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ライフル暴走  作者: 河田 げんずい
16/21

3章 筑波の作戦②

 ITチーム・・正式名称 情報犯罪対策部は署の地下1階にある。情報を扱う部署だから、他の部署とむやみやたらに交流させない為にこの位置なのか。単にこの部署が署長に嫌われているからなのか原因は定かではないが、とにかく地下1階にある。

 当然、窓もない。明かりはついているので暗くなかった。中には最新鋭の機械がたくさん置いてあり、独特の空気だ。

 海道が部屋に入った時には、既に筑波は中にいた。その周囲にはITチームの人間が数人いた。

「待たせたな」

と、海道は部屋に入るなり言った。

「海道。ちょっと来てくれ」

 筑波に言われるとおり、海道は筑波の所に行く。筑波の指はパソコンのディスプレイを指していた。そこでは何やら難しい専門用語が並んでいる。

 海道はコンピューターに詳しくない。日常生活で使うレベルならともかく、専門的な事は詳しくない。

「さっぱりわからない」

「要するにだ。この10台のコンピューターで本部サーバーを監視しているわけだ。異常があれば、この画面のところが今は青だが色が変わる」

 筑波が指差すところを見ると、確かに現在青色になっている。

 海道の説明は続く。

「赤色になるのだ。そうすれば、すぐにここにいるITチームがハッキングしているパソコンを調べるのだ。1人ではさすがにしんどいが、10人いればなんとかなるはず。相手の持つログ削除ソフトがどの程度でログ削除を完了するのかはわからない。20分かもしれないし、それより短いかもしれない。しかし、これだけのメンバーがいれば、それまでに相手のパソコンを特定できるはずだ」

「相手がいつハッキングしてくるかわからないから、これは持久戦になるな?」

「ああ、だが、相手は相当な技術の持ち主だし、それゆえに自信を持っている。慢心していると言っていい。だから、それほど時間がたたずにハッキングをかけてくるはずだ。それまで待っていよう」

「待っているって。俺とお前のすることは特にないのか?」

「はっきり言ってない。私はコンピューターに詳しいほうだが、あくまで素人の中でいえば詳しいほうなだけだ。ここにいるITチームの前では役立たずだ」

「じゃ、今座ってパソコンを見ているけど、単に見ているだけなわけだ」

「そのとおり。ま、自信満々に言う言葉じゃないけどな」

 筑波は苦笑いしながら言う。

「我々のやる事は、彼らの活躍の後だ。パソコンが特定できれば、犯人もおのずと特定できる。犯人逮捕の時こそ、俺たちの出番だ。あと、いい忘れていたが、お前への処分は本日付で解除された」

「解除か。よかった」

 海道にとって、二人への射撃指導はそれなりにやりごたえのあるものだったが、やはり苦痛だった。謹慎している間に何もできないというのはたえらないのだ。

「苦労したぞ。謹慎解除は。私一人では上はうんといってくれなので、ちょっとコネを使った」

 筑波は社交性がある人物なので、この署だけでなく、本庁にも顔が利く。それを使った。今回の作戦だって、筑波の人脈があればこそだ。

「すまんな。なんか、今度。おごるから」

 海道は軽い口調で、礼を言う。

 筑波の口から説明されている通り、今回の根回しにはかなりの苦労があったのだ。たった1回ごはんをおごる程度のお返しでは割りにあわないのだったが、筑波はもちろん、そんな事は口にしない。


 何もしないで待つのはしんどい。

 筑波の言葉だが、確かにその通りだった。ITチームはいつくるかわからないハッキングに対して瞬時に行動しないといけない緊張感があったが、筑波と海道は何もやる事がない。ただ、ぼーと画面を見ているだけなのだ。時計を見て見ると、午後9時だった。既に3時間が経過している。

「まだかー」

 と、いい加減、海道は待っているのに飽きたようだ。

「あせるな。とにかく今は待とう。こういうのは落ちついて待つ。それが一番だ」

 と、これは筑波。筑波らしい優等生発言だ。

 さらに1時間待った。部屋内をひたすら沈黙が支配していた。

「あー、まだかー」

 海道が再び不満をもらした。

 その時だった。画面の色が青から赤に変わった。

「ビンゴ!」

「きたー」

「これは!?」

「赤色に」

 と、口々にITチームのメンバーがつぶやく。

 途端に彼らの表情が変わった。待機状態から戦闘状態の顔へ。その指先は高速で動き始めた。目的を達成する為に。

「お、やっときたのか。ハッキングが」

 海道も状況がわかったようだ。俄然テンションもあがってくる。

「そのようだな」

 一方の筑波は常に冷静だ。

「おし、いけいけー。犯人を捕まえろー」

 海道は、まるで子供のように叫ぶ。静かな室内なので、声が部屋中に響き渡った。

「静かにするんだ。海道。これじゃ、彼らが集中できないだろ」

 筑波は海道を軽くしかった。

 すぐさま、海道は「すまん」と言って、黙った。

 かたかたとキーボードを叩く音だけが部屋中に響き渡る。静かだけど、非常に高度な戦いが繰り広げられている。海道は何もできない自分にいらついた。

 20分が過ぎた。

「おし、わかった」

 突然、ITチームの一人が大声をあげた。

「どうした」

 海道だけでなく、筑波もその男にかけよった。

「ほら、見てください。IPアドレスがわかりました」

「なに、IPアドレスが。やったー」

 筑波は思わず、ガッツポーズをとった。しかし、海道にはなんのことだかわからない。

「IPアドレスとはネット上の住所のことだ。つまり、これがあれば相手のパソコンが特定できるということだ」

「ということは・・・」

 期待をこめて、海道は聞く。

「犯人はほぼ特定されるだろう。ただ、厳密に言えば、どのパソコンからハッキングがおこなわれたかがわかるだけなので、これだけではしぼりこめないかもしれない。例えば、問題のパソコンが家族共有のパソコンであった場合、そこの住人であることは間違いないだろうが、その誰が犯人かはこれだけではわからん。ただ、それでもちょっと捜査をすればいいのではないか犯人はわかるだろう。一番いいのは、犯人が一人暮らしの場合だ。これなら、パソコンさえ特定できれば動かぬ証拠となるからな」

「で、犯人はわかったのか。どこのどいつだ」

「あわてるな。今、それをITチームが調べているはずだ。そうでしょ」

 筑波はITチームの方を向く。

「もちろんですよ。警察にはIPアドレスから、住所を特定するソフトがありますので、今それで住所と、出来れば犯人も割り出しているという最中です。筑波さんの言うとおり、一人暮らしなら、一発で犯人がわかるのですが」

しばらく待つと、答えがわかった。

「筑波さん、海道さん、わかりました。犯人の名前は五十嵐徹です。一人暮らしなので、おそらくパソコンは本人しか使っていません。過去に犯罪歴はありません」

 興奮した声でITチームの一人が言う。

 ITチームのメンバーは、コンピューターというものを扱っているせいなのか、感情的にならない人物が多い。常に冷静なのだ。そういった人物でも、世間をこれだけにぎわした犯罪逮捕に関してだと、つい興奮してしまうようだ。

 「犯罪歴がない。やはり、そうか。前科のあるものを調べても、該当者が見つからないわけだ」

 筑波は言う。

 筑波にとってみれば、これは予想通りの結果だった。驚きはしない。

「詳しい経歴はわかるか?」

「ちょっと待てください」

 ITチームは、キーボードをたたき始める。少しすると、加藤武に関する情報が画面に出てきた。液晶画面を海道と筑波の方に向ける。

「さすがに前科のない人間だったので、警察のデータベースには、資料が載っていませんでしたが、人材バンクに問い合わせた所、資料が届きました。それがこれです」

 画面には、加藤武の詳しいデータが載っていた。

 筑波は、それを読み上げる。

「五十嵐徹 29歳 男性。龍人大学を22歳で卒業後、東京都都庁勤務。入庁後一貫して、事務職。パソコン能力にはそれほどでもないが、まじめな人柄だと周囲からの評判はいいが、その反面、秀でた能力はない」

「ちょっと待って。龍人大学って。どこ。聞いたことない大学だな。公立?私立?どっち?」

「私立大学だ。15年前に出来た大学で、それほど偏差値は高くない。確か、52ぐらいだったかな」

 偏差値重視の教育の問題点が何度か議論されたが、未だに偏差値は大学の優劣を示す数字として示されていた。偏差値高ければいい大学で、低ければ、駄目な大学。そんな単純な考えた方が未だに世間では中心だった。中学高校でも「より偏差値の高い大学を」をモットーに授業が行われた。

 偏差値が低い大学もしくは中卒でも優れた業績を残すものも中にはいた。しかし、だからといって、そういった人間を数値では表現できない。結果として、偏差値はいまだに有効な数値だった。理由は簡単。他に、変わるものがなかったし、数字という目に見えるものなのでわかりやすいからだ。

「52・・・平均よりちょっと上か・・。うーん、この経歴を見る限り、今回の犯人とは思えないのだが。今回の事件って、高度なパソコン技術が必要なのだろ」

「そのとおりだ。一見すると犯人には思えない。しかし、そこが盲点だよ。こういう人物だからこそ、今まで我々は容疑者リストには、こういう系統の人物は載せなかった。五十嵐がどこでこれだけのパソコン技術を取得したのか疑問に残るが、それは捕まえてみればわかるというもの。取調室にて徹底した尋問をすれば、いずれ容疑を認めるに違い。IPアドレスという重要な証拠がこちらにはあるのだから、言い逃れはできない」

「うーん、本当かな。どうも腑に落ちん」

 海道はどうも納得できなかった。これといった根拠があるわけではなかった。はっきりいって、勘だ。パソコン技術も犯罪捜査知識も筑波の方が上だから、これ以上反論する気もなかったが、釈然としないものがあった。

「全ては捕まえてからだ。逮捕状の申請をしてくる。すぐに許可が下りるだろうから、おり次第、いくぞ。海道」

 筑波は海道に一緒に逮捕に行く事を誘った。

「あいよ」

 まだ頭の中は疑問だらけだったが、逮捕に一緒に行く事に決めた。


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