幸せの黄色いキッチンカー8
「ソース。ですか。うーん」
と店主は思案顔だ。
「いやな、コイツラにも当座の仕事、必要だろ? 粉物系なら俺が教えてやれるから飲食やらせたいんだよ。でもそれだとソースとか要るだろ?」
「そうなると麺も入りますね。さてどうしたもんかな……」
「礼はするぜ金は…… あんまないけどなんなら借りて払うしS資金からでも引っ張るぜ?」
「S資金?」
「正確には聖女の給料…… でもないな。え~っと俺こんなでも一応聖女様で魔王討伐の勇者様一行の随員で神殿のお偉いさんなワケでな? 俺用の予算とかあるんだよ。例えば式典で着るドレスとか買う資金なんだがある程度は私用の流用は認められてる。今回はガチな私用だから借用してから後で稼いで返す感じだけどな」
「なるほど取りっぱぐれは無さそうですね」
「お、ならいいのか?」
「元のソースを作ってる所は有ります。けどそこもあんまり沢山は作ってなくて商用はほぼないんです。流通もしてません。後、ついでに言うとそこからオレがアレンジ入れて調味してます。麺の方は…… この島だと多分かんすい、重曹が手に入りません。探せばあるかも知れないですけど……」
店主は少し迷ってそう返した。
おいおいおい。さらっとコイツとんでもない事言ってんぞ。この島には無い…… だと? じゃあどうやってお前はそれを手に入れた? 島同士の間は竜に乗って空でも飛ばなきゃ行き来なんて出来やしないぞ。大型の海魔がいるからだ。船もあるっちゃあるが連島間ならともかく本土とかまでならかなりの命懸けだ。だからこそ俺は竜に咥えられて九竜連島にやって来たんだ。
突っ込みてぇ。がその辺も含んで教えてくれてんだ。此方がつまらん詮索なんぞしないと思って関係無い連中の為に店主なりに真面目に考えて協力してくれてる。
俺は口を噤んだ。
店主はそんな俺を見て少しほっとした様子で続きを続ける。
「……どうしてもと頼まれれば運ばなくも無いですし、此方のレシピの公開もまぁ構いません。レシピの一つや二つ教えてもオレ達ずっと此処で商売するわけじゃないから競合はしませんし。それはいいんですがでもオレ達にも色々用がありますから毎回確実定期的に卸せ。と言われてもちょっと困ります。現実的ではないかなと」
「そっか…… いい思い付きだと思ったが現実甘く無ぇなぁ」
「いや、そう悲観したもんでも無いですよ」
「えっ」
「塩焼きそばというのも有りますから」
「塩焼きそば!」そういうのが有るのか!
「ええ。そして焼きそば麺が無いならうどん食べれば良かろう! なのですよ!」
「おお!」マリー・モモトワネット!?
「そして島なのですから海鮮を使います!」
確かに沖にデカい海魔がいて本格漁業はなかなか出来ないか浜で地引き網は引いてるし潮干狩りもしてるな。
「海鮮塩ダレ焼きうどん!! 私達が作るべきはコレです!」
「おお! 希望が見えて来たぞ!!」
「そうでしょうそうでしょう。まぁ実際の開発は後にして方向としてはコレでいんではないですか?」
「助かるよそれで報酬だが……」
「一つ借りでいいですよ?」
「笑顔で言うなそれむっちゃ高くつくヤツ!! そうだろ!?」
「いやまさか、そんな無茶なおねだりはしませんよ〜♪」
うふふふ。と笑うモモ。
胡散臭えっ!!
「……まぁいいだろ。どんな事言ってくるか楽しみにしておこうか」
こいつがそれでどんな願いをしてくるのか? という事に興味が出たので受けた。それでコイツの器も知れよう。あ、ちょっとワクワクしてきたな。
「そうと決まればヤガに話を持って行ってくるか」
「こらこらそれはいいですけどねぼすけは返して下さい」
「……この子はもうウチの子です」きゅうと抱き上げ抱き締めた。
「やめて下さい。ねぼすけがおっぱいで潰れるゥ〜」
そんなこんなで宴会終了まで預かれる事になった。
「あんま変な癖付けないで下さいね。その子は大事な預かり物なんですからね?」
「わーってる。わーってる解ってんよー」
「もう」
「あ、そうだ」
「今度はなんです?」
「クレェプ作り方教えてくれ。平和な時代の味ってヤツをさ」
「……はい♪ いいですよ!」
そう言うと店主は心より微笑んだ。
ように見えた。
わらび餅とねぼすけ抱えてヤガのトコに向かう。
事情を説明すると。
「ああっ、なんか何から何まですんません。本当なら若頭の自分がやらんといかんのに」
「まぁまぁ人を使うのも人に助けて貰うのも修業だ、しゅぎょー。じゃあそういう動きでいいな?」
連れてきたねぼすけの顔をむにむにしてやる。変なカオー♪ヘソ天かつ気をつけの姿勢だ。やっぱかわいい。むにむに。
「滅相もない事です。姉御、本当にありがとう」
「まぁ飲めよ」とそこらにあった適当な酒をグラスに注いでやる。
「乾杯だ乾杯」
「そりゃいいですけどなんですその、お椀?」
「菓子だ。酒も入ってる。美味かったから大事に食うんだ。お前にはやらーん」
「いやいいですけどね別に。……じゃあ姉御との再開に」
「お前との再開に」乾杯。グラスと椀を軽く打ち鳴らした。
スプーンで一口頬張る。抑えた甘みと焼酎の旨味と食感たまらんな。アルコールに感じる余韻もいい。
気に入った。これは気に入った。美味し。
「お帰りなさい」と言うヤガに「ただいま」と返す。
その台詞でこの時漸く俺はこの世界に接地。着陸出来た気がした。
「よし、ヤガ! お前との盃、水にすんぞ」
「はぁ? いきなり何を言ってんですか唐突に! オラァ嫌ですよ返しません!」
「何言ってやかる仮にも俺に組み手で勝った男が。だいたいもうお前一端な男じゃねーか。俺みたいな小娘の下に付いてていい男じゃねーよ」
バシバシ肩や背中叩いてやる。あの小さかったガキか頼もしくなりやがって。
「嫌です」
「じゃあ解った。改めて五分の盃結ぼうぜ。俺、聖女様だからな!」
「嫌です。貰った物は返しません」ヤツはプイと顔を背けて俯き言う。
「元々過ぎた盃なんです。俺はコレがいい。俺はコレで…… いいんです……」背中が少し震えヤガは酒を飲んだ。顔は見えない。見ない。
「ったく。しょーがねーヤツだなー」ヤガのデカい背中にふと随分と手を焼かされた昔の弟分を思い出す。
アイツもステゴロ俺より強かったなー。デカかったし。けどしょうもない喧嘩が発展して囲まれ撃たれたトコに俺が白鞘持って駆け付けて、死にそうなトコ助けてやったら妙に懐かれた。懐かしい。
ヤガの背中に背中を預けて座り直す。
「じゃあ、しょうがないなお前は俺の弟分だ」
「……はい」
そのまま二人黙って酒を飲んだ。
俺はわらび餅だけどな!!
何だよ。今日は予想に反して随分楽しい酒になったじゃないか。
そうして俺は新しいわらび餅を口に放り込み、ゆっくりと味わって食べた。
見上げた月が叢雲に隠れた。
取り敢えず聖女編第一節終わり。
二節は近い内に上げれたらいいな(フラグ)。
以下茶番のコーナー
俺「そういや討ち入りでのお前の死因なんだっけ?」
矢場「確か撃たれて……」
俺「だよねー お前もピストルに撃たれたら死ぬよねー安心した」
矢場「あ、いやそこは学習したんで防弾チョッキ着てました」
俺「はぁ? じゃあどうして……」
矢場「あ。思い出しました。アサルライフル持った小隊に掃射食らったんでしたトドメは動きにくくなったとこに手榴弾」
俺「あの爆発お前だったか……」
矢場「ただの人間にオーバーキルですよね」
折れ「いや寧ろ相手に同情したわ。怖かったろうな」
矢場「ええ本当に」
俺「お前じゃねーわ」




