4章 不自然な犯人③
田中達ITチームが真犯人の正体を調べている間、筑波と海道は特にする事がなかった。仕方がないので、休憩所で時間を過ごすことした。
休憩所は警察署の1階の奥にある。普段は何人かの警察官がいたりするが、たまたま他に誰もいなかった。
今、この場にいるのは筑波と海道の二人だけだった。
海道はお茶を飲みながら言う。
「なあ、筑波」
「なんだ」
「なんでさっき、田中の奴を責めなかったんだ。遠隔操作ウイルスの可能性がある事は、本来ならもっと前に気づくべきことだったのではないか。彼らはコンピューターの専門家。知識も技術もある。俺はコンピューターの事はよくわからんが、田中の口ぶりからさっするに、遠隔操作ウイルスというのは技術者の間では常識とでもいえるものだろう。もっと早くわかっていれば、五十嵐を誤認逮捕しなくてすんだはずだ」
「確かにな。君の言うことも一理ある」
「そうだろ。だったらなんで、責めない」
ここで、筑波は数秒間腕を組んで考えた。そして、言う。
「ログ削除ソフトいう常識外・規格外のソフトという存在に気をとられてしまった。そのせいで遠隔操作ウイルスの存在など普通は考えない。少なくとも、俺は考えなかった。仮にITチームのリーダーが田中ではなく、他の警察署のITチームであっても同じ結果になっただろう。それぐらい、ログ削除ソフトというのはインパクトのあるものなのだ」
「サッカーでたとえるなら、ゴール決めていた奴のことは試合後も覚えているけど、特に活躍も失敗もしなかった奴の事は覚えていないって・・・ところか」
「例えががよくわからんー」
「うるさい!」
「君のたとえはともかく、そんなところだ。だから、それに気づかなかったのは、ミスでもなんでもない。確かに後から考えれば、もっと早く気づけよと、思えなくもないが、あの時点では仕方がない事だった。あと、この点に関して田中を責めた場合、我々の気持ちはすっきりするかもしれないが、田中はやる気をなくす可能性がある。もちろん、露骨に仕事を投げ出したりはしないだろうがな」
「そうかー。俺だったら、なにくそーと思ってさらにやる気がますけど」
自分の常識に当てはめて考えてみる海道。海道は逆境ほど燃えるタイプだ。
「それは君の場合だ。ただ闇雲に責めればいいというものではない」
「そんなもんかー」
「そんなものだよ。海道。人をうまく使うというのは相手に合わせないといけない。もちろん、田中が君みたいなタイプだったら、ガンガン責めていたがね」
「ふーん。ややこしいね。人付き合いって。俺にはそういう小難しいことはわからん」
海道はそういう気配りが好きでなかったし、しない方だ。だから、署内でも敵が多いが、海道はそれを気にしない。署内にある派閥争い、足の引っ張りとかめんどくさくて仕方がない。警察は、犯罪を取り締まるものなんだよ。当然、その意識は当然、外に向くべきであって、内側に向けるべきものではない。
「とりあえず、今日は帰ろう。このところ、残業続きだ。たまにはそうしたほうがいい」
そう言って、筑波は飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に投げた。缶コーヒーは見事、ゴミ箱に入った。
「お前にしては、珍しいな。いつも残業ばかりなのに・・・」
働き方改革が必要と言われて数十年たつが日本人はいまだに働き過ぎの傾向がある。筑波もその一人だ。
「現状では田中の能力を信じるしかないので、正直、やる事がない。それに、休んでおかんと犯人逮捕の時にまともに動けないと困るしな」
「わかった、帰りましょう」
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