4章 不自然な犯人②
海道と筑波はITチームの所にやってきた。彼らもここ数日、今回の事件の事でいろいろやっていた。彼らもここ最近、残業続きで満足に寝ていなかった。
「やっとわかりました。そうです。操られていたのですよ」
筑波は部屋に入るなり、大きい声で叫ぶ。
「操られていた・・・あっ、そうか。なるほど。それを見落としていたか」
ITチームのリーダーは、筑波の一言で全てがわかったようだ。
「おい、どういうことだよ。二人だけで盛り上がられても、困るぜ。俺は」
海道は言う。海道はいまだに事件の謎がとけていない。
「操れていたのだよ。海道」
「えっ、でもさっき、その可能性を否定しなかったっけ?」
「いや、だから、操れていたのは、五十嵐本人じゃなくて、五十嵐が使っていたパソコンだよ」
「えっ?さっぱりわからない」
海道は思わず眉をひそめる。
「私が変わりに説明します」
と、ITチームのリーダー田中は説明役を買って出てくれた。
「真犯人は遠隔操作ウイルスを使ったということですね。一般的にボットウイルスと呼ばれるものです。このボットウイルスに自分のパソコンが感染すると、ボットウイルスをとおして、ハッカーによって、そのパソコンが遠隔操作しまうのです。
人形でたとえて見ましょう。遠隔操作ウイルスに感染されていないパソコンを普通の人形だとすると、ウイルスに感染したパソコンは、操り糸がついた操り人形といえます。操り人形は操り糸をとおして自由に動かされていますよね。ここまではわかりますね」
「ああ」
「それと同じ事です。ウイルスに感染すると、遠隔操作ウイルスという名の糸によって、ハッカーに自由自在に操られるのです」
「じゃあ、今回の事件はそのハッカーが犯人なわけか?でも、待てよ。俺はパソコンに詳しくないけど、ウイルスというのは、変なサイトを見たり、宛先人不明の怪しげなメールを開かないと感染しないのではなかったのでは?」
「一般的にはそうです。五十嵐の場合、セキュリテイソフトも導入していました。このセキュリテイソフトは大手メーカーが作ったものなので、わりとしっかりしたものです。余談ですが、うちの警察も同じメーカーのセキュリテイソフトがインストールされています
五十嵐はネットを普段使用せずに、使用したとしても、今日の天気やニュースを閲覧していただけと証言していますし、ログを調べて見ても、そうでした」
「なら、感染しないのでは?」
「そうでもないんですよ。今から調べてみないとわからないですが、おそらくネットワーク感染型でしょう。犯人は五十嵐のパソコンの脆弱性を利用したのですよ」
「脆弱性?」
オウム返しに聞く海道。またよくわからん単語が出てきた。
「脆弱性とは欠陥ですね。もっと分かりやすくいえば、そのソフトのセキュリテイーの弱い所といえるでしょう。メーカーがソフトを販売する時に、当然徹底的なチェックを行います。その段階で問題が見つかればそれは修正します。
理想をいえば、販売されたソフトに問題があってはいけないんですね。でも、パソコンのソフトというのは複雑なものです。販売後、プログラム上の単純なミスはもちろんのこと、予想もしなかったエラーが見つかるんですね。それがあると、その脆弱性をついて、ウイルスが感染してしまうんです。」
「それって、変なサイトを見たり、宛先人不明の怪しげなメールを開かなくてもか?」
「そうです。そのままにしておくと、ネットにつないでおくだけ感染してしまいます。メーカー側も当然、これをほったらかしにはしません。セキュリテイパッチという脆弱性をなくすものをネットを通じて配布するわけです。これを自分のパソコンに入れることによって、脆弱性がなくなり、問題がなくなるわけです。
ただ、五十嵐の場合、パソコンの使用頻度が非常に低かった。次に使用するまでの間が長すぎた。だから、このセキュリテイパッチ更新作業がしていなかった。正確に言えば、更新作業が遅れた。だから、その間に脆弱性を利用されてウイルスに感染されたと考えられます。
今回の犯人はログ削除ソフトという規格外なソフトを作った犯人です。仮にセキュリテイパッチの更新作業をしっかりやっていてもウイルスを感染したと考えられます。
考えられると言っても、今の段階では推測に過ぎません。今から、五十嵐のパソコンを調べなおします」
そう言って、田中は五十嵐のパソコンを起動させた。手馴れた手つきでキーボードを叩いていく。画面がいろいろと変化しているが、海道には何が行われているかさっぱりわからなかった。ただ、田中が今言った事が正しいかどうか確認している事はわかった。。
30分が過ぎた。
加藤がこちらを向いて、言った。
「調べ終わりました」
「どうだった」
「やはり、筑波さんの言うとおりですね。遠隔操作ウイルスがパソコン内に入っていました。最初調べた時には、気づかなかったのですが、再度調べてみると、ありました。ほら、これです」
田中は画面を指すが、画面には確かに異常を示す画面になっていた。
「確かにあるなー」
とこれは筑波。
「しかし、これどうして、今までの調べで見つからなかったのだ!?コンピューターのスペシャリストだろ。あんたらは!?」
「うーん、言い訳になるのですが、犯人が遠隔操作ウイルスの削除をしていたからですね。言うまでもないことですが、証拠を消す為に。だから、最初に調べた時にはなかった。しかし、今回は削除されていたソフトやデータの復元を試みたのです。さすがに全部は復元できませんしたが、元のデータが遠隔操作ウイルスだと断言できるレベルでは復元できました」
「ちょっと待て。削除したデータがなぜ復活できるのだ。消してあったのだろ。そのデータ」
海道の疑問はもっともだった。
「その点がよく誤解されるんですよ。パソコンのデータって、なかなか消せないのですよ。削除した・・・・という扱いになっているだけです。本当の意味では消せてないんですよ。イメージとしては、紙に書いた文字の上に白い紙を上から貼り付けたようなものですね。」
田中は文字が書かれた紙を海道に見せた。そこに白い紙を上にのせる。
「ほら、これだと表面上は消えているように見えるでしょう。でも、元の文字は依然として存在している」
田中は例えを効果的に使い、説明した。これなら、海道にも理解できる。
「なるほど。理屈はわかった。でも、その遠隔操作ウイルスを仕込んだ犯人はわかったのか」
「それはまだ。ただ、遠隔操作ウイルスのログをたどれば、犯人のパソコンにたどりつけるはずです」
「それだといいがね。正直、パソコンを特定したが、実はまた真犯人のワナだった・・・では困るんだ」
と、これは筑波。筑波の頭の中には、上司からの説教された場面は思わず浮かぶ。あのような場面は二度と体験したくない。
仕事がスムーズに進まない事自体問題だが、それよりも筑波のプライドが許さない。幼少時よりエリート街道を進んできた筑波。学校の成績はよかったし、運動もできた。大人に怒られた記憶すらない。周囲の友人知人が怒られている所を見ていて不思議だった。彼らはなんて要領が悪いのだろうかとずっと考えていた。
警察に入ってからもそれは同じだった。
そんな筑波の気持ちを直感で田中も海道もわかった。だけど、その点に二人とも触れない。
「それは私も困りますね。確かにこれも真犯人のさらなるワナという可能性も否定できませんが、でも現状、このログをたどるという方法こそが最も真犯人にたどりつける可能性が高いといえます。昔ながらの足を使った捜査で真犯人は捕まえる可能性は低いのでしょう。筑波さん」
筑波は難しい顔をして、答える。
「正直、行き詰っているのが現状だ。五十嵐が犯人ではないと感じてから、改めてあやしい人物を調べなおしたが、犯人らしき人物が見つからない。今後、時間をさらにかければ、出てくるかもしれないが、見つかりそうな気が少なくとも私はしない。だから、一刻も早く、パソコンのログから真犯人を見つけてくれ」
「わかりました。ITチームの名誉にかけて、やってみせますよ。筑波さんだけではなく、こっちも真犯人のワナにまんまとひっかかっているのですから。ここらで汚名返上・名誉挽回しとかないと私らとしても立場がありませんから」
「頼みます」
筑波は深々と頭を下げた。
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