死ぬ前にいた世界そっくりの光景が広がっていた。
「ここが異世界なのか? 前の世界と変わらないような気がするんだが」
「間違いなく異世界よ。中世時代の街並みや魔法使いなんかは期待しないことね。まぁあなたの世界と違うところもたくさんあるけど」
異世界に来てさっそく街を歩きまわっているが特に変わったものは見当たらない。
「あんたさえいなければ……あんたさえいなければ……」
というかさっきからイザナの恨み言がうるさい。
「おいうるさいぞ女神。責任転嫁はクズ人間のやることだろ。お前それでも女神か?」
「うるさいわね。あと、その女神って呼び方はやめて。私にはイザナって名前があるんだから」
「へいへい」
街を歩きだしてからずいぶん時間がたった。今俺たちに必要なのは衣食住。何とか最低限暮らしていけるだけの金が欲しいが。
「何にも当てがないわね」
「だな、これ最初から詰んでるだろ」
別世界からぽっと湧いた俺は戸籍もなければ頼れる人もいない。戸籍がなければ仕事もできないし家にも住めない。
「まあでも、こうやって歩き回っても埒が明かない。どんなところでもいいから住むところが欲しいな」
「そうね。あっ私あそこがいいわ!」
イザナが指さした先にはいくらするかもわからない煌びやかなホテルだった。
「ぶち殺すぞ」
「ひどい!」
くだらないボケしやがって。
「だ、だって! 女神だったらあれくらいのところに住むべきじゃない? ほら、私女神だし!」
どうやらボケや冗談じゃないらしい。この女神は今までどういう育て方をされてきたのだろうか。
「あのな、バカも休み休み言え。今の俺たちがどうやってホテルなんかに泊まるんだ。それよりもっと格安で確実な方法がある」
「ねえ、私嫌な予感がするんですけど」