4章 不自然な犯人①
五十嵐の取調べはすぐに開始された。
取調室での取り調べはもちろんのこと、彼のここ最近の行動、友人知人関係まで徹底した調査だった。彼がどうして、ログ削除ソフトというとんでもないソフトを持っていたのかが最大の調査ポイントだったが、依然としてそれがわからなかった。
それどころか、調べれば調べるほどに、五十嵐が犯人とは思えないのだ。彼自身、「自分が犯人ではない」と言い続けていた。
当初、筑波は犯人が捕まったのだから、事件のこれで無事解決とさえ思っていたのだが、そうではなかった。
犯人逮捕からすでに1週間が経過した。それなのに、いっこうに取り調べがすすまない状態にいらだった上層部がついに筑波を部屋に呼び出し、雷を落とした。
その怒りそのものはもっともなので、反論もせずに、筑波は黙って聞くしかなかった。
「ふー」
筑波は、休憩室でコーヒーを飲みながら、ため息をついた。
コーヒーは人の心の疲れを癒すと思っていたが、全然疲れがとれない。
「こってり、しぼられたようだが、筑波」
声がした方を振り向くと、海道がいた。
手にはウーロン茶のペットボトル。彼はコーヒーが苦手らしく、飲んでいるのを見たことがない。
「ああ、いま、終わったところだよ。30分だぜ。30分も説教が続いた。たまったもんじゃない」
「怒られるって、大変だろ。俺なんて、しょっちゅうだぜ。はっはっ」
海道は笑う。
「そこ、笑うとこか。だいたい、君の場合、その生意気な態度を怒られているのだから、自業自得だぜ」
「ま、そりゃーそうだが」
海道はペットボトルのお茶を一口飲み、
「やはり、俺が言ったとおりだろ。あいつは犯人じゃないって、逮捕の時に言ったじゃないか」
「今となっては、君の言葉が正しいような気がするよ。ここ1週間、徹底した取調べをやっているし、その他聞き込みをやっているのに、やはりおかしい。ITチームが突き止めたログからは五十嵐のパソコンからのハッキングをしてきているということなのに、ログ削除ソフトがやつのパソコンから出てこない。これは完全除去ソフトを使って消したと考えられるが、五十嵐はそのログ削除ソフトをどうやって手に入れた。考えられるのは、二つ。自分自身で作ったか。どこかから手に入れたかだ。
まず、自分自身で作ったという可能性を考えてみたが、どう考えても五十嵐にそれだけのプログラミング技術があるとも思えない。文系の大学出身だし、仕事もSEやプログラマーではなく、普通の事務職。これといったパソコンの資格もないし、友人知人関係にもパソコンの専門家はいない。それどころか、おとなしい性格のせいか、友達もやたらに少ない。
もう一つの可能性である、どこかから手に入れたというものだが、それもない。真っ先に考えたのが、ネットを通して・・・例えば、違法なサイトにアクセスしてのソフトをダウンロードという可能性を調べたが、それもなし。それどころか、プライベートではパソコンをほとんど使っていないようだ」
「つまりは、ログ削除ソフトを五十嵐が持っているのはおかしいということだな」
「そういうことだ」
「なら、やはり犯人は他にいるということに」
「そう思うが、なら犯人は誰なんだ。犯人が他にいるとしたら、ハッキングのログはどう説明する。まさか、真犯人が五十嵐の家に忍び込んで、五十嵐のパソコンを使っているわけではあるまい。五十嵐に確認してみると、パソコンはリビングに置いてあり、その横でテレビを見ていたので、仮に誰かがパソコンを使っているのであれば、絶対気づくと言っているんだ」
と、ここまで言って、筑波は大きくため息をつく。
まるで出口のない迷路にいる気分だった。今までも事件の捜査をやってきたが、途中で行き詰ることはあっても、少し頑張ると突破でできた。壁を突き破れた。
口にこそ出さないが、筑波自身、要領のいい人間だと自分のことを思っている。それなのに、なぜ捜査は行き詰るのだろうか。
自分が無能だからか。それとも犯人がよほど優秀なのか。どっちだ!?
などという事を頭の中で考えた。
「実は真犯人が別にいて、五十嵐を催眠術か何かで操っているとか。いや、さすがに無理か」
海道は思いついた事を言った。
本当にただの思いつき。深くは考えて出た言葉ではない。しかし、これが突破口になった。
「いや、無理だろう。催眠術で仮に操れていたとしても、操られる側の・・・この場合、五十嵐がパソコン操作に詳しくなければならないが、彼は全くの素人だ」
「うーん」
海道も腕を組み、悩み始めた。
「いや、待てよ。操るかー。そうか。その手があったか」
筑波は大きな声を上げる。
その表情はとても明るい。さっきまでと別人だ。
「えっ?どういうことだ?」
海道にはさっぱりわからない。
「謎がとけたよ。これで真犯人がわかる」
「本当か。それは誰だ」
「まず、ITチームの所にいこう。詳しい話はそこでする」
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